14.トリカゴとおっさん―2
『トリカゴ』。
その名を冠する強制労働施設がアルゴ公国内にあることは、キットは噂に聞いていた。
盗賊稼業を行っていた時に、特にノルマの達成率が悪い者は連れて行かれると。
半ば脅し文句のように聞かされ、子供たちはトリカゴだけには行きたくないと、そう思いながら日々のノルマを必死にこなしていたのだが。
「まさか……オレが連れて来られるとは……」
鉄格子で区切られた牢の中に戻されたキットは、ヘトヘトになった体を、ベッド代わりの布の上に横たえる。
まるで刑務所のような作りだが、一応、トリカゴでの労働者は公国の正式な公務員とされていた。
だがその実態は、キットが体感している通り奴隷のような扱いである。
慣習的にも、蔑称としてトリカゴの労働者は“公僕”と呼ばれており、それはここに集められた人間が、罪を犯した者や税を滞納した者など、みな何かしらの形で社会からドロップアウトした者だからだ。
「親父……本当に死んじまったのかよぉ……」
グルゥのことを考えるたびに、キットの目の端からは涙が零れ落ちる。
せっかく、生まれて初めて心を許すことが出来る人間と出会うことが出来たのに。
キットの脳裏に浮かぶのは、腹に風穴を空けられたグルゥの姿。
あの一瞬の光景が、頭の中に焼き付いて離れない。
「う……あぁ……!」
もしもあの時――オレが捕まることがなかったなら。
キットの記憶は、マリモに襲撃された際の出来事へと飛んでいった。




