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12、大学時代

仕事が終わり今日は奈津子と久々に会う約束をしていた。

『顔見せて安心させろ!』というメールで申し訳なく思った。

まだちゃんとあの夜のお礼も言っていないのだ。


待ち合わせ場所は大学時代からお世話になっている紅茶の美味しい喫茶店である。

ここのロイヤルミルクティーが私はお気に入りだ。

奈津子の隣にはこれまた高校からの友人加納 理沙が一緒にいた。


「あら、理沙も一緒?ひっさしぶり」


二人は向かいの席に着くと同時に私をまじまじと見つめた。

先に届いていたミルクティーを飲みながら小首を傾げる。

「どうしたの?二人とも?」

はぁーと息を吐いたのは奈津子である。

「おもったより元気でよかったわ」

「本当に…ちょっと安心した」

二人は安心したように肩を落とすとメニューを開く。


理沙がメニューを見ながら何事も無かったかのように呟いた。

「一昨日、後藤君からまた連絡きたから」

「そうなんだ?」

「思いっきり罵倒浴びせて私も着拒してやったわ」

「いやぁ…私たちの問題だからそこまでしなくてもいいよ?」

理沙は勢い良くメニュー表から顔を上げて叫ぶ。

「冗談じゃないわよ!なんなのあの二人!」

私は苦笑いしかできない。理沙は高校時代から知っているから尚更なのだろうか。


「それで、沙紀は今どこにいる?自宅に戻ってもいないんでしょ?」

と横から奈津子が聞いてくる。

当然この質問が出るであろう事は予想していた。

「うん…えーっとね。上司の家?かな…」

「「はぁ~?」」

と二人同時に声を上げた。

この二人には隠す事もないのでこれまでの出来事を包み隠さず話す事にした。

二人の反応が気にはなるが総司さんに関して嘘はつきたくなかったのだ。

「やだなにそのイケメン!」

「王子様みたい~」

と突っ込みどころは満載だったが私の不安を二人はいい意味で裏切ってくれた。

「別にいいんじゃない?二股かけてたわけじゃないんだから」

「自分でもそっちの物件にいくわ」

またもや私は苦笑いである。


「でも気をつけなよ?何考えてるかわかんないけどまだ沙紀の事探してる風だからさ」

私はそれを聞いてわかっていると頷く。

「うん…でもいつまでも自宅に戻れないのも困るし。一度やっぱり会ったほうがいいのかな…」

正直このまま自宅に戻れないのは困る。総司さんにもこれ以上迷惑をかけたくもなかったし、何が言いたいのか知らないが文也とは会うべきなんだろうと最近思っていた。

「それちょっとやめたほうがいいと思う…」

理沙がぼそりとそう呟き考え込んでいる様子に少し気になった。

「どういう意味?」

「うーん…」

「渚ってさ…私と同じ職場じゃない?」

部署は違えど確か理沙と渚は同じ会社であった。

別の課だから詳しくはわからないがと前置きして理沙は話し始めた。

どうも頬を真っ青にして会社に来たらしく上司から有給を取れといわれたらしい。

「あの子って顔はかわいいから受付嬢なんだけどさ、そんな顔じゃ受付なんかに出れないじゃない?だからこの1週間くらい会社休んでるのよ」

「まさか…」

「うん…彼氏と喧嘩して殴られた的な事言ってたんだって」

「文也が手を上げるなんてそんな事…信じられない…」

「だから何かあったら心配だから沙紀には後藤君と会ってほしくないな」

「う…ん…」

私は暫く呆然とした、自分の知っている彼とは大分違うからだ。

文也はどちらかというと温厚な人で私は彼が激高するような姿を見たことがなかった。

所謂草食系とでも言うべきか、周囲に穏やかな雰囲気を醸し出すような人柄で争いごとなども好まない。勿論今まで手を上げられるようなことはまったくない。

だから正直今の理沙の言葉が私にはなかなか理解しがたいものなのだ。

そんな人ではなかったはずだ…

そんな私の思いを二人も感じたのか3人とも複雑である。

理沙がそんな3人の心境をわかっているように口にした。

「なんか…いつもの後藤君の行動じゃないかなって思うよね、なので会うのであれば沙紀一人で会うのは絶対にやめてほしい」

そして横で奈津子が歯切れの悪そうに言う。

「ぶっちゃけさー。本当に後藤君の子供なの?」

「私が知ってる渚って大学時代からだけど、正直大学時代結構…食べまくってたよね」

「くるもの拒まず的なものがあったよねぇ」

二人共過去を思い出しながら同時に私を見る。

「うーん?そうだったっけ?」

苦笑いしながら誤魔化すが、実際は事実なのでなんとも言いようがない。

大学時代一度それでかなり渚に説教したことがあった。

大人しいわりににそんなところは大胆で貞操観念が若干薄めな彼女に困惑した記憶がある。

渚はとても大人しい女の子だといっていい。

高校時代、私が声をかけたのがきっかけだったがそれまで友人と呼べる人はいかなった。腰まである長い黒髪をみつ編みして前髪は眉毛の上で綺麗に揃えられていた。

いつも自分の席や図書室で読書をしていたり、お昼ご飯も一人で食べているようだった。編入したてで理由もわからずこっそりとほかの子に理由を聞くが特にこれといった理由もなく、一人でいたいタイプの子なのかとも思ったが、時々別の女の子のグループを見ている彼女の表情は羨望的で、私はきっと本当はそんな関係を望んでいるんじゃないだろうかとある日お昼に無理やり誘った。

