16.迷子とおっさん―1
どこまでも下に続いていく螺旋階段。
薄暗い闇の中、キットとその子供は、ビルブーに連れられ延々と階段を降りていた。
子供は、キットに対し自身のことを“ミノン”と名乗った。
淡い、柔らかそうな緑の髪は短く刈られていて、トリカゴの規則でそうなのか、元からそういう髪型なのかは分からない。
キットが驚いたのは、ミノンには一切の枷が付けられておらず、暴行を受けた後もない。
つまり特別扱いを受けているのだと、そう分かったからだ。
「この子はな、能のないお前らとは違うんだよ」
階段を下りる側ら、暇を持て余したのかビルブーはそう話し始める。
「最下層に降りても何らフォルの影響を受けることがない、特別な子供なんだ。お前らがツルハシで何時間もかけて掘るフォルの量を、この子はたった五分で採取する」
ビルブーの言葉を聞いて、ミノンは無邪気な照れ笑いを浮かべた。
恐らくは、自分よりも年下の幼いミノンの働きぶりに、キットは驚きを隠し切れない。
「つまり今日は、お前にも最下層の適性があるのか試そうって話だ。そこで十分に働けるなら、お前の待遇を見直してやってもいいんだぜ」
そう言って、ビルブーは後ろからキットの尻を撫でた。
全身に悪寒がはしり、思わずキットは声を荒げようとする。
しかし――
「人の嫌がることは止めてね」
それよりも早く。
ミノンはビルブーの手を掴み、混じりっけのない純粋な笑顔を浮かべながら、あどけない声でそう言ったのだ。




