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酔いどれ腐れ  作者: フロード【fload】
第壱章〜潜入捜査〜
25/59

フレーバー

「よぉ! かおるん! アタマ大丈夫かー?」

「ボクのことを精神異常者みたいに言わないでくれる? ボス」


 朝起きてすぐ、食堂にて。ホットドックを口に詰め込みながらボスが隣に来た。

 ……ほら、アタマ大丈夫とか言うから部下たちがどよめいてるじゃんか。


「ボクに女装させて喜んでる方が頭心配なんですけど」

「んなこたーねーよ! 皆かおるんの方見てるぜ?」

「見てねーよ。変態、バカ野郎」

「口が悪いねぇ〜! そんなんじゃすぐバレるぞ?」

「そうだ! 丁寧に話せ!」


 バンっと机を叩き涼が言う。いやいつからいたんだよ! びっくりしたじゃん!


「あ……? だまれクソゴリラ、お前がいると士気に関わる」

「モう! 葉っタら! 口が悪いンだカラ!」


 え? 紅ちゃんに葉? いつから?


My smell(マイ スメル)のピンチと見て、正義のjustice(ジャスティス)、俺参上!」

「あ? 正義もjusticeも同じ意味なんだよクソが」

「葉! 口悪スギでしョ!」


 誠まで? この流れからすると……


「ぎゃーぎゃーとやかましいんですよ。ちょっとは静かにできないんですか?」


 やっぱり。来ると思った、翔。


「みーんな、香ちゃんのこと心配して見に来たんだよね〜♪」

「なっ……!? 峰さん、俺は違いますよ! ただ注意しに来ただけです」

「素直じゃないなぁ♪」


 吹さんまで……幹部揃っちゃったよ。コレ。


「ボクは大丈夫です。心配いりませんよ」

「強がっちゃだめだよー? たまには休憩する事も大事♪でしょ? ボス♪」

「そうだそうだ! お前は休め! 気にしてても始まらねーよ!」

「でも1から学ばなきゃ、忘れてしまったのに……?」

「気にすんなって! 身体は覚えてる、ってやつがあるだろ!」

「……確かに、三室さんには感覚的なことしか教えていませんからね。」

「というわけで、寝ろ! おやすみ!」

「えぇ……」


 ふざけんな、ボクはまだやらなきゃいけないことが……


「あぁーー!」

「んんっ、だから! 耳元で叫ばないでください! 峰さん!」

「ごめんごめん、敏感ちゃん♪そんな事より、香ちゃん、お化粧上手くなったねぇ♪そうそう、ナチュラルに見えるメイクが一番男ウケするからね♪」

「男ウケ……かおるんが、男ウケ狙うなんて……」

「男ウケ狙わなきゃいけないよーにしたの、ボスじゃん」

「そーだけどさ、いざ知ったらショックだよぉ……?」

「知るか。てか男が男ウケ考えてるとか異常だよ、ホモでもないってのに……」


 はぁ……とため息をついてティースプーンでココアをくるくるかき混ぜる。ボクだってやりたくてやってるわけじゃないんだよなぁ。普通に恥さらしだよ。すごく恥ずかしい。


「あ、これ飲む? ボス」


 ボスの顔がすっと青ざめる。香が何をしでかしたのか、思考を探るかのような一瞬の静寂。


「……こいつ俺のこと殺す気だよな?」

「……は? イヤ毒なんて入れてないよ?」

「そうだぞ、確かに三室は怪しいが、そんな素振りはなかった」


 幹部は皆そうだと言うふうに頷き、首を傾げてボスを見る。当のボスはココアに一切手を付けようとしない。じっと香を見つめ、本当に何もないんだろうな? と言わんばかりに目だけ笑わずに訴えている。……自分はこんなにも疑われているのかと悲しくなるほどの視線だった。たとえ、他の幹部から同意を受けていたとしても、この人に睨まれるとまるで丸腰の哀れな獲物(ターゲット)のように、すべてを否定された偽善者(ニセモノ)のように、ただただ絶望と空虚が心を支配する。香の瞳が明かりに揺らぐ。

 ボスはそんな香の心情を読み取ったかのように目を逸らし、にっと笑う。


「かおるんが、そんな事するわけないよな!」


 ……それでも頑なにココアに手を付けない。信じてもらえない。最初から裏切り者(ウソツキ)だとバレてる、いや、知ってるのに黙認してるのか? だから信じないのか?


「大丈夫だよ、香ちゃん♪ボスは死んだら大変だから、ちょっと神経が尖ってるだけなんだよ♪ほら、人からもらったものは、必ず先に相手に食わせろ、って言うし♪」


 そう言って吹はココアに手を伸ばす。ボスは何も言わず、固唾(かたず)を飲んで見守っている。


「あ、このココア、ボスがいらないんなら俺がもらうよ? ……ん? なんかスースーする様な……チョコミント?」

「……っふふ、ははははは!! ……なんだ、そういうことかよ…!」

「あっ、なルホどね! アハははハハッ!!」


 なぜか突然葉と紅が大笑いする。どういうことだと首を傾げる香の手首を蓮が掴み、トンっと叩くと、リストバンドから白い粒が2、3粒落ちてくる。


「ほら〜。かおるん、どういうことかなぁ〜?」

「……ほら、あんたが言った、身体は覚えてるってやつさ」

「主要人物にあゲルもノ、例エばカクテルとカに軽イ毒物なドヲ入れテ体調を崩サセ、介護スる事デ信頼をGET! 大作戦でス!」

「……無意識にやったんじゃねーの? 練習用のミントタブレットだけどさ……オレら全く気づかなかったんだし……上出来……」

「無意識に毒入れてたとか我ながら恐ろしいな」

「恐ろしいレベルじゃないよね!? 俺死にかけたよ!? たまたまミントタブレットで気づけて良かったけどさ!?」

「ごめんごめん、殺る気はなかったんだ」

「チョコミント美味しー♪これって毒入りココアじゃなくて、チョコミントって言えば誤魔化せるじゃん♪」

「確カに! こレマデは無味無臭のヒ素使ッてタンダけど、フレーバー使えバ少量で殺せルけど匂イがある毒モ使エルね!」

「紅ちゃん、恐ろし……」

「紅さんは潜入暗殺のプロですからね」

「ソの僕でも気づケナいよウニ毒入レるナンて、みむ、やルゥ〜!」

「無意識だったんだけどなぁ」


「つまり! My smell(マイ スメル)は〜、潜入調査に行っても、don't worry(ドント ウォーリー)! 心配ないぜ!」

「……だな! ったく、俺以外気づかねーとかおかしいんじゃねーの? もー」


 少しふてくされてボスが賛同する。まぁ確かに、教えた本人にも気づかれないようなら行ける気がする。……多分。

 残された時間はもうない。それまでにもっと練習して、ボスさえも欺けるようにならなければ。

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