雨の日に。
雨が降っている。雨は嫌いじゃないけれど、濡れたりするのはめんどくさい。雨は眺めているには良いものなのだが。
今朝天気予報を見て雨が降ることを知っていたので、傘はしっかり持ってきた。これで濡れて帰らずに済むな。そんなことを考えながら下駄箱で靴を履き替えていると、一人の少女が出入り口のところに立っているのを見つけた。
知っている顔だ。彼女の名前は佐藤栞、俺の幼馴染だ。小さいころはよく一緒に遊んでいたのだが、年齢を重ねるにつれて少しずつ話さなくなってしまった。特に高校に入ってからはほとんど話してない。何で話さなくなってしまったのかはよく分からない。
どうして、佐藤はあんなところに佇んでいるのだろう。どうしよう、話しかけたほうがいいだろうか? ただ横を黙って通り過ぎるのはさすがにまずい気がする。仕方ない話しかけるか。
「佐藤」
とりあえず名前を呼んでみた。佐藤はこちらへ振り返った。
「なんだ竹中かー。なんだか久しぶりだね」
なんだとはずいぶんな言い草だな。
「ああ、そうだな。何かあったのか? そんなところに突っ立って」
「あー……」
「どうした?」
「実はさー傘忘れちゃってね。どうしようか悩んでたの」
「天気予報は見なかったのか?」
「私がそんなの確認するとでも?」
「思わないな。確かに」
こいつはそういうタイプだ。
「でしょ?」
「なんで少し得意げなんだよ」
「ふふっ」
「ふっ」
「あははははは」
二人そろって笑った。なんだか面白かったのだ。
久しぶりに話したのに、気まずくならなかった。
「何だかこういう感じ久しぶりだね」
「そうだな」
「なんかいいねこういうの」
「ああ」
「それは、さておき傘どうしよう……。濡れちゃうよー」
「残念だが、俺は予備は持ってないぞ」
「ええー……」
佐藤は困ったような顔をしている。
「仕方ないな」
「……?」
「傘一つしかないけど、お前も入るか?」
「ええっ! それってあいあ……」
佐藤は顔を赤らめた。照れているみたいだ。
「入らないなら俺は先に帰るな。じゃあな佐藤」
「ああっ! 待ってよ竹中!」
佐藤は俺の傘に入ってきた。そして、そのまま他愛ないことを話しながら帰り道を一緒に歩いた。