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8/13

8,週末

外で遅い昼食をとり、二人で私の自宅に向かった。

ポストを確認すると封筒が1つ。消印がないので直に入れられたものだ。

「部屋の鍵…」

文也からであろうその封筒には鍵と手紙が一枚。

鍵が入れられていて正直ホッとした。

オートロックと連動したディンプルキーなので短時間での複製は恐らく無理だと思いはするが、早めに管理会社に依頼して交換したほうがいいだろう。


『もう一度会って話したい』


という簡単なものだった。

横で見ていた総司さんは当然気に入らないらしい。

「どうしても会うなら俺も一緒だ」

「えー嫌ですよー…」

「なら会わせない」


一人暮らしには贅沢すぎる2LDK。

そのうち1部屋は姉の部屋だが今も手をつけれず5年前のままだ。

もしかしたら姉の死の原因に繋がるものがあるのではと考えるとふれる事ができないのが正直なところだ。

「結構広いんだな?」

「姉と一緒に住んでたままなんで部屋数的には多いかもしれないですね」

あとはピアノを弾くので防音対策のとれているマンションがなかなか無い事だと伝える。

「とりあえずさっさと荷物まとめちゃいます」

「あぁ、早く出たほうがいいな」

「でも本当にいいんですか?お邪魔しちゃっても…」

総司さんは週末だけでなく少しの間ここには戻らない方がいいと言う。

確かに私としても新しい鍵に変えるまでは不安があるのでその申し出はありがたかったが戸惑いも多い。

「引っ越してきてもいいぞ?」

そう言って総司さんはにこりと笑う。

「使ってない部屋があるからな、いつでも歓迎だ」

「展開が早すぎます…」

「営業マンは即断即決が大事だろう」

「全然違いますから!もっと考慮してくださいよ!」



自宅を後にして総司さんの車助手席に乗り込む。

黒のトヨタ ランドクルーザープラド。多くなってしまった荷物も楽に詰め込る。

総司さんは結構アウトドア系?

「そうだな、スキーとか時期になると行ったりはするな」

「へぇ~…スキーなんてやった事もないです」

「機会があれば一緒にいくか」

「自慢じゃないですけど…私絶望的な運動神経なんですよ」

「確かに趣味からしてインドアだな」

「運動神経は姉に全部持ってかれました」

「お姉さんは何してたの?」

「生粋のバレエ少女でしたよ。興味があるものは両親はすすんでやらせてくれました」

「へぇ…君たち姉妹はご両親に愛されてたんだな」

「そうですね…とても恵まれた環境だったと思います。家族も仲がよかったですし」

私は少し俯いて生前の家族を思い浮かべた。

「悪かった…」

「いえもう大分経ってるので…大丈夫ですよ」

「まだ5年だ…強がるな」

「…」

「さて…夕飯はどうするかな?」

信号待ちをしながら総司さんはトントンとハンドルを人差し指で叩く。

「簡単な物でよければ作りますよ?」

私の方へ向き思い出しかのように呟く。

「そういえば毎日弁当だな沙紀は」

「毎日外食じゃ食費ばかになりませんもん」

「好き嫌いは特にないから得意料理でも食べさせてもらおうか」

期待しないでくださいよ?と私は笑いながら頷いた。

目的地はスーパーとなった。



長年外国暮らしだったが私の味覚にあったのは実は和食だった。

なのでレパートリーも比較的和食が当然多い。洋食よりもヘルシーだ。

何を作ろうか考えたが肝心の調理道具があるのか不安になる。

聞いてみると案の定総司さんはあまり料理はしないらしいが基本的な道具は揃っているという。そうか!流石お姉さん!


