洞察力
〜吹side〜
コツ、コツとやけに靴音が響く廊下。ボスの部屋に香を迎えに来た吹は、少しワクワクしてるようにみえる。ちょうど曲がり角を曲がった時、向こうからボスが歩いてくるのが見えた。
「あ、ボ……」
ん…? なんだか、目の色が暗い。いつもは余裕たっぷりな笑みを浮かべているのに、今は唇を引き結び、俯きながらこっちに早足で歩いてくる。
俺に気づいていないのか、横を素通りして、
ドンッッ!!!
壁を拳で殴る。おかしい。こんなに余裕が無いなんて、ボスらしくない。何があったのかな。
「くっそぉ……」
……ボスは香ちゃんをすっごく大事にしてる。
拾ってきた時からずっと面倒を見ていて、負けないように、死なないように、ボス直々に戦闘術を1から丁寧に教えこんでいた。
今こそ他の幹部に匹敵する能力はあれど、最初に幹部についた時は足元にも及ばない、はっきりいって雑魚だった。多分、ボスは一番近くに香ちゃんを置いておきたかったんじゃないかな。どうしてボスがこんなに香ちゃんに執着するのかは今もわからないけれど、大事に、大事に育てているのはわかる。
だけど、最初弱かったのは香ちゃんにとってはかなりのプレッシャーだったんだろうね。いつもみんなが寝静まってから、訓練場でピストルをひたすら撃っていたり、力が少ないのを気にして、刀で1発で仕留められるように弱点をひたすら攻める練習をしてたり。体力も全然ないから、小さな動きで敵を攻める練習をしたり。
そんな香ちゃんを気にして、気づけば幹部全員集合して香ちゃんを見守ってたのは温かい思い出だ。……ボスはいつも見守ってた。俺が気づく前から、ずっと。
戦闘に香ちゃんが行く時は部下や他の幹部がついていてもどこかソワソワして落ち着きがなくなる。だからこそ、今回敵地に1人香ちゃんを差し向けるのは苦渋の決断だったんだろうな。できるだけ香ちゃんが無事なように、すごいお金かけてたけどアレ、組の費用じゃなくて、殆どはボスの個人的な財産。 香ちゃんを危険に晒してしまうのは自分のせいだと思ってるのかな。
それとも、香ちゃんの過去について、ボスも気にしてたから。ふとした時に香ちゃん、思い出しちゃったのかな。
……いや、両方か。
こういう時のボスはそっとしておこう。ボスはいつもテキトーそうに見えてかなり気を使ってるから、1人の時も必要なんだよ。
……あ、俺香ちゃんにある技教えに来たんだった。長い廊下を歩き、突き当たりの部屋をトントンとノックする。白いスカーフがかけられたドアはボスの部屋。香ちゃんはここにいるはず。
「やっほー♪香ちゃん、いるー?」
いつも通り、さっきの不安そうなボスのことなどみなかったように声をかける。香ちゃんは心配されてるってわかったら緊張するだろうし。