11.騎士とおっさん―9
ブランの顔が怒りで歪む。
「よくも……私の七三分けを乱してくれましたね……!!」
そこ? とグルゥは首を傾げる。
人の怒るポイントはよく分からないものである。
「心配しないでください。トリドリイカの持つ色素は、液状の時でしか保持されない特殊な成分らしいです。放っておけば乾いて風化して、勝手に汚れは落ちますよ」
「そういう問題ではないッ!! “きっちり”とした七と三のバランスが大事なのです……!!」
「それに、この方は……一週間以上前から、ニサードの村に滞在しておりました。あなたが疑っている魔人とは違うと思います」
物怖じしない、凛とした表情でサリエラは言ってのけた。
まさか、助けるつもりが逆に助けられてしまうとは。
グルゥは申し訳なさを感じ、心の中でサリエラに謝った。
「どういう関係ですか、あなたたちは」
ブランは必死に七三分けを整えながら、グルゥとサリエラに問いかける。
なんと答えればいいか、グルゥが逡巡した、次の瞬間である。
「彼は……私のお父様ですっ!!」
サリエラの言い放った一言に、その場にいた全員が固まった。
「いやその……種族からして違いますよね?」
「魔人と人間のハーフですから、私。優勢遺伝の関係で種族特徴が現れないことがあるのは、もはや定説になっている話ですよね? ご存じないですか? そしてスフィアを跨いで婚約した者は、どちらかのスフィアで永住権を得る決まりになっております。“異界航行証明”を持っていなくても、何もおかしくはないですよ」
なるほど、そう来たかと――グルゥはサリエラの言葉に、驚きを通り越して感心しきっていた。




