16.迷子とおっさん―4
誰かに抱えられていた。
体は不規則に上下に揺れ、どうやら自分を抱えている人間は走っているようだ。
血の臭いがする。
けど、自分の血の臭いじゃない。
「お願い、あなたは…………」
鞘から抜かれた刃物が擦れるような音。
冷たい感覚が耳に当たる。
「生きて…………!!」
肉を斬り裂く音と、迸る血飛沫。
助けを求めようと叫び声をあげるが、その口の中に布が押し込まれた。
最後に、傷痕を隠すように赤い帽子が被せられる。
ここは……どこだ……?
オレは……誰なんだ…………?
泥のように沈み込んだ意識は混濁し、何が何だか分からない状態で、薄緑色の空間を浮遊していた。
「ねぇ、キミは、誰に会いたいの?」
空間の中に響き渡る、あどけない子供の声。
誰だっけ……と記憶を辿ろうとしても、今は人の名前も何一つ思い出せない。
「オレが、オレが会いたいのは――」
だが、例え名前を思い出せなくても、その単語だけは確かな温もりを持って、心の中に存在していた。
「親父……っ!!」
白く光る子供は、それを聞き届けると空間の彼方へと去っていく。
次に目を覚ました時――全ては失われ、何も分からない状態で、彼女はただ天井を見つめていた。




