女子力
「あ、吹さん……?」
香ちゃんは少し動揺したような目で俺を見てる。そりゃそうでしょ。いきなり俺が来たんだから。……たく、ボスったら、俺の事言ってくれてもよかったんじゃない?
「香ちゃん、俺の部屋行こ?♪」
「え……?」
「ボスに頼まれててさ、訓練だよ♪簡単な。」
「あ、はい」
元気ないな……香ちゃん。やっぱり過去の事、断片的に思い出したんじゃ……。
「元気だして♪今は俺達がいるでしょ?」
「……そうですね。何をするんでしょうか?」
少し元気出てきたかな? よかった。
俺の部屋はボスの部屋から出て真っ直ぐ行き左に曲がり、来た廊下をずっと行って、奥の方の左側の、桃色のスカーフがかけられたドア。遠いけど、同じ階なだけマシだよ、文句は言えない。
この階は幹部とボス専用の階。部下以下は立ち入り禁止だ。なんでかって? 察して。セキリュティが厳重だから、ココ。6階より上は俺達以外入れない。入ろうとしたら命はないよ♪
「さて、ついたよ♪」
「……何をするのでしょうか」
「あぁ、りんごジュースを飲んでもらおうかな♪」
「……え?」
シャンパングラスに注がれたりんごジュースを差し出す。香は怪訝そうに受け取ると、不思議に思いながら口をつけて、ゆっくりと飲みこむ。
「違う違う! 俺がお手本見せるから見てて?」
シャンパングラスを傾け、椅子に座り上目遣いで香を見つめて、グラスに視線を落とし、少しだけ飲む。
「要するに、ボクに教える技っていうのは……」
「色目♪」
「あ、はい」
「雰囲気でないね……外見から入ろっか♪」
袖無の桃色のロングドレス。豪奢では無いけど、シンプルで香ちゃんに良く似合う。胸の部分は隠れるようにシフォンでふんわり仕上げている。本当はオーダーメイドなんて言えないよね。流石に。
「……ボクがこれ着るんですか」
「そうそう♪俺が選んだんだよ♪ボスがお小遣いやるから買ってやれってうるさくて」
「ボスが……?」
「香ちゃんだけじゃないよ♪……俺も」
そう言って薄い桃色のシフォンのドレスを取り出す。……実は俺のじゃないんだけど、安心させるため。嘘も方便だよ♪
「先着替えてきていいよ♪」
部屋の奥に立てた、簡易式のついたてを指さして言う。
「……はい」
香ちゃんは渋々といったようについたての向こうに消える。初めてだと絶対着にくくて時間もかかるだろうから、そのうちに道具を取り出す。
髪飾り、メイク道具セット、ヘアケアセット。保湿クリームに化粧水。全部女の子用。これもボスに奢ってもらっちゃった♪昨日徹夜でメイクの練習したかいがあればいいけど……
「着替えられました……って、え?!」
「っふふ、ビックリした?」
「いや、まぁ……」
鏡台に並びきらずに机にまで並んでいる化粧品の数々。びっくりしない方が無理だよね……、ていうか、香ちゃんはやっぱり可愛い。俺色のドレスで、今から俺好みのメイクをする。なーんか、俺のモノになったみたいだな。こんな事言ったらボスに殺されそうだけど。
「今日から香ちゃんには女の子として過ごしてもらいまーす!」
「えー」
「シャンプーもトリートメントも女の子用のいいのを買ってきたよ♪化粧水、乳液とかもあるから、これは使う時説明するね♪お風呂は……」
「別に大浴場でも……というかボクの部屋にお風呂ありませんし」
「しばらくはボスの部屋のお風呂使ってて♪そのうちボスが幹部の部屋全部にお風呂付けてくれるらしいから♪あ、これボスの部屋のスペアキー♪」
大量に鍵やらカードやらがついた束を渡す。じゃらじゃらうるさいのは盗難防止とか何だとか。
「ボスの資産どんだけあるんだろ……っていうか、鍵多っ! ボクの部屋の倍あるよね?」
「あっはは! そりゃ殺られたら困るからね。大事な情報もあるからさ♪」
「あ、そっか……」
「と言うわけでメイクするからここに座って?」
「……え?」
「当たり前でしょ?」
また香は渋々と鏡台の前に座る。カラーも入念に選び、メイクを開始する。……今気づいたけど、香ちゃん肌綺麗だな。まつ毛も長いし、マスカラいらないかな?唇も綺麗な色だし……
「はい、できたよ♪」
「うわ……」
女の子にしか見えないね♪さすが俺、練習したかいあった♪ついでに髪も整えたから、完璧女の子♪しかもすっごく可愛い。香ちゃんはもともと可愛いけど、こうして見たらもうヤバい。街歩いたらみんな振り返りそうだよ♪
「今日からしばらくは俺がメイクを教えてあげるから、ちゃんとするんだよ♪」
「もうどうだっていいや……」
「あと、これ♪」
巨大な紙袋を数個手渡す。持って運ぶにはすこし重いかな?
「まだあるの?」
「もちろん♪これ普段着にしてよ♪」
今流行ってる女の子用の服。タイトスカートのスーツ。若干スカート多めだけど、この方が女の子感あるからね♪
「えええ……」
「これもボスの奢りだから気にしないで♪」
……っていうか、ボス今回の作戦にお金かけすぎじゃない? 武器入庫するよりかは安いんだけど……さ。
「さー、訓練再開! 頑張っていこー!」
「ホントに訓練ですか、これ……」
今日の夜は寝れそうにないな、完徹2連、お疲れ様、俺。