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龍の国JIPANG ~剣の巫女~2

― 第一章 目覚め ―


 朱音あかねは炎の中にいた。

(私は死んだの…?)

 身体は何ともない。熱くも痛くもないのが不思議だった。ただ温かく、心地よい。

(なんてきれいなんだろう…)

 炎の光を見ていると心が安らぐ。まるで母親の胸に抱かれているかのようだ。朱音はしばらく炎を手に巻き付けるかのようにひらひらと返して遊んでいた。


 また動物のような鳴き声が聞こえてきた。


(龍の声…。私を呼んでいるの?)


 炎の中から赤い龍が姿を現した。やがて龍は人の形をとり、真っ赤な髪をした白装束の男になった。真紅の髪の男はゆっくりと目を開け、朱音を見た。碧く美しい双眸が朱音をしっかりと捉えていた。


(なんてきれいな人なんだろう…。)


 シュカ、オマエハツルギノミコトシテイキルノダ…。ワタシハオマエヲマモル…。


(つるぎのみこ…?)


 真紅の髪の男はまた龍に姿を変え、口から炎を吐き出した。炎は急に勢いを増し、朱音を飲み込んでいった。



 龍の国の神官、御影ミカゲは神殿の天守閣から満天の星を見上げていた。その視線の先には、ひときわ輝く星があった。その星は赤く強く光ると、突然流れ落ちた。周りにいた星読みたちが一斉に声を上げ、口々に叫んだ。

「龍の星が地上へ降り立った!剣の巫女が復活するぞ!」

 御影は静かに視線を下ろし、星読みたちに向かって言った。

「赤い星であった。火の部族の娘である。至急、使いを送るのだ。」

「はっ!」

 星読みの一人が一礼し、その場を去った。別の星読みが御影に声をかけた。

「御影どの。陛下へお知らせしなくてよいのですか?」

「まことの巫女か見極めるのが先だ。陛下には、龍の星が地上へ落ちた、と伝えよ。それでお分かりになるだろう。」

 御影は再び夜空の星を見上げた。



 シュカ、シュカ…!


(誰?シュカとは私のこと…?)


朱花シュカ!」

 大きな声に、朱音は飛び上がるように体を起こした。

「朱花!ああ、本当に生きているのね!」

 赤い髪をした年配の女性が朱音をぎゅっと抱きしめた。女性の涙が朱音の頬に触れた。

「あのっ…、ちょっと…!」

 見知らぬ女性に抱きしめられ、朱音は困惑した。いったい何が起こったのだろう。ええと、確か高校の修学旅行でスカイタワービルに行って、展望フロアから東京の街を友人たちと眺めていたはずだ。そしたら火災警報器が鳴って、煙がフロアに入ってきて…。

(私、生きてる…!)

 女性を自分から引き離し、朱音はベッドから飛び降りた。

「私、死んでない!生きてる!助かったんだ!」

 自分で自分を抱きしめるように腕を自分の身体に巻きつけた。そして、気づいた。なぜか白い着物を着ている。自分の肌の色も異様に白いような気がした。自分の体がまるで自分のものではないような違和感を感じた。

「え?やっぱり死んだの?」

「何を言っているのです。助かったのですよ。火の龍のご加護をもって」

「え?ひのりゅう…?」

 よく見ると、そこは見たこともない家具が並んでいる部屋だった。まるで骨董店などに展示されているような見事な細工のアンティーク家具だ。中国のものかしら?

「本当に奇跡だわ。朱花、よく無事で…。」

 また違う声がして後ろを振り返ってみると、そこにはもう一人の赤い髪をした女性が立っている。自分より少し年上くらいだろうか。キレイな女性だ。

「シュカ?誰、それ?私の名前は桐生朱音きりゅうあかねです。あの、ここはどこですか?」

 そう言うと、二人の女性は怪訝そうな顔をした。何か変なことでも言った?

「ああ、朱花…!恐ろしい目に遭って、きっと記憶をなくしているのでしょう」

 年配の女性が再び朱音を抱きしめた。

(記憶喪失?いいえ、ちゃんと覚えている。)

 朱音はもう一度二人をよく見た。二人ともなんて赤い髪をしているのだろう。肌も白く、目の色も不思議な色をしている。外国人だろうか。しかし、東洋人とも西洋人ともいえない。ハーフ?

「Can you speak English?(キャンニュースピークイングリッシュ)」

 英語で話しかけてみたら、もっと怪訝そうな顔をされた。

「いったい何を言っているのです。さあ、支度をしましょう。」

 年配の女性が朱音の白い着物に羽織をかけ、櫛で髪をとかしてくれた。その自分の長い髪を見た瞬間、朱音は胸がキュッと締め付けられるような感じで驚いた。

(赤い…!)

 自分の髪も赤かったのだ。それも彼女たちよりもずっと赤い。燃えるような赤い髪。夢の中で会ったあの赤い龍のように、深い深い赤。

「か、鏡を…!」

 若い女性が丸い大きな手鏡を差し出した。奪い取るように掴んで、鏡を見た。

(これは、誰…⁉)

 鏡の中には、美しい少女の顔があった。真紅の髪に大きな碧い瞳。肌は透き通るように白く、顔立ちも整っている。自分に似ているが、自分ではない。自分がハーフだったらこんな顔になっていただろうか。

(一体、どうなってるの…⁉)



 ひとり残された部屋の中で、朱音は膝をかかえ、ベッドに座り込んでいた。いったい何が起きたのだろう。ここはどこなのだろう。自分は誰なのだろう。

(これって、死後の世界?それとも、夢の中?)

 いや、違う。こんな生々しい夢があるわけがない。自分はあのビル火災で死んで、この娘の身体に乗り移ったのだ。きっとそうだ。

「朱花、入るよ。」

 今度は男の声がして、部屋の戸が開いた。これまた赤い髪の男が現れた。朱音よりいくつか年上の若い男だ。金の刺繍が施された高価そうな着物を着ている。瞳は碧く、精悍な顔立ちをしている。

(イケメンだ…)

 何を思ったのだろう。急に恥ずかしくなり、顔を伏せた。

「大丈夫だ。私がついている。記憶はいずれ取り戻すだろう。心配いらぬ。」

 男は朱音にそっと手を差し出した。その手を取るべきか少し迷った。迷った末、男の手に自分の手を重ねた。男はぐいっと力強く朱音を抱き寄せた。

「お前は朱花。私の大事な義妹いもうとだ。」

「いもうと?あなたが私のお兄さん?」

「私はガク。龍の国の第三皇子で、お前の姉の夫だ。」

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