ドレスの秘密
ほえぇぇ……
「待ったー?」
「うわっ」
「えっ」
急に背後から出てこないでくれる? すごーくビックリしたんだけど。
「ていうか、真っ白だね。この部屋」
壁も床に敷いてるもふもふのラグも、シーツも布団も枕も、テーブルも椅子も。全部新品未使用かのように真っ白だ。本当に普段使ってるの? ここ。
「白……というか、白銀って言って欲しかったな……」
「いや、白だろ。真っ白。汚れが何一つない感じ」
「ま、ここまで白いのはどうかと思ったんだけどな…異物があればすぐ見つかるから効率がいい」
「まぁね。危機感ゼロのボスには丁度いいのかも」
「危機感ゼロはいいすぎじゃね?! 傷ついたよ!」
「知るか」
「えー。ま、いいや。はいお茶」
「あんがと」
てかまた白かよ。目が痛い。金に縁取られた白の中に赤茶が揺れる。金と白、素朴な木の色。それだけの部屋。そう。それだけ。まるで真っ赤なボクが、ぽつんと知らない所に迷い込んだみたいだ。
……1人、ぼっちで。
ふと力が抜けた手の中から零れ落ちた白が、赤が、ゆっくりと弧を描きそして
ガシャン。
「……!? ど……た? ……い! かお……ん! 香!」
「……ん? ……あ」
真っ白なラグに赤が染み込む。瞬く間に白が消えた。
「……ごめ、ボク、ぼーっとしてて」
「ラグはいいんだ。お前もしかしてあの時のこと、思い出して……」
「ごめんってば、それよりドレスは? なにするの?」
ボクは何も思い出していない。わからない。1人が怖い? んなわけない。だって戦闘では1人じゃないか。蓮が困ったように眉尻を少し下げ唇を固くひき結び、少し俯く。
「……あぁ。悪い、変な事聞いたな。それでドレスなんだが……」
顔をあげた蓮は何事も無かったように、以前と同じ不敵な笑みを浮かべていた。
ドレスの仕掛けは沢山あった。思ったよりずっと。
例えばスカートのリボンには、ピストルケースがあること。ペンダントにマイクがついてること。胸元には鞘付きナイフが埋め込まれ、スカートは着脱式。それを隠したリボンにはピアノ線を編んでおり、丈夫だ。他にもたくさんある。
1番重要なのはこの仮面だ。白に金の装飾がついた、シンプルな仮面。よく貴族が仮面パーティかなんかで付けてそうな顔の上半分を隠すようなデザイン。なんと通信機、カメラ付きで潜入捜査の要だ。
髪を伸ばすのは気が向かないけど、まぁ綺麗で豪奢なドレスもらっちゃったし、やるしかないか。