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11.騎士とおっさん―8

 ブランはまるで値踏みをするように、グルゥの頭のてっぺんから爪先まで、ジロジロと視線をはしらせる。


「王国の騎士というのは……人に対してそんな失礼な態度を取るのか?」


「おお、これは怖い怖い。大変失礼いたしました。いえですね……一週間ほど前に、テュルグナで魔人が大暴れし人に危害を加えたという事件がありましたので。まさかとは思いつつも、その身体的特徴を確かめさせて頂きました」


 あ、と大きく口を開け、硬直するグルゥ。

 ブランは不敵な笑みを浮かべ、まるで演劇の登場人物のように、朗々たる声で言葉を並べていった。


「ふむふむ。二メートル近くはあろうという身長に、折れた二つの黒角。顔の周りには獅子のような黒髭が生えていて、筋骨隆々のたくましい肉体をしていると聞いています」


 二の腕に始まり、ブランはグルゥの髭、胸板、腹筋、腰、尻と、流れるようにボディチェックを行った。

 グルゥはその間、汗をだらだら流しながら、あうあうと言葉に詰まっているだけだった。


「“異界航行証明スフィアパス”はお持ちですか? どのような目的で滞在されているのか、書類で確認させて頂きたい」


 そんなことを言われても、荷物の一式はテュルグナに置いたままである。


「分かって……いますよね? スフィア間の不法な航行は大罪で、目的によっては『アガススフィア』の法での処罰はもちろん、強制送還や処刑すらも考えられます。もし、“異界航行証明スフィアパス”を提示出来ないというのなら」


 ブランはグルゥに顔を近付けると、耳元に息を吹きかけるように小声で囁いた。


「“きっちり”させて頂きますよ。……それが、私のやり方ですので」


 もう駄目だ……これ以上言い逃れすることは出来ないと、グルゥの心は絶望に囚われる。

 だがグルゥが膝からその場に崩れ落ちかけた、その時だ。


「うわっ!?」


 突然、真っ黒に染まるブランの顔と、純白の鎧。


「失礼……おもてなしをするため、イカを捌こうとしておりましたので」


 変顔を止めたサリエラが、トリドリイカを手にしていた。

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