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13.家出少女とおっさん―12

 一通り話し終えたところで、サリエラは砂浜から立ち上がる。

 尻についた砂を手で払うと、波打ち際に向かって歩き出した。


「でも、私……本当に今、楽しいのですよ。あの白い壁に囲まれていた日々とは違う。全てのことが目新しくて、新鮮で、愛おしくて。生まれて初めて、自分が生きているのだという実感を得ることが出来たのです」


 月明かりが、穏やかに波打つビーチに反射して、一筋の白い道が出来ていた。


 白銀の光を背に振り返るサリエラ。

 解かれた長い髪が潮風に流され、その姿はどこまでも高貴で美しい。


 兄であるブランまでもが、言葉を失い見惚れてしまうほどだ。


「これは……とんでもない家出少女だな」


 そう言って、ブランも立ち上がると、“きっちり”と七三分けをセットし直す。


 いつかそう、こんな日が来るとは思っていた。

 月の光を道しるべにするように、いつしか自分の手を離れ、一人で歩いていくようになるのだろう。


 今はまだ、グルゥの後をえっちらおっちらと、付いていくことしか出来ないかもしれないが。


「健闘を祈りますよ、“サリーメイア姫”。あなたの行く先に、銀月の加護があらんことを」


 ひとときの“兄と妹”の関係を存分に楽しんだブランは、元の――“姫と従者”の関係に戻っていた。

 その顔から感情が消えた時、波打ち際で、サリエラは一瞬だけ寂しそうな表情をする。


 どこまでも近しい存在であった、去り行く兄の背中は、いつの間にか誰よりも遠い存在へと変わっていたのだった。

第3章 家出少女とおっさん ―完―

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