14.トリカゴとおっさん―8
「そ、それじゃあ、こんなところで仕事をしてる場合じゃないじゃんっ!」
「いや、いいんだ。……ここでの賃金は、家族の下に送金されるようになっている。だから私が生きて働ける限りは、家族はお金のことで苦しむことはないんだよ」
諦めたような、取り繕うような、そんな曖昧な笑顔を浮かべるおっちゃん。
その表情があまりにも切なくて、キットは、どうしてもその質問を投げかけずにいられなかった。
「だけど、それじゃあ……いつ家族に会うんだよ!? ちゃんとお金が送られてるのかだって、ここに入ってちゃ分からないじゃないかっ」
そうだなぁ、とおっちゃんは静かに頷いた。
「だけど、ここから出なければ……きっと家族は元気だって、ずっと信じていることも出来るんだ。息子の病気は重いものだった。真実を知らなければ……希望になることも、あるんだよ」
愕然とした。
その理屈が正しいのか、それすらもキットには判断できない。
だけどきっと、このままではいけないだろう、ということは分かっていた。
「な、なぁおっちゃん。いつか、一緒にここから出られた時には――」
「貴様らぁ!! 何をずっと、くっちゃべっている!!」
キットの言葉を遮るように、監視官の一人が二人の間に割って入った。
気をつけた方が良いと、話したばかりの監視官だった。
「トリカゴでは、労働者同士が親交を深めるのは禁止だぞ!? 分かっているのか!!」
「ご、ごめんな――あっ」
鞭を振るう監視官。
とっさにキットを庇うように、おっちゃんは自分の体を盾にした。
「ぐああっ!」
「ほう。既に親交を深めた後であったか。それであれば……分かっているだろうなぁ!!」
監視官は、おっちゃんの首に鎖を巻きつけ、強引に作業場から連れ去っていく。
あの子は関係ないと、ずっと言い続けたおっちゃんの姿が、グルゥの姿に重なって見えた。




