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第九十話






「何て事だ。レンジャーも沈められたか……」


 9月1日、ハワイのオアフ島に構える米太平洋艦隊司令部で米太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将は溜め息を吐いた。


「これで空母は二隻……しかもエセックスは修理だ」

「幸いなのは物資、重火器や土木機械類を詰め込んだ輸送船団が無事にガダルカナル泊地へ到着した事です。揚陸出来た事で滑走路の復旧は早期にできるかと……」


 ニミッツの言葉にマクモリクス参謀はそう返した。


「うむ……暫くはサラトガで航空輸送を行うしかないか」

「護衛空母に比べたら輸送日数も少なくなるのは確実です」


 実際にサラトガでの航空輸送は使えたものである。サラトガのおかげでヘンダーソン飛行場は瞬く間に 50機余りの航空隊を輸送出来た。無論、それを偵察機の彩雲が記録している。


「ちっ厄介だな……」


 トラック諸島に停泊する空母加賀の艦橋で将和はそう舌打ちした。


「これではいたちごっこですな」


 山口少将は溜め息を吐きながらそう言う。


「これでは陸軍がやられてしまいますな」

「あぁ。せめて本命の師団の上陸までヘンダーソン飛行場を使用不能にしないとな……」

「しかし米軍は輸送船団で重火器類と土木機械類を揚陸させています。そう簡単には……」

「それは分かっている……待てよ」


 将和は史実の記憶からある事を思い出した。


「そうだ。戦艦だ戦艦を使うんだ!!」

「長官……?」


 将和の言葉に山口らは首を傾げる。


「戦艦部隊をガダルカナル島に突入させてヘンダーソン飛行場を艦砲射撃をするんだ。この手しかない」


 将和の言葉に山口らは目を見開いた。確かに戦艦の主砲は航空機が搭載する爆弾よりも遥かに威力はあった。しかし、戦艦の艦砲射撃で飛行場に大穴を開けてもやがては埋められるのは必須であった。


「なに、それについては工夫すればいいんだ」

「工夫……?」


 ニヤリと笑う将和に山口らは怪しむのである。将和は直ちにGF司令部に戦艦部隊の投入を打診した。


「ふむ、ただの艦砲射撃ではなさそうだな。宇垣君、一つトラックまで飛んで真意を聞いてきてくれないかね?」

「分かりました。私も興味があります」


 宇垣は二式飛行艇で直ちにトラック諸島へ飛んだ。まさかの宇垣の登場に将和は驚きつつも山口らを交えて夕食後(山口は三杯お代わりした)に作戦室で説明をした。


「戦艦部隊を投入してヘンダーソン飛行場を艦砲射撃するとまでは聞いてるな?」

「えぇ」

「艦砲射撃をするがただ破壊するだけではない。置き土産をするんだ」

「置き土産……まさか」

「あぁ。不発弾だ」


 将和はニヤリと笑うのであった。宇垣は直ちに横須賀に戻り将和の作戦を堀に伝えた。


「ふむ、面白い。やってみよう」


 堀は面白そうに頷いて作戦は実行に移された。9月10日、トラック諸島からガダルカナル島に出撃した第一機動艦隊から第三戦隊第一小隊の河内と因幡が護衛の31駆と共に分離して南下、ガダルカナル島を目指した。その後、第八艦隊の第七水雷戦隊と合流し12日の夜半にはサボ島の西から突入した。


「砲撃用意!!」


 戦艦河内の艦橋で第三戦隊司令官の栗田少将はガダルカナル島方面を見つめていた。栗田少将は航空援護が無ければ無理と思っていたが第一機動艦隊から第五航空戦隊の翔鶴と瑞鶴が護衛艦艇と共に進出して上空援護は万全だったので作戦の成功を感じていた。


(彩雲隊からの事前偵察では戦艦を含む敵艦隊はいない……ならやれるな)


「司令、準備完了です」


 河内艦長の小柳大佐は栗田にそう告げた。栗田も頷いた。


「撃ちィ方始めェ!!」

「撃ェ!!」


 河内の41サンチ三連装砲が吼えた。一門と二門の交互射撃を五斉射する。使用する砲弾は榴弾の零式通常弾である。零式通常弾は初弾からヘンダーソン飛行場へ着弾し滑走路に砲弾を叩き込んだ。


