3.賊・孤児とおっさん―3
「……へっ、手間取らせやがって」
「おっ、まだ息してんぜ、こいつ。ゴキブリ並みの生命力だな」
動かなくなったグルゥに対し、若者達はそれ以上攻撃を加えることはなかった。
今は生きていたとしても、巨漢に踏みつけられて立ち上がったものなど、今まで誰一人もいなかったのだから。
「おい、キットのお仕置きは後回しだ。さっさとここから離れた方が良い気がする」
「そだな……おいデブ、キットを捕まえてさっさと荷車にぶち込め。面倒なことは後回しだ」
キットは戦慄していた。
頼みの綱であったグルゥはついに力尽き、自分のせいで、頼りにしていた大人を失うことになったのだと。
もう、どうすればいいのか分からなかった。
このまま黙って、大人たちに捕まりお仕置きを受け、もとの生活に戻るのか。
それとも、全てを捨て去って、無様にこの場から逃げ出せばいいのか。
だが……ここから一人で逃げ出したところでどうなる?
今まで、大人の言いなりになることでしか生きてこれなかったキットに、そこから先の展望を思い浮かべることは不可能だった。
「逃げ……て」
その言葉は、キットのものでも、グルゥのものでもなく。
「逃げて、キット兄ちゃんっ!!」
荷車の中にいた、子供の一人の言葉だった。
先程、キットが身を挺してグルゥから逃がしてやった、四人のうちの一人だ。
その顔は赤く腫れ、お仕置きを受けた後なのだと分かるが、その目は、キットのことを思う力強い意思が浮かんでいる。




