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第九十二話

間違えました、此方です





「ジャップが来るぞ!!」

「生き残ってる銃座は撃ちまくれェ!!」

「カタナだ!? あれに斬られたくない!!」


 マタニカウ河を渡りきった川口支隊の歩兵第124連隊は残存の米軍守備陣地に雪崩れ込んだ。


「白兵戦は此方の十八番なんだ!!」

「九州男児此処に有りィ!!」

「くたばれmarine!!」


 歩兵第124連隊の兵士達は九九式短小銃、銃剣、百式機関短銃等を駆使して米兵を一人ずつ討ち取っていく。対して米軍も負けじとスコップや拳銃等で応戦する。

 いつしかマタニカウ河に日米両軍の戦死した兵士達の血が流れ込みマタニカウ河は血に染まった。歩兵第124連隊は国生少佐や水野少佐等中堅佐官までもが戦死してしまう。(後に血染めの河と呼ばれる)

 一方、飛行場南のジャングルから第二師団と第三八師団が突撃を開始した。彼等が到達するまでの道程は工作隊が切り開いたが重砲までは間に合わず、重砲隊は最大射程距離からの支援砲撃に徹した。その分、彼等を助けたのは迫撃砲であった。

 大隊砲や連隊砲も装備していたが軽量で運びやすい迫撃砲はジャングルの進撃路には大いに役立ったのであった。


「飛行場に雪崩れ込め、さすれば我々の勝ちだ」


 丸山中将は極簡単な命令を発した。誰でも分かる命令である。二個師団は丸山中将の命令通りに進撃しジャングルを突破、飛行場の端に到達したのである。


「飛行場だ!?」

「雪崩れ込め!!」

「叩き潰せ!!」

「迫撃砲は建物にどんどん叩き込め!!」


 迫撃砲小隊は目ぼしい建物に手当たり次第に八九式重擲弾筒と九七式曲射歩兵砲の砲弾を叩き込んだ。しかもこのうちの一発はヴァンデグリフト少将の司令部に命中しヴァンデグリフト以下を死傷させて指揮機能を一時不能にさせる事に成功したのである。

 また、沖合いには川内以下の三水戦が突撃の支援のため砲撃を敢行していた。


「撃ちまくれェ!! 擱座しても構わんから徹底的にやれェ!!」


 旗艦川内にて三水戦司令官の橋本少将はそう叫ぶ、実際に駆逐隊も思いっきり飛行場付近ギリギリまで進出して砲撃していた。しかし、海兵隊も黙ってはおらず海岸砲を用いて反撃する。


「撃て!! ジャップ艦隊をただで返すな!!」


 駆逐隊のギリギリ進出も相まって海兵隊の海岸砲は駆逐隊――第11駆逐隊に砲火を集中させた。


「如何!? 退避する!!」


 11駆逐隊司令の杉野修一少佐は退避を命じたがその命令は間に合わず、吹雪、白雪、初雪は集中砲火を浴びた。


「消火急げ!! 魚雷に誘爆するぞ!!」

「司令、このままでは危険です!! 擱座しましょう!!」

「やむを得ん……白雪と初雪にも通達せよ!! 擱座後は臨時陸戦隊を編成して上陸、陸軍の支援をするぞ!!」


 炎上した三隻は次々に擱座をして沈没の危機は回避した。擱座した三隻は無事な砲で飛行場を砲撃、また三個小隊が軽火器を抱えて上陸して陸軍の突撃を支援する。後にこの三隻はガダルカナル島戦後に内地へ回航、対空対潜仕様へ改装され海上護衛隊に移管され第11護衛隊を編成するのである。

 それは兎も角、ヴァンデグリフト以下の司令部要員を死傷させた事で米海兵隊の指揮が低下し各防衛陣地はじわじわと日本軍が奪取していったのである。それでも米海兵隊は日本軍に負けじと反撃したがチハ等の強力な兵器を所有する日本軍には勝てず連絡が寸断されたところは次々と降伏していったのである。

 夜が明けて0730、ヘンダーソン基地の完全攻略を宣言しヘンダーソン基地に掲げられていた星条旗は降ろされ代わりに日章旗が掲げられたのである。


『バンザァーイ!! バンザァーイ!! バンザァーイ!!』


 勝者となった日本軍は直ちにラバウル司令部に報告を入れたのである。


「ガダルカナル島を攻略したか!?」


 ラバウル司令部で吉報を待っていた今村中将は思わず椅子から立ち上がる。


「よし、これで面目は保てたな」


 今村中将はホッとするのであった。トラック島でも、島に上陸していた将和に一報がもたらされた。


「そうか……」


 将和は従兵を下がらせると一人で酒を飲む。


「帝都空襲……ミッドウェー……そしてガダルカナルか。これで史実との違いが出てきたな」


 史実を繰り返さないため、将和はその信念を以て今まで戦ってきたのだ。


「我武者羅に足掻いてみせる。なぁ、歴史よ……」


 それからの将和は黙々と酒を飲み続けるのであった。後に歴史家は語る。「ガダルカナル島再攻略は大東亜戦争前半の終わりである」と。そして「FS作戦は中盤戦の始まりである」と……。


