13.家出少女とおっさん―9
グルゥは冷静になって、一旦ブランから距離を取る。
「お前、まさか……そっちの気があるのか?」
「さぁて、どうでしょう? 人より少し、人間愛が深い性分なのでね」
「お前の好きな“きっちり”はどうしたのだ。“きっちり”は」
グルゥが追求すると、その時ちょうど、海からの潮風がビュンと強く吹く。
ブランの七三分けに乱れが発生する。
しかしブランはそれを直そうともせず、人差し指を口に当て、右目を閉じてウインクをした。
「そこは柔軟に」
ぞぞーっと、背中に寒いものがはしるのを感じるグルゥ。
「ま、まさかお前! 見返りに尻を貸せなど言うのではないだろうな!?」
「ははは、それも楽しそうですね。ですが、私はあくまで人間愛が深い性分なので。ラヴが無ければ、求めたりはしませんよ」
飄々と語るブランの目の中に、一抹の寂しさのようなものが見えた――かもしれなかった。
グルゥはハッとして、慌ててブランに駆け寄り、その肩を抱き寄せる。
「なッ!?」
「す、すまなかった。私も少し、偏見の目で見てしまったかもしれない。失礼なことを言った。……傷つけたのであれば、謝る」
真摯なグルゥの態度に、ブランは思わずぎゅっと目をつぶった。
それは自らに触れたグルゥの体温の熱さを、じっと受け止めるように。
「馬鹿ですね、あなたは……。その気がないのに、相手を惚れさせてどうするんですか」
「……え? え? 惚れ……?」
「天性の人たらしですね、あなたは。……いいでしょう、『トリカゴ』について、私の知っていることをお教えしますよ」
冷静さを取り戻したブランは、“きっちり”髪型を元の七三分けに戻し、グルゥとの距離を取る。
そしてそれからのブランの話は――グルゥにとって、決して許容出来るものではなかった。




