19.大脱走とおっさん―4
一瞬の出来事だった。
飛び散った紫の血が、ビルブーの足と地面にべったりとついている。
「え…………?」
時間が止まったかのように硬直するキット。
ミルププが、死んだ。
元々変なヤツだとは思っていたが、励ましてくれたり、悪いイモムシじゃないと思っていたのに。
「それにワシはな、豚ではなく猪のつもりじゃい! 二度とその名で呼ぶな……って、もう死んでるか」
ブヒブヒと、ビルブーは鼻を鳴らし豚のような笑い声をあげる。
グルゥはガックリと肩を落としたが、今はビルブーを押さえる手から、力を抜くわけにはいかなかった。
「な、なぁ親父……ミルププは死んだのか?」
「ああ、死んだ。元々、食用のミルワームなんだ。鳥に食われそうになったり蟻にたかられたり、危ない場面は何度もあったが」
「そういうことじゃないだろ。ミルププは、ミルププは……っ!!」
天を仰いだキットは、涙混じりに、大きな声で叫んだ。
「オレの、友達だったんだああああああああああああああああああああああああッ!!」
その叫びに呼応するように、ドーム中のフォルが激しく点滅を始める。
いったい何が起き始めたのか。
それはグルゥもビルブーも、キットすら理解していなかった。
だが、放たれたフォルの光が激しくキットを包み込み、キットは本能のまま咆哮をしていた。




