第九十一話
10月2日2240、大和を旗艦とする第二次挺身隊はサボ島沖北方を航行していた。既に岩代と薩摩は軽巡神通以下の第二水雷戦隊と共に先行している。
大和らの守りは軽巡那珂以下の第四水雷戦隊が護衛していた。
「水雷戦の猛者と共に行くのだ、作戦は成功するだろう」
高須中将は言葉に出しつつも一縷な不安があった。
(もし空母が出てきたら……)
第二次挺身隊の上空警戒には前回と同じく五航戦の翔鶴と瑞鶴が担当していたが米軍とて二度目は通じないかもしれない。そういう不安が高須の脳裏にはあった。
(まぁ空母じゃなくて戦艦が出てきたら面白いな)
大艦巨砲主義者が一度は夢見る戦艦同士の艦隊決戦、今大戦は空母が主力だがそれでも夢は捨てきれないのである。
そして高須の望みは叶った。ガダルカナル島泊地には戦艦ワシントンとサウスダコタを主力とした任務部隊がいたのである。
「戦艦だ、戦艦がいやがるぞ!!」
前衛の警戒隊に属していた15駆の駆逐艦黒潮の見張り員がリー少将の戦艦部隊を視認したのは2330だった。黒潮は直ちに全艦へ通報した。
「戦艦だと!? クソッタレ、砲弾を徹甲弾にしておけば良かったか……」
黒潮からの通報に岩代艦長の西田大佐は舌打ちをする。岩代と薩摩は飛行場を砲撃するために砲弾は零式通常弾を装填していたのだ。
「……やむを得ない。攻撃目標を飛行場から敵戦艦へ変更する!! 合戦用意!!」
第三戦隊第二小隊司令官の阿部中将はそう発した。直ちに後方にいる大和へも報せたのである。
「敵戦艦!? これは好機だぞ!!」
報告を受けた高須中将は狂喜乱舞した。やはり砲撃屋の血が騒いだのである。
「見敵必殺!! 前衛部隊を支援しつつ敵戦艦部隊を殲滅する!!」
そして前衛部隊の岩代は探照灯を照射していた。
「敵弾は全てこの岩代が引き受ける!! ヴェルダンの恩は此処で返させてもらうからな!! 砲撃開始ィ!!」
阿部中将はニヤリと笑う。かつて、ヴェルダン戦にて会津と薩摩は和解した。東北出身の阿部中将はその故事に習ったのである。探照灯を照射した岩代を見た薩摩艦長は涙を流した。
「阿部司令官……感謝しもすぞ!!」
奇遇な事に鹿児島出身の薩摩艦長は岩代の覚悟に心を打たれた。
「大和達より前に敵戦艦を沈めるでごわす!! 撃ちぃ方始めェ!!」
薩摩は岩代に数秒遅れて砲撃を開始する。狙うは探照灯で照射された敵戦艦――ワシントンであった。
「おのれ!! 敵一番艦に砲撃を集中せよ!! ジャップの戦艦を生きて帰すな!!」
ワシントンとサウスダコタは照準を岩代に合わせて砲撃をする。レーダー射撃なため三斉射目から岩代に命中弾が出てしまう。
「怯むな!! 機銃も総動員しろ!!」
割れた硝子の破片を踏みながら西田大佐は叫ぶ。岩代も負けずに撃ち返すも逆に受ける命中弾は増えていた。
「こちとら新型の戦艦なんだ、簡単に沈むか!!」
西田大佐はニヤリと笑う。岩代は炎上はしているも沈む気配はなかった。対して薩摩は照射で映し出されるワシントンに命中弾を得ていた。
「良か!! 二水戦はまだでごわすか!!」
薩摩艦長が叫ぶ。その二水戦はキャラハン少将の第67任務部隊第4群に突撃を阻まれていた。
「むぅ、これは不味いな。このままだと岩代が危ない」
神通艦橋で田中少将が焦るように呟いた。
「やむを得ない。探照灯を照射せよ、神通が囮となりその間に駆逐隊は突入せよ」
しかしその命令は実行されなかった。二水戦を阻んでいた重巡サンフランシコとポートランドに突如被弾したのである。
「何っ!?」
サンフランシコ艦橋にいたキャラハン少将は床に叩きつけられた。副官に起こされたキャラハンだが状況が読めなかった。
「新たな敵艦か!?」
キャラハンは答えを求めたがその答えは永遠に分からなかった。直後に砲弾が艦橋に命中しキャラハン以下を根刮ぎ吹き飛ばしたのであった。