「普段から人と話さないから何を話したらいいのかわからない」

という彼女を可愛らしくも思い、私は彼女に自分と一緒だねと言った。

不思議そうな顔をする彼女に「私も帰国したばかりで日本語もまだ苦手だから話相手になってよ」的な事をいっては彼女を誘った。

それから徐々に渚は周囲にも慣れていったが、常に私の後ろを着いて来る子になってしまった。つまり渚の交友関係は私をピラミッドの頂点としたものが形成されてしまったと言っても過言ではない。

特にこれといって不満はないが不安はあった。

それではいつまでたっても渚は自分から友人を作ろうとはしないだろう。

そんな事を彼女に言ってみるが「沙紀ちゃんの友達なら私も安心なの」と笑顔で切り返される。周囲はそんな私たちを生暖かく見ていた。

高3年でも同じクラスになり文也ともその時同じクラスになった。

同じ選択科目をとっていることがきっかけで彼とも話すようになり、私の周囲では案外多人数の仲良しグループが出来上がっていた。

渚は異性と話すときはどこか一線を引いているようで常に硬い表情だったが、私と文也がよく話すので彼に対してはそんな警戒心をあまり表に出してはいなかった。

大学に入ってから彼と付き合いを始めたが、その頃からだろうか?渚の視線は私にあるようで文也をみている。

「渚…あなた文也が好きなの?」

思えば私は案外に酷い人間である。あるとき渚にとうとう直撃した。

一瞬目を見開いた渚が目をうるうると震わせて首を横に何度も振った。

「ちっ…違うの!私別に文也君が好きとかじゃないの…」

「でもいつも文也をみてるよ?」

「それはそのっ…二人が羨ましいって言うか…憧れっていうか。私も二人みたいな関係になりたいなって…それでいつもみちゃってるの。嫌な思いしてるならごめんなさい」

しゅんとなり俯いている渚にこれ以上言うこともできなくて。

「それならいいけど…もし文也が好きなんだったら…ちゃんと言って?」

「沙紀ちゃ…ん?」

「ごめんね、私も上手くは言えないけど…私も文也が好きだから多分別れてはあげれないけど…ごめん…どうしたらいいかな…」

「ううん…本当に私文也君の事友達としか思っていないから!ごめんね沙紀ちゃんに嫌な思いさせちゃって本当にごめんなさい…」

「それならいいんだけど…」

そんな事があってからだろうか、渚の男性関係についての噂がちらほらと小耳に入ってきたのは…。

私はその時酷く後悔した。

そんな行動に走らせたことが自分なような気がしてならなかった。

渚に噂について問い詰めると「気持ちいいんだよ?」などと言ってくるので驚愕もしたが、本当に好きな人とそういうことはしなさい!と怒った。

それからあまり噂は聞かなくなったが…実際はどうだったかはわからない。

あの時の渚の言いようはSEXは気持ちのいいスポーツ程度のようだったから。

時々何を考えているのかわからなくなる。

そんな感じで同級生のはずなのにちょっと目が離せない妹のような渚が大学時代は心配で仕方がなかった。

そんな話をすると文也も苦笑いしながら頷いていた。

それでいて少しだけ嬉しい様な寂しい様な気分にもなった。やっと渚は私の手元から離れて、出会いが合コンであれ何であれ誰かと親しくなろうと自分で行動しているという事なのだ。

卒業してからも大学時代のグループや時には3人で遊んだりもした。

渚の視線は時々気づいたりもしたが敢えてそれは気づかない振りをしていた。

長い付き合いなのだ、彼女の言葉を信じようと思ったから。

だから友達として文也と渚の二人で会う事も特に問題とは思っていなかった。



私は昔を思い出しながら呟いた。

「結局…文也を本当に好きだったのは渚だったのかもしれないね」

「正直にいうとね、私…多分文也とは今後結婚とかも考えなかったかも…」

「沙紀…?」

「結婚が怖いなって思ってるのもあるけど、自分でも気づかないうちに皆に対して一線引いてたってのもあるから」

二人は困ったような顔をして私の話の続きを待つ。

「結局文也に対してもそうだったんだよ。私結局信じきれていなかった。だから彼からも結婚とかの話も出なかったし、渚にも傾いちゃうよね?」

「沙紀はお人よし過ぎだよ」

「んー。結果論だけど、文也がちゃんと私と別れて渚と一緒になるって運んでくれてたら、私きっと今でも二人の友達でいられたかもしれないな」

そういうと二人はやれやれといった顔で私をみた。

理沙は穏やかに微笑みながらこう言った。

「なんだか沙紀少し変わった。ぴんと張り詰めた糸みたいなのが解れて穏やかになった気がする。以前の沙紀に戻ったみたいで嬉しいよ」

それに同意するように奈津子も…

「私たちじゃあんまり力になれないかもしれないけど、何かあったらちゃんと頼りなさいよね?大事な友達なんだからさ?」


そうだね。今なら素直に頷けるかもしれない。私は一人だと思っていたけど周りにはこんなに心配してくれる友人がいる。

それに線を引いていたのは自分自身なのだ。

「それってさ、やっぱり上司さまのお陰なんじゃない?」

ニヤリと厭らしい笑みを浮かべる奈津子がなんだか怖い。

「さて!どんな人なのかしっかりと事情聴取しようじゃないの」

「そうそう!じゃんじゃん聞いていくわよ!」

「ええええー」

女3人寄ればなんとか…であった。




二人と別れたあと、必要なものがあるので自宅に寄るとメールで伝えたら総司さんも上がりだというので合流することになった。

どうやら一人でマンションに行かせるのが心配でならないらしい。

マンションの最寄り駅で待ち合わせをしたので先に着いた私は駅の入り口で待っていることにした。

時計を見ながら遅い夕飯になるけどどうしようか?など考えていると聞きなれた声が背後から聞こえた。


「沙紀ちゃん」


振り向くとそこには渚の姿があった。

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