17.脱走とおっさん―2
「――臓物を引き摺り出し、地獄の番人の如き獰猛性を発揮すると……」
「よーしよし、良い子だ」
グルルル、と満足げに喉を鳴らすブラックキマイラ。
グルゥに顎の下を撫でられて、気持ち良さそうに目を細めている。
「聞いてたんだけどなぁ?」
首を傾げる監視官。
ブラックキマイラはもっとグルゥと遊ぼうと、じゃれついてその顔を舐めていた。
「ブラックキマイラは、キマイラを家庭でも飼えるようにと小型化した、穏やかで人懐っこいペット向けの性格なんだ。人を襲うようなことは、こちらから手を出さない限り滅多にない」
へぇー、と監視官は興味深そうにグルゥの話に相槌を打っていた。
その足は、ブラックキマイラの陰に隠れて徐々に後ずさっている。
「し、失礼しましたー!」
そしてグルゥがブラックキマイラに構っているうちに逃げ出そうとした、その時だ。
「させませんっ!!」
今度こそ、意識の集中に成功したサリエラの魔法が、監視官の足元に直撃した。
指先から放たれた凍てつく波動が、見事に監視官の足を床ごと凍りつかせて、足止めをすることに成功する。
「む、逃げるなら逃がしておいて良かったんじゃないか?」
「ダメですよ、お父様。その場合、もっともっと仲間を呼ばれてしまいます」
「それもそうだな。……まあ、この男が他者に鞭を振るっている姿は私も見た。お灸を据える意味でも、一度眠っておいてもらうかな」
ボキボキと、組んだ拳の骨を鳴らしながら、監視官に迫っていくグルゥ。
「ゆ、許して、許してくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
懇願に対しての答えは、十分に体重の乗ったパンチ、一発だった。