「命中したか。近距離とは言えど夜戦で命中させたのは勲章物だな」
高須はニヤリと笑った。砲撃をしたのは高雄、愛宕、摩耶の三隻だった。二水戦の状況を知った高須は即座に三隻を投入させた。結果は何とか間に合った。そして大和と武蔵が戦場に到着したのである。
「超大型艦だと!? ま、まさか……」
レーダー員からの報告にリー少将は一つの答えを得た。
「バトルシップヤマト……」
あまり情報が少ない日本の新型戦艦、登場したのはMO作戦時だがそれでもリーの手元には一つの事実はあった。
「ヤマトクラスの主砲は18インチ砲である」
その事実にリーの身体は冷たい水を掛けられたように体温が下がった。
「岩代の覚悟を無駄にするな!! 撃ちぃ方始めェ!!」
大和と武蔵は砲撃を開始する。近距離なため砲撃は初弾から命中した。
「三番砲塔被弾!! 左舷の副砲が全滅しました!!」
「Shit!!」
被害報告にリーは舌打ちをする。このままだと此方がやられてしまう。撤退の指示を出そうとした時、薩摩から放たれた41サンチ砲弾が命中しリー達は床に叩きつけられた。そのため指示が一時中断し大和に再度砲撃をさせる機会を与えてしまう。
「撃ェ!!」
ワシントンは大和が最初に撃沈した戦艦のリストに列ねる事になる。不利を悟ったサウスダコタ艦長は撤退を指示したがそれは遅すぎる命令だった。
「逃がすな」
武蔵の46サンチ砲弾がサウスダコタへ叩きつけてサウスダコタは瞬く間に炎上した。最期は突撃してきた15駆の酸素魚雷四発が命中による物だった。
「では本来の作戦を開始する。岩代は後方へ退避せよ」
リー、キャラハンの艦隊を潰滅させた第二次挺身隊はガダルカナル島泊地沖へ進入、砲身をヘンダーソン飛行場へ合わせた。
「砲撃開始ィ!!」
大和と武蔵の砲撃は凄まじかった。二隻から放たれる46サンチ砲弾は格別だった。ヘンダーソン飛行場は前回以上の砲弾を滑走路に叩きつけられたのである。
「悪夢だ……」
滑走路の被害報告を受けたヴァンデグリフトは再び頭を抱えたのである。海兵隊は滑走路の修復を急がせるが不発弾にラバウル、ブインから飛来する攻撃隊に悩まされ修復は遅かった。そのため五水戦に護衛された輸送船団(第38師団と弾薬糧食類)は難なくタサファロング泊地へ錨を降ろして揚陸作業が出来たのであった。
「これで総攻撃が出来る」
ラバウル基地にて報告を受けた今村中将は微笑んだ。
「三日後に総攻撃を実施せよ」
ガダルカナル島戦は最終局面に達しようとしていたのである。そして10月6日2200、総攻撃が開始された。
「攻撃開始ィ!!」
第二師団司令官丸山中将の号令の元、各部隊は行動を開始した。工作隊の努力によるジャングルは切り開かれ重火器の移動はしやすかった。
最初に動いたのはマタニカウ河に布陣した川口支隊と一個戦車連隊であった。
「チハを先頭に突撃する!!」
歩兵第124連隊隊長の岡大佐がそう指示を出す。一個戦車連隊のチハが突撃を開始、マタニカウ河の対岸にいた米海兵隊は果敢に反撃をするが海兵隊が持つ37ミリ対戦車砲と75ミリ自走砲ではチハの装甲を貫通する事はなかった。
「な、何だあの戦車は!?」
「ジャップの戦車はブリキの装甲だって言った奴は誰だ!!」
「落ち着け!! 履帯を狙うんだ!!」
8両は地雷によって履帯が破壊され行動不能だったが残りはマタニカウ河を渡りきり米海兵隊の守備陣地に雪崩れ込んだ。
「弾種溜弾!! 徹底的に撃ちまくれ!!」
海兵隊の守備陣地は蹂躙されそれを見た岡大佐は突撃を命令した。
「今だ!! 吶喊!!」
『ウワアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
銃剣を装着した歩兵達は一気に走り出したのであった。
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