17.脱走とおっさん―4
そして鉄の扉を開けようとした、その直前だった。
「あっ」
ふと思い立ったように顔を上げたミノンは、自主的にグルゥの腕から降りる。
「ボクはダメだ」
「ん? ダメって……どういう意味だ?」
困ったような顔をして、ミノンはポリポリと頭を掻いている。
「仕事の時以外はここに入っちゃダメだって、そう言われてたんだよ」
「そうなのか。だが、今は非常時だ、私と一緒に居た方がいい」
そう言って差し出されたグルゥの手を――ミノンはついに、取らなかった。
「そうじゃないんだ。きっと、ボクが行くと良くないことが起こる」
「良くないこと……?」
「うん。それはボクにとっても、パパにとっても。だからボクは、ここでお別れをすることにしたよ」
そう言うとミノンは、名残惜しそうにしながらも、下りたばかりの螺旋階段を駆け上がっていった。
「バイバイ、パパ! 楽しかったよ」
呆気に取られたまま、去り行くミノンを見送るグルゥ。
その様子を、サリエラはジッと横目で睨みつけている。
「パパって、どういうことですか? ……隠し子?」
「そ、そんなわけないだろう!? こっちが聞きたいくらいだ、どうして私に懐いているのかっ!」
ほんの少しの間だったが、ミノンとの交流は、グルゥにとっても不思議な感覚の残るやり取りだった。
そして何故だか――また何処かで会うことになるだろうと、そんな予感もしていた。