ありそうな調味料を聞き献立はタラのバターソテー、鶏の酒蒸し、ほうれん草の胡麻和えとお味噌汁を作った。胡麻和えは実は私の大好物。

「流石に自炊しているだけあって手際がいいな」

「味の保障はしませんよ?」

「タラか、久しぶりだ。美味しそうだ」

テーブルに着くなりまじまじと料理をみつめている。

「ちょうど今が旬ですからね」

お味噌汁をよそい総司さんが受け取る。

今更なんだけど…なんだか新婚夫婦みたいだな…と恥ずかしくなった。

「どうした?」

「いえなんでもっ、お口に合えばよいなと思いまして」

「ドイツ料理でも出てくるかとおもった」

私も椅子に腰掛けいただきます…と二人で箸を進め始める。

「私は基本的に和食なんですよ、あ、でも今時期ならヌッスシュトレンは姉と作ってたかな」

「ヌッスシュトレン?」

「あぁ、日本だとシュトーレンでしたね。色んなナッツを練りこんだクリスマス前の定番ケーキです。クリスマスまで細くスライスしながら愉しむんですよ」

「あぁそれは聞いたことがある」

「失敗すると本当ボッソボソになるので気合を入れて作ったりしました。ドイツにした頃は時期になると先生の奥様から頂いたり。ドイツのクリスマスは凄いですからね」

「確かに、一度その時期に出張でリューベックに行ったが見事だったな」

「ですよね。私はハンブルクに住んでいたので市庁舎前広場のクリスマスマーケットが楽しみで仕方なかったです」

懐かしそうに話す私を見ながら総司さんは聞いてくる。

「またドイツに行きたい?」

「時間が取れれば行きたいなとは思いますよ。第2の祖国みたいなものですしね」

「成る程」

ドイツの話題で今朝の電話を思い出した。

「そうだ、今日の電話なんですけど、師事してた先生のお弟子さんが来月日本でコンサートするらしくて先生も来日されるんです」

「ちょっとネットで調べたけど、その先生ってかなり有名な演奏家じゃないか」

「そうですね…自分って本当恵まれてたと思いますよ?」

「その人が認めたなら音楽の道に行ってもよかったんじゃないか?」

「弾くのは好きなんですけどそれを大勢に披露するのは好きじゃないんです」

「そういうものなのか」

「少なくとも自分は。だけど小さい子に教えたりするのはいいかなって考えたりした時もありましたけどね?」

「確かにそんな道もあるな」



食事が終わると総司さんが食器洗いをしてくれた。

「家事は女だけの仕事じゃないからな」

というのもお姉さんのお言葉だそうだ。

この人にそんな事まで言えるとは…本当お姉さん強いなって感心する。

私はお言葉に甘えて先に入浴を済ませるとソファーに腰掛けて思案する。


ここで大きな問題が浮上した。

昨日はなし崩しのようにあのベッドで寝てしまったわけですがっ。

今日はどうしたものだと…

入浴を終えた総司さんにさり気なく聞いてみるが。

「客布団なんてないぞ?」

即答でした、そうですよね気がつかなくて申し訳ありません。

貸していただいた部屋で雑魚寝するか。

「明日布団一式買ってきます!ではおやすみなさいです」

すっと立ち上がり部屋に向かおうとしたが後ろから腰を抱えられて二人でソファーに倒れこむ。彼を下に敷いているような状態で、慌てて起き上がろうとするがそれもまた阻止される。

「ちょ…っ」

「どこで寝るつもりだ?」

「も…勿論お部屋で…?」

「ベッドがあるから布団もいらない」

「私のじゃありませんっ!」

その手はゆっくりと私の腹部を撫でていく。

「我侭なお姫様だな、広いから十分じゃないか?」

「そうじゃなくて…っ」

ゆっくりと大きな手が胸を揉みしだく。

早朝の出来事を思い出し身体が熱くなっていくのが分かる。

「俺は好きな女を前にして紳士でいられるほど出来た男じゃないんだよ」

そういうと私を抱きながらゆっくりと起き上がる。

「ベッドにいこう」

耳元でゆっくりと囁かれる。

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