「FS作戦の実施予定は11月頃とする」


 海軍省の一室にて宮様は吉田海軍大臣と会談していた。


「ガダルカナル島で米軍を叩けたのが幸いでしたな」

「うむ。せめてニューカレドニアまでは攻略したいものだがな……」

「ニューカレドニアは良質のニッケルが採掘出来る場所、ニッケルは航空機生産に必要な材料……異論は有りませんな。しかし……」

「またあいつか」

「はい、山本はハワイ攻略を主張しています」


 吉田の言葉に宮様は溜め息を吐いた。ミッドウェー以降、山本は大湊鎮守府長官へ、井上は海南島警備府長官へ異動させられていたがそれでもめげずにハワイ攻略を主張しそのまま早期講話も主張していた。


「現実的にハワイ攻略は夢のまた夢でありFS作戦こそが現実的である」


 最初は旧友であるからこそ庇い立てをしていた吉田であるが、ハワイ攻略作戦に疑心を持ち始め結果としてはハワイ攻略作戦は潰される事になる。それでも山本と井上は諦めきれずに吉田を動かそうとしたが吉田は二人に愛想を尽かしたのであった。


「まぁ、あの二人が予備役になるのも時間の問題だがな」

「とりあえずは三好長官の帰国を待ちましょうか」


 数日後、将和は内地へ帰国しそのまま宮様らと会合をしていた。


「準備の段階がありますから12月が宜しいかと思います」

「ふむ……」

「ガダルカナル島を後方基地としニューヘブリデス諸島を攻略、よくて来年2月にニューカレドニア攻略が得策ですな」

「サンタ・クルーズ諸島も攻略するかね?」

「偵察次第によりますが一個旅団は投入しても問題はないと思います。サンタ・クルーズ攻略には編成が完了した第三機動艦隊を投入しても良いかと……」

「ふむ……」


 将和の指摘に宮様は考える。直接ニューヘブリデス諸島に乗り込んでも良いと思ったがガダルカナルという前例があったのだ。


「……よし、先にサンタ・クルーズ諸島攻略に動こう」


 こうしてサンタ・クルーズ諸島攻略が決定した。海軍は第三機動艦隊を、陸軍は先のガダルカナル島攻略で活躍した川口旅団を投入する事になったのである。実施予定は11月上旬である。


(米機動部隊が出てくるか不安な点があるが……まぁ指揮官は山口だからそこのところは大丈夫だろうな)


 米軍は空母こそ8隻が稼働しているが正規空母なのはサラトガとエセックスのみで残りは護衛空母である。


(恐らくは我々がニューカレドニア攻略に動き出した時に米機動部隊も動き出すだろうな……)


 将和の予想は的中する。11月5日、サンタ・クルーズ諸島攻略が開始され第三機動艦隊は偵察により把握していたネンドー島の航空基地を叩くために攻撃隊を送り込んだ。その間にも山口は彩雲隊を出して近海に米機動部隊がいないか索敵をしたが遂に現れる事はなかった。


「そうか……(やはり三好隊長が言っていたようにニューカレドニア攻略の時期に動きそうだな)」


 龍驤の艦橋で山口は顎に手をやりながらそう思う。


「まぁ敵空母がいないならサンタ・クルーズ諸島攻略に専念が出来るものだな」


 第三機動艦隊の集中支援もあり川口旅団は十分な援護の元、ネンドー島等に上陸し僅か五日で攻略するのであった。


「よし、次はニューヘブリデス諸島だ。万全にしてから攻略に移行する」


 横須賀の聨合艦隊司令部で堀はそう告げる。陸軍も一個師団を投入する予定である。


(史実エセックス級空母が出てくるまでにニューカレドニアは取りたいものだな……)


 海軍省の一室で宮様はそう思う。史実を将和から聞いている宮様にとっては史実エセックス級は厄介である。


(此方も雲龍型を揃えているからと言っても米国の工業力は侮れん……もしかすると史実で揃えなかった24隻全てが揃うかもしれん……)


 24隻の史実エセックス級空母の大艦隊が聨合艦隊を攻撃して次々と波間に消えていく艦艇が脳裏に映る。


(それだけは……避けねばならん……)


 宮様はそう思うのであった。






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