影武者
〜翔side〜
どういう事なんですか、まったく。予想外の現象です。……まさか、こんな事が起ころうとは。
「あらぁ、貴方が翔ちゃん? ♡」
「貴方、死んだんじゃないんですか? ……侘」
竜田さんから通信があり数分。侘は三室さんと川崎さんが仕留めたはず、なんですけど。目の前にいるこの人は間違いなく侘そのもので……
『こちら嵐山。侘を……発見しました』
《……ん〜? Why?》
『こっちが聞きたいですよ』
「翔ちゃん、何話してるのぉ♡」
「うるさいです。ぶちのめしますよ?」
「ぇー、酷ぉい♡そういうとこ、可愛いんだけど♡」
「……気持ちの悪い」
「酷いわね♡素直で可愛いわ♡」
「ちょっと黙ってくれません? 貴方侘なんでしょう?」
「そうよ? なに、影武者ちゃんに会ったの?」
「影武者……だったんですか」
ガンッ
「ドぉォオオおおオオおンっ!!!」
「紅、静かにして」
ドアをぶっ飛ばして2人が入ってくる。紅さんと葉さん。随分派手な登場ですね。普段通りそうで何よりです。(主に葉さんが)返り血だらけなだけで、どこも怪我などは無いようですし。それにしても、まとっているオーラが相変わらず月と太陽の如く違いますね。
「貴方達が伊吹兄弟ね♡はじめまして、侘よ♡」
「Who are you? I don't know you!」
「てめぇ誰だよ。知らねぇおっさんだなってさ」
「もウ!葉、僕そんナニ口悪クナいヨ!」
「……」
「あらぁ! 小さくて可愛いわ♡」
侘が言った瞬間、ピクっと紅の肩が震える。元からハイライトのない瞳が、さらに怒気を孕み輝きをなくし、まるガラス玉のようだ。その太陽のような明るいオーラには、バキバキとヒビが入り、ドス黒いオーラが溢れ出てくる。……まるで、別人。その事を知ってか知らでか、ゆっくり紅が口を開く。
「は?誰が身長小さいなんつった……?」
ビッタリと口元に張り付いた笑みがさらに怪しさを引き立てる。もちろん、眼は笑っていない。その隣にいる葉は、いつもと変わらず、ヤレヤレといった様子で紅をなだめている。
「こっわいわぁ♡キャー、翔ちゃん、守ってぇ?」
「嫌です。死になさい」
「きゃあ、敵しかいないのぉ? 部下ちゃんたちどこぉ♡?」
「……アンタの部下なら全員潰したよ」
「ソうだヨ! アハはは! 弱かッタよ! ザッコいのー!」
「嘘ぅ、やだ♡こ わ い わッ!!」
ヒュンッ!
「痛っ……イ」
「紅っ!? 大丈夫かっ!?」
「全然! へーキッ! アハハ!」
右肩に刺さった小型のナイフ。本人は平気そうだが、服がみるみるうちに真っ赤に染まる。紅さんは大丈夫って強がって、周りに心配をかけまいとする。いい所ではあるはずなんですけれど、俺は苦手な所ですね。
「あら痛そ♡」
「クソ……俺の弟になにしてくれてんだ……ぶっ潰す」
「あら随分と饒舌になったわねぇ♡お姉さん嬉しいわ♡」
「テメェお姉さんじゃねぇだろ、ジジイ」
「お姉さんよ? 心は、ね♡」
「死ね」
ヒュンっと音を立てて何かが葉の手から放たれる。
ジャララ、と鎖が金属が打ち合うような大きな音を立てる。葉の武器、鎖鎌。双方に鋭い鎌がついていて、鎖は葉が丁度腕を広げた長さ。ヌンチャクを操るように振り回したり、両手に持ってぶん回す。そんな武器。
ちなみにすごく重くて、こんなものを振り回せるのは手馴れた葉じゃないと、川崎さんでも自分に刺しそうで回せないようです。
「うっふふふふふ♡どこ振り回してるの、おバカさん?」
「……うっせ」
「そんな動き、お見通しなのよ♡翔ちゃんは、ボスとそっくりねぇ♡武器は日本刀とピストル。スナイプもできるんだっけね?」
「何故……わかるんですか」
「うふふ♡なんでかしらねぇ♡……グッ!?」
「ベラベラ喋りやがって……邪魔なんだよ」
「誰カら情報もラっタノー? 早く吐イて?」
葉の鎌が腹部を切り裂き、紅の投げナイフが脚部を突き刺す。
「くっふふふ♡スパイでもいるんじゃない? ……あと」
「スパイ?そんなのいないと思いますけど、誰ですか」
侘は震える指で紅を指さす。
「顔色悪いわよ、紅ちゃん♡毒が回ってきたのかしら」
「!!?? 紅っ!」
「スパイのヒント……♡その子は女の子、よ♡」
「だから誰だっつってんです。……てもう、息絶えてますね」
死体をつついてみる。反応はない。
「頭がグラぐラスる……葉、どうシよウ……?」
「紅っ、あの、ナイフか……?」
……ハッ、紅さん……!? 顔色が少し悪いですね……さっさと医療班に引き渡さないとマズそうです。
「紅さん、貸してください。俺が医療班の所まで運びます」
「……ダメだ、ナイフを持って本部に行かないと、解毒剤の種類がわからない!」
「そ、それもそうですね……急ぎましょう!」
何故。俺が、判断を間違えたのですか……? 医療班じゃダメです。普段ならそう言う側なのに。疲れてるんですかね。……疲れてるだけだといいんですけど。
『こちら嵐山。負傷者1名、本部に搬送するため離脱します』
《おう、翔、気をつけてな。怪我か?》
『そうですけど……毒です。紅さんが危険な状態です。解毒剤と毒の鑑定の準備を』
《あの紅が……わかった。すぐ出来るよう準備をしておく》
『了解です』
さっさと行かないと紅さんが大変な事になりますね……
意識をなくしぐったりとした紅を抱え全速力で走り出す。翔は組織の中でトップクラスの速度を誇る。さらに体力値も高く、スピードにおいて勝る者はいないとまで言われているほどだ。
このスピードなら、陣まで5分。本部までは車で15分。……つまり、20分。いくろ丈夫な紅でも、毒によってはやはり危ない状態になる。しかも、幹部を失うと戦力と士気におおきな影響が出る……
頭に思考を巡らせながら、翔は陣を目指し走っていった。