色気の化け物
〜香side〜
まぁあれから色々ありまして。
「いきなりテスト!?」
「うん♪香ちゃん物覚えるの早いし試しに?」
「えぇぇ」
「それにボスに元気だしてほしいし」
「え? なんて?」
「なんでもないよ♪さ、いこうか」
というわけで、食堂にて。さっきの会話からわかるように、ターゲットはボスだ。ボスを欺けたら怖いものは無いと吹さんが言っていたから……ちょっと待って、それボスが1番ヤバイってことじゃない?
「ボス……?」
「ん、かおるん? ……ってうわっ!?」
「なに? どうしたの?」
身体と身体がくっつきそうなほど近くに座る。はぁ、ボスってあったかいなぁ。腕が少し触れてるだけなのに、じんわりとした温もりを感じる。まぁ、ボスが上着を着ずにワイシャツだけだからかもしれないけど。
「いやどうしたもなにも(可愛すぎかよ)」
「あ、ボクココア飲みたい」
「おっけー、ちょっと待ってて」
立ち上がって注文しに行こうとしたボスの袖を慌ててちょこんと掴み、上目遣いで悲しい(そうな)声を出す。
「待って! ……あ、離れないで」
そしてあまりの恥ずかしさに(見せかけて)か細い声を絞り出す。いや、ホントに恥ずかしいけど。顔が少し熱いのを悟られたくないから、少し俯く。
でも気になって、ちらと様子を伺うと、ボスもかなり動揺しているようだ。ボクに袖を掴まれたまま、笑みを浮かべていた口元はひきつり、眼を少し見開いて、困ったように眉が八の字になっている。
「え、かおるん、今日本当にどうしたの?」
「なんでもないよ……ただ、二人っきりだから」
「あ、そう? じゃあ……」
突然背中に手がまわったかと思うと、急に目線が高くなる。まるで紙切れでも持つのように軽々と持ち上げられた。さっきまで感じていた体温が、腕だけじゃなくて、触れ合っている場所全てが温かくて、安心する。そんな感覚も、つかの間。
「俺の部屋で二人っきりになったらどんな表情、みせてくれるんだろうな……?」
不意にかけられた言葉の意味を理解出来ずに戸惑っていると、耳元で囁かれる。ボスの声が甘すぎて、その低音が心地よくて。吐息が耳にかかって、ゾクッしてビクリと身体を震わせる。力が入らない。……顔が火がついたように熱い。きっと、今はもっと顔が真っ赤だろう。
… …ボスをなめていた。この色気の塊を。ボスは女をおとす天賦の才があることを忘れていた。まさか、ここまでヤバい、なんて。男もおちそうだ。
「ストップ、ストーップ!!」
「吹さぁん……、ボク、もうダメ……」
「やっと来たか、もう少し遅かったらお持ち帰りしちゃう所だったよ? (……あーヤバい、かおるんその顔ヤバい)」
「お持ち帰り……?」
「あ、えーと、香ちゃんは知らなくてもいいことなんだよ♪」
「…………?」
というかボスにバレてたんだ。ですよね、ボクがこんなに優しくするのなんて今日だけだから。こんな酷い目に会うならもう永遠にしたくない。
「そんなことより、ボクをおろしてくれない?」
「やーだ、……かおるんが離れたくないって言ったんじゃん」
また、吐息混じりの声で耳元で囁かれて力が抜ける。少し上気した顔がすぐ近くにあってびっくりした。
「かおるんは耳が弱いのか……ふうん」
「なにやってんのボス! 変なことばっかしないでくれる?」
「まあまあ、そう怒んないで、吹」
「とりあえず、香ちゃん返して! この色気の化け物……」
「俺、化け物!?」
「さぁ、香ちゃん、帰るよ♪」
吹さんに頼んでおろしてもらうと、力が入らなくてよろける。
「あ、大丈夫?」
吹さんに支えてもらってなんとか立ち、歩き出す。はぁ、最悪だ。まさかこんなに身体が動かないなんて。
「もう、テストは俺に対してだけね?」
「うん、絶対ボスにはもうやらない」
「俺もそれ賛成」
その後も極意とやらを教えて貰いながら部屋に帰った。