17.脱走とおっさん―3
ミノンに次に案内された先は、下層へと続いていく螺旋階段だった。
本当にこんな遠くにキットがいるのか不安だったが、上層は既に監視官や警備の者がわらわらと溢れていたため、下層に進んで行くのは正解だったのかもしれない。
「なぁ、サリエラ」
急いで進む最中、グルゥは先程の魔法について、気になっていたことを質問した。
「まさかお前、氷属性の魔法が得意なのか?」
「ええ、そうです。冷たい人間だなんて、思わないでくださいね。私は氷の結晶のように、美しく整ったものが好きなのです」
人が使える魔法について、その得意属性は本人の趣味や趣向、果てには生まれや環境など、様々な要因で変化することがあるというのは、グルゥも聞きかじった知識だった。
だが、なぜ、よりにもよって。
(私の一番苦手な魔法を使うんだ、この子はーっ!)
体温の上昇と密接な関わりがある『サタン』の血統にとって、水魔法は弱点で、氷魔法ともなるとさらにその上を行く、最上級の弱点である。
氷魔法で傷つけられた怪我は治りも悪く、かつての戦争で、その弱点を突かれ命を落とした同胞が多くいたというのは、子供の頃によく聞かされていた。
結果、氷魔法恐怖症という、致命的にサリエラとウマが合わない弱点を、グルゥは持っていたのである。
「どうかしたのですか、お父様? 震えているようですが」
「なんということはない、武者震いだ」
(氷怖い氷怖い氷怖い氷怖い氷怖い氷怖い氷怖い氷怖い氷怖い氷怖い氷怖い)
うっかり巻き込まれたらどうしようと、そんな不安を抱えながら、三人はついに螺旋階段を降り切って最下層に到着した。