「一斉射撃始めェ!!」


 今度は九門同時射撃だった。後方にいる因幡も艦砲射撃を敢行している。そのヘンダーソン飛行場は大混乱をしていた。


「ジャップの重砲の砲撃か!?」


 ヴァンデグリフトも最初は陸軍の重砲による砲撃かと思っていた。しかし、報告で15サンチクラスの砲撃では無いことが判明した。


「まさか……ジャップのバトルシップ!?」

「魚雷艇隊からジャップの艦隊が飛行場に向けて艦砲射撃をしているとの事です!! 魚雷艇隊はそのまま魚雷攻撃を敢行すると言っています!!」


 実際、挺身隊に魚雷艇4艇が突入したが31駆が察知して全て撃沈された。海兵隊の野砲も挺身隊に砲撃したが駆逐隊の砲撃でこれも全て沈黙せざるを得なかった。

 挺身隊は明け方過ぎまで砲撃をして0515には泊地を離脱するのであった。河内は零式弾515発、因幡は零式弾505発を発射してヘンダーソン飛行場に叩き込んだのである。

 米軍は被害の実態に目を覆うばかりである。


「航空機63機が全損を筆頭に高射砲、対艦砲等が尽く破壊されたか……」

「しかし滑走路の被害が少ないのはどういう事だ?」

「はぁ、それが……」


 ヴァンデグリフトは部下からの報告に首を傾げた。


「大量の不発弾だと? 奴等の砲弾は欠陥ばかりか?」


 しかし、ヴァンデグリフトは直ぐに日本軍の意図に気付いた。


「まさか奴等、滑走路を使用不能にさせて輸送船団を……」


 滑走路を不発弾で使用不能中に増援部隊を輸送船団で送り届けるのは十分にあった。まぁ実際に精鋭第二師団と一個戦車中隊、一個野戦重砲連隊と糧食に砲弾類を載せた輸送船27隻と百一号型輸送艦4隻の計31隻の輸送船団が参加し第二水雷戦隊と第四水雷戦隊が護衛していた。


「急いで不発弾の除去をするんだ!!」


 海兵隊は慌てて不発弾の除去をするが不発弾は実に700発もあった。二割は着弾と同時に爆発し一割は除去したがまだまだあるのだ。日数はかなりの時間が掛かりそうだったのである。


「このままでは……」


 ヴァンデグリフトの危惧した通りに第二師団等を載せた輸送船団は9月14日にタサファロング泊地に到着揚陸をするのである。


「マタニカウ河を越えるんだ!!」


 海兵隊は一個大隊とM3軽戦車一個小隊を投入してマタニカウ河を渡河しようとしたが川口旅団の歩兵第124連隊に阻まれて軽戦車一個小隊は対戦車砲により全滅した。なお、対戦車砲は57口径57ミリ機動砲であり開戦初期から対戦車砲部隊を支えていた。


「クソ、河すら越えられないほど防御線は頑丈な模様だな」


 報告を受けたヴァンデグリフトは舌打ちをする。


「……更なる増援と艦隊の派兵をしてもらわねば……」


 ヴァンデグリフトはヌーメアのゴームレー中将にそう打診するのであった。


「ふむ……」

「空母が出せない以上、ここは戦艦を出す他ありません」

「確かに。ヌーメアに第64任務部隊がいたな、彼等を出すか」


 戦艦ワシントンとサウスダコタを主力とした任務部隊がヌーメアに停泊していた。ゴームレーは司令官のリー少将に説明すると自信満々に頷いた。


「お任せください。ジャップの戦艦なんぞ尽くガダルカナル島沖で沈めてみせます」

「うむ、頼りにしているぞ」


 更にキャラハン少将の第67任務部隊第4群も増援として派遣する事になった。一方で日本軍は第三八師団を派遣するために再度ヘンダーソン飛行場に艦砲射撃をする事になっていた。


「今度は大和と武蔵をも投入する」


 堀長官の言葉に作戦室をざわめきだす。


「次の輸送は作戦の総仕上げだ。ならば大和型を出す意味はある」


 確かに元々は二個師団を輸送しての決戦である。堀長官の言葉にも一理ある。


「しかし、大和型は秘匿すべきでは……」

「MO作戦で大和を投入しているのだ、今更だよ」


 第一艦隊司令長官高須中将の言葉に堀はそう答える。


「大和型二隻では不十分かもしれません、第二機動艦隊の岩代と薩摩も前衛として投入しましょう」

「小沢中将がそう言われるなら……」


 小沢中将はそう言う。二隻だけでは納得しないかもしれないと踏んだのである。高須も小沢の言葉に幾分かは納得した。斯くして戦艦四隻を主力にした第二次挺身隊はガダルカナル島へ赴くのである。


 第二次挺身隊

 戦艦大和 武蔵 岩代 薩摩

 甲巡高雄 愛宕 摩耶

 第二水雷戦隊








御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 不発弾で基地の機能を妨害する…発想の転換ですね。 まさに使えるものは使うという臨機応変さが良いです。
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