両手剣の悪魔
ふと拓人は感じた。香は自らの探し求めた“神”なのだと。それが何故なのかわからない。直感、いわゆる第六感とでも言うものだった。それでも拓人は確信していた。そして小さく声を漏らした。
「私の……神」
「え?」
香が意外そうに拓人の顔を見上げる。潤んだ瞳にシャンデリアの明かりが揺れて、元々美しい蒼い瞳が一段と儚く感じた。だがそれ以上に、香の取り繕っていない濡れた表情が吐息が触れるほど近くに見え、あっという間に耳まで熱くなったのを自覚した拓人は、慌てて顔をそらし、視線をさまよわせる。それを見て、香は怯えるのも忘れ首を傾げる。
突然行き場を無くしていた拓人の視線が端に黒い影を捉えた。ヤバいっ……! 直感的に感じた次の瞬間には、考えるより先に香にのしかかるように横倒しに倒れ始めていた。衝撃を殺し香を守るために伸ばした腕が床に触れないうちに髪に何かが触れる感触と共に荒々しく風を切る音が聞こえた。
「みぃつけた♡」
低く唸るように、それでいて吐息の混じった声が拓人の耳元で聞こえる。その人物の視線は拓人を捉えているわけではない。拓人の顔の横で目を見開いている香の顔をまじまじと見つめていた。真っ白な髪、そして上品にシワの入った整った顔を惜しむことなく眼前に晒し、長い両手剣を顔の真横に突き立てバランスをとっている。
拓人は、体を捻り、足を突き出して三郷の体重を支えている剣を蹴り飛ばし、三郷が少しよろめいた瞬間、更に体を回転させ立ち上がる。そのまま香の身体を抱え上げ、出口に向かって走りだした。出口には武器がある。その為に走った。三郷は呆然としたように立っていたが、口角をニイッと上げて両手剣を構え直す。
「ちょっと油断しちゃったじゃない♡……待ちなさい」
最後の方はボソリと吐き出すように言うと、右足で地面を蹴った。かと思うとたった一歩で、これまで懸命に走った拓人との距離を半分にまで縮めて見せる。三郷がもう一歩、今度は左足で地面を蹴る。抱えられていた香は覚悟を決め、手に取りやすい場所に隠していたナイフを握りしめた。バレる事は覚悟の上で後方を睨みつけ投げる準備をする。三郷の剣がひらめき、香が手首を捻ったその瞬間。
「止まれ侘ッ! 俺の香に手ぇ出すな!」
誠の叫び声に侘 三郷は剣を捻り空を切る。その風圧で香の髪がなびき、拓人はハッとして振り向く。誠は無駄にゴツいピストルの標準を三郷に合わせ、これまで香に見せたことのないような、牽制するように睨みつける、迫力のある表情でそこに立っていた。