オカマな侘
〜香side〜
……カチャリ
弾は入ってるな。ジャムでも……ない。使えるな、ちゃんと。はぁ、ちょっと緊張しているかも。先程から3回目の確認を終え、じっとピストルを見つめる。伝説上の死神の愛機、シグザヴエル。家に代々伝わる幻の1品。伝説の死神なんて嘘くせぇ噂。だから強いとか、そういうわけでもないんだけど。
「香……いけるか?」
「〇ね、あとアレ、はやくよこせ」
「OK、なんとか大丈夫そうだな。ほらよ」
メジャーが2個。否、メジャーの間にあるのはピアノ線。片方のメジャーっぽいのはおもりの役割もはたしていて、投げて絡ませ、引っ張ってスパってするのもよし。罠を仕掛けるのもよし。万能な武器だ。
さらにピアノ線は丈夫だから、天井の梁に引っ掛けターザン風に移動するのもいいな、カッコイイ。
「お前こそ大丈夫なのか? 誠」
「Don't worry! 万全だ」
「ふーん。じゃ、また後で」
そう言い残し、走り出す。誠が持ってきてくれたせいで、体力は完全に回復した。いらない事しやがって、ボクは誠に守ってもらえる筋合いはないんだよ。おかげで今回も死ぬ言い訳が出来なくなってしまった。まぁいいか、ここからは単独行動だ。部下も全部置いてきた。
――なッ!?
足に見えない糸が引っかかって、世界が反転する。腕に鈍い痛みが走るが、寝ている状態は隙だらけの為、すぐに立ち上がる。
「いてっ……」
「お待ちしてましたよ〜、み む ろ さ ま♡」
「ハートつけんな気持ち悪い」
「あら、失礼♡」
目の前にいるこのキモさを練り固めたようなオカマは……
「侘 航輝、か」
「あらやだ、ピンポーン♡いきなりボスのお で ま し よ♡」
「おえぇぇ……」
「酷いわねぇ」
「そりゃあこっちのセリフだ。主に顔面」
言い終わるか終わらないかのうちに銃口を眉間に突きつける。引き金にゆっくり力を込めて、相手を威嚇する。
「ボクの仕事はアンタを殺すことなんでね、汚ねぇ顔面撃ち抜かせてもらうよ。」
「あら、怖いわぁ♡そんなことしていいの?」
侘は銃をものともせず振り返ると、部下のような男達が何かを運んできた。あの、ロープでぐるぐる巻きのそれってもしや……。
「お仲間さんでしょう?」
「クソゴリラ」
「うっせぇ! 離せ! ボスは!? 無事か!?」
「……馬鹿か? ボスは今司令室だぞ?」
「…………あ?」
「このみるからに バ カ を騙すのなんて簡単だったわ!」
「うっせぇ! 潰してやる……!」
「このゴリラってこんなんだっけ?」
「さぁ? でもなんでゴリラなのかしら……筋肉以外は標準じゃない?背は高いけど」
「まぁ、見た目パーカー着た不良なんだけど、身長バカでかいのと馬鹿力だからかな?」
「あら、そうなのね? 意外とイ イ 男♡」
「「おぇええぇぇぇ……」」
「2人とも嘔吐かないの! そっちのゴリラ君はホントに吐いてる! やだ汚い! やめて!」
「死ね、クソ野郎……!」
パァン!
「バカね、どこ撃ってるの? お仲間に当たってるじゃない!」
「あのゴリラでかいだけで馬鹿だしいらないから捨てただけ」
「ひっどいわねぇ……それでもホントに仲間ッ」
パァン!パァン!
鳴り響く乾いた銃声。侘は眉間と心臓を撃ち抜かれて前のめりに倒れた。ボクがゴリラを人質にとられてビビるとでも思ったのかな?そりゃ甚だしい思い違いだ。
「「「ボス!!」」」
「片付け開始、と……♪」
まず1番近くにいたやつに銃弾を浴びせる。混乱している隣のやつにはおもり付きメジャーをぶん投げてプレゼントしてあげた。ゴンッと鈍い音を立ててそいつは倒れ、大きく開いた傷口から、血飛沫が舞った。鉄臭いソレを受けた周りのやつらはさらに混乱する。こうなりゃ勝つのはいとも容易い。
……はずなのだが。
「ッ撃てー!!!」
後方から、カチャリと3丁の銃を構える音。なんだ、ちゃんと教育は行き届いているのか。
ガンッ
「大丈夫か……三室!」
「いっ……、遅せぇよ、バカゴリラ」
涼にあの馬鹿力で思い切り突き飛ばされる。幸いカバーするのは上手いようで助かった。
さっき撃ったのは、涼を仕留めるためではない。ロープを切るためだ。そもそもこいつゴリラだし。掠らせるだけなら全然平気だし。
ん……? ちょっと待て、こいつ、様子がおかしい?
「ハッ、ハハハハハ!! 逃げろ……お前ら。俺は今、とても怒っているんだっ!」
うっわ、咄嗟に耳を塞いだのに、耳がキーンってなったぁ……
「うるさい……っ?!」
ハッとして口を噤む。いつの間に、首元に、ナイフが……?
「三室……お前も、例外じゃない。静かにしてねぇとぶっ殺すぞ」
なんだよ……
瞬く間に辺りが真っ赤に染まる。必死に逃げる侘の部下ども、馬鹿だな。幹部の全力疾走にかなうと思ってるのか? 窓からさす月光に照らされた刃が白く煌めく。その瞬間、その刃は赤を飛び散らせながらその色に染まる。
……涼の本気、初めて見たな。ゴリラのくせに、無駄に速い。普段はうっほうっほしてるイメージあるからなぁ。
「おい三室」
「……なんだよ」
「言うなよ、誰にも」
「は?」
「その……俺が捕まったとか、さ」
予想外の言葉に、!キョトンとして涼を見つめる。
「……っふ、ハハハ」
「なに笑ってんだよ! 俺が必死に頼んでるというのに」
「どこが必死なんだよ」
「全てだ」
「あっそ、んなこと気にするの?」
「当たり前だろ! カッコ悪い所、あいつらに知られてたまるか」
「ボクはいいのかよ」
「みられたものはしょーがない」
「そう」
んー、疲れた。別にボクなんもしてないけど。ボス撃ち殺しただけだけど。
《香、聞こえてるか?》
『お前いつもすげータイミングいいよね、どうしたの』
《なんでだろうな、戦いはまだ終わってないぞ》
『は? ボスぶっ殺したぞ?』
《細かいのがまだ大量に》
『爆破しちまえよ、めんどくせぇ』
《近隣住民への被害が尋常じゃなくなる、却下だ》
『はいはい潰して帰りまーす』
めんどくさい。ていうか誠、個人の無線で接続しているのか。司令室には居ないはずなのに、なんでボス倒したってわかったんだろう。
「なぁ涼、これ細かいの全部潰したらボスがお前のこと頼りになるって思ってくれるかもよ?」
「……おっ、マジか! 殺るしかねぇええ!」
これでよし、ゴリラが脳筋単細胞でよかった。