竜田 誠
「ふっ……マイスメル、このあと俺の城で二人っきりの時を」
「ん? なに、誠。あと名前が香だからってsmellって呼ぶのやめてくんない?」
「お、おう。すまん」
「ナになニー? 二人っキりで遊ぶノー?」
「な、かおるん! 用事あるんだよねぇ!?」
「あー、そうだっけ、忘れた」
「じゃあ俺と遊ぼ」
「ノンノンだぜボス! 香は俺と2人のヘブンへ行くからな……!」
「変な誤解招くような言い方やめてくんない?」
「おい誠! かおるんに手ぇ出すなよ!」
「エ? みむのコとみンナでトリあってルのー!? みむニ手ヲ出スのハ僕だぁァ!」
「……お前らまとめて〇んでこい。紅ちゃん以外」
「僕はイいノ? ヤッたァ! みむ大好キ! ぎュー!」
「「紅っ!」」
もめまくるホモ疑惑集団(紅ちゃん以外)はさておき、ボクは誠の部屋にでも行くとするか。紅ちゃんと手遊びをしながら言い忘れてた、と振り向く。
「誠の部屋、先に行っとくから」
「かおるん!!」
……ボス、ボクはかおるんって呼ばれるのあんまり好きじゃないんだけど。けれど、むしろ、なんというか。癪なことに、この呼び方に慣れてきた気がする。
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「か、かか香! ここ、座らないか!?」
「あ、座る」
誠はナルシストでイタい厨二病に見えるんだけど、個人で接するときはピュアな感じでいいんだよなぁ。ボクの一挙一動に振り回されて、慌てているその表情がたまらない。キュッと下がったその眉をもっと困らせてみたくて、ちょっとからかってみる。
「誠って普通にしてたらカッコイイのになんでナルシストぶってるの?」
「え」
「ナルシストっぽい言葉吐くたびにその顔面偏差値の高さが無駄になってるってわかんない?」
「いや、俺はただカッコイイと思って」
「ボクの前ではカッコよくなくていいってこと?」
「そんなことは……!」
じり、じりと1歩ずつ追い詰める。逃げ場を無くし、ベッドに座った誠に向かって、目を細めて、うっすらと、意地悪く口元に笑みを浮かべた。
「それって、ボクの事、カッコつけなくていい存在だと思ってるんだ」
「香! そんなことはない……っ」
バタンッ
誠が後ずさり出来ずに倒れる。ボクはいわゆる床ドン状態。あれ、これ逆じゃない? 身長的に。
ほら、誠がデカすぎるから、よじ登らなくてはならなくなったじゃないか。四つん這いで、ゆっくり進んでいると、いつの間にか誠の顔が目の前にあった。もう顔と顔が近すぎて息が顔にかかりそうなのが気になる。
というか誠顔真っ赤で可愛い。どうしようか、何を言ってやろうかな。
「ボクの事どうでもいいんだ」
「ンなことないって言ってんだ、ろ!」
ボスンッ
誠の顔が目の前にあるのは変わらないけれど、背景はシーツじゃなくて天井……って、なんかいつの間にかボクが下に……!? 抵抗しようとした両腕は押さえつけられて、ビクとも動かない。誠、力強い……っ、ボクも力強い自信あるんだけど……。
ゴツンと額と額がぶつかって、目を瞑る。しばらくそうした後、暖かくて大きな手が頭を優しく掴み、耳元で誠の低い声が聞こえた。
「香が、香なら俺のホント、見せても受け入れてくれるって思ったから! 香じゃないと見せられないから、香じゃないと……」
「うん、わかった。誠」
「香が普段の俺がいいって言うなら」
「今の方がいいに決まってんだろ。しかも告白めいたセリフ、シラフで言えるとかお前すごいよ」
「すごい? ……俺」
「自惚れるな」
「ごめんなさい」
一瞬迫力があってすごかったんだけど、やっぱり誠は可愛い。ボクの目の前からいなくなってしまった、耳まで赤くなった顔を片手で隠した誠の後を追いかけようと、お腹に力を入れる。……あれ、立てない。
「香、どうした? 立たないのか?」
「立てない……」
「す、すまん! 俺が乱暴にしたからっ」
「その誤解を招くような言い方やめてくれな? とりあえず謝る前に立たせてくれ」
「わかった。……よっ!」
ふぅ……やっと立てたぁ……。ボクをまるで小さな子供にするかのように持ち上げてストンって、馬鹿力過ぎだろ。ボクはそんなに軽くないのに、どんな訓練したらこんなに筋肉つくんだ?
「香、軽すぎだぞ。ちゃんと食べてるのか?」
「余計なお世話だ。ちゃんと食べてるし」
「体重は?」
「…………46kg」
「筋肉つけるために食え」
「だから余計なお世話だっつってんの、このゴリラ」
「ご、ゴリラ!? おれは涼じゃないぞ!」
「知るか、ばーか」
「ま、まぁ身長もあるかもな!」
「サラッと身長もディスるんじゃねぇ!」
「す、すまん……でも、香は小さくて可愛いぞ」
「もう誠なんて知らない、帰る!」
「か、香!」
もう! サイテー! 女の子に体重のこと言う? 普通。あ、誠はボクが女ってこと知らないんだった。なんかごめん、誠。
ま、もう出てきちゃったし、帰ろ。