表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/143

第八十九話





「岡村少佐以下斥候隊、只今戻りました」


 1942年8月15日、ヘンダーソン飛行場の偵察を終えた岡村少佐の斥候隊がクルツ岬のジャングルに司令部を構えたガダルカナル島臨時守備隊司令部に戻ってきた。


「ご苦労岡村少佐。それでどうだったかね?」


 挨拶もそこそこに守備隊司令官の門前大佐が岡村少佐に問う。


「敵の防衛線は強化されてます。やはり第八艦隊の攻撃が相当効いているのでしょう」


 第一次ソロモン海戦後、ガダルカナル島の米軍は輸送船団が壊滅した事で重火器の揚陸は出来なかった。更に食糧も喪失した事で食糧事情は遥かに危険だった。

 そのため米軍は人海戦術で飛行場を復旧させ航空隊を進出させ制空権を確保したのである。これにより連日に渡りヘンダーソン飛行場に物資を搭載した輸送機が着陸するがそれでも彼等の胃袋を満たすほどではない。

 ヌーメアに司令部を構える南太平洋部隊司令官のゴームレー中将は追加の輸送船団をガダルカナル島へ急行させていたが伊号潜の襲撃により損害を出して予定していた物資の揚陸が少ないのが少なからずあった。ガダルカナル島の米軍は少しずつ、少しずつ飢える方面に来ていたのである。


「ところで味方は増援を出すので?」

「うむ。先行して陸軍一個連隊と海軍陸戦隊、工作隊を出す模様だ」

「工作隊……上も本気のようですな」


 ガダルカナル島は険しいジャングルに覆われている。斥候していた岡村はジャングルを開拓しなければ重火器の移動は困難と判断し常に上層部へ要請していたのだ。

 そして8月20日2000、第七水雷戦隊に護衛された高速輸送船9隻がタサファロング泊地へ到着し揚陸を開始した。また、第八艦隊の鳥海以下の甲巡部隊がヘンダーソン飛行場へ突入して艦砲射撃を敢行するのである。


「第二師団所属の歩兵第二九連隊長の古宮です」

「海軍陸戦隊司令官の太田実だ」


 上陸したのは歩兵第二九連隊と一個大隊の陸戦隊に設営隊であった。


「今回の上陸で設営隊はブルドーザーを四両持っている。ジャングルを切り開いて飛行場付近までの道路を作るつもりだ」

「飛行場までは難しくありませんか? マタニカウ川を防衛線としていますが……」

「貴官らからの情報で現時点のままだと重火器の移動は困難だと判断している。それなら工作隊でジャングルを切り開くしかない」

「それは確かに……」

「工作隊が切り開く最中、我々歩兵第二九連隊はマタニカウ川に布陣して敵を寄せ付けないようにします」

「そこは陸さんにお任せします」

「それに今回は一個野砲小隊も随伴しているので多少は凌げるでしょう」


 クルツ岬方面に日本軍が上陸したとはコーストウォッチャーからの情報で聞いたヴァンデグリフト少将は海兵隊二個大隊をマタニカウ川へ送り込んだ。渡河を試みた二個大隊だが一足早くに布陣していた歩兵第二九連隊に阻まれ敗走したのである。(マタニカウ河の戦い)

 海軍航空隊は連日に渡りガダルカナル島を攻撃していた。ラバウルには陸攻隊がブインには零戦隊が増強され(陸攻隊60機 零戦72機)特に零戦隊が絶えずガダルカナル島の上空を飛行するのでガダルカナル島の制空権はほぼ日本側が治めた。

 こうした事態に米軍は空母レンジャーを使いヘンダーソン飛行場にF4F32機、SBD19機を輸送して航空戦力の回復に努めていた。

 8月28日、日本軍はガダルカナル島に川口旅団とその他の派遣をする。その他の部隊は九七式中戦車二個中隊、一個野戦重砲連隊等々であった。

 16隻の輸送船団はこれも第七水雷戦隊に護衛されていた。またこの輸送船団には第百一号型輸送艦が3隻参加しており、彼女らがいなければチハの輸送は出来なかった。

 海軍は輸送船団の安全を図るためトラック諸島に待機していた三好大将率いる第一機動艦隊を出撃させガダルカナル島の制空権及びその周辺海域の掃討をさせるのであった。


(史実で当て嵌めるなら第二次ソロモン海戦だな)


 将和は加賀の艦橋で前方の海面を見ながらそう思う。


(史実だと龍驤を分離させてガダルカナルを攻撃してるし……)


 将和は六航戦を分離させてガダルカナルを攻撃しようとした。ブイン基地には零戦隊がいるが彼等には輸送船団の護衛もあったので分離作戦をとったのである。


「六航戦に八戦隊、四駆と十七駆を付けてガダルカナル島を攻撃せよ」


 第六航空戦隊司令官の戸塚少将を艦隊司令官としてガダルカナル島へ差し向けたのである。

 一方で米機動部隊も日本が機動部隊でガダルカナル島を攻撃しようと察知していた。


「相手はadmiralミヨシだ。一筋縄ではいかんぞ」


 中将に昇進したフレッチャーはそう呟く。


「敵の空母は我が機動部隊より多い。ならば敵空母の飛行甲板を叩いて発着艦をさせなければよい」


 数は明らかに日本側なのをフレッチャーは前々から承知している。というよりもこの手しかなかった。

 8月30日、第一機動艦隊から分離した第六航空戦隊は攻撃隊をガダルカナル島に差し向けた。零戦36機、九九式艦爆45機の戦爆連合は無事にガダルカナル島へ到達し零戦隊は待ち受けていたF4F隊と空戦を開始、艦爆隊はそれを尻目に爆撃を敢行。滑走路と対空レーダー等の破壊に成功する。

 フレッチャーはガダルカナル島からの悲痛な報告を無視しつつ第一機動艦隊を捜索するが代わりに見つかったのは戸塚少将の別働隊である。


「仕方ない、この艦隊を攻撃する」


 フレッチャーは直ちにF4F25機、SBD39機、TBF27機を差し向けた。しかし米機動部隊は第一機動艦隊から発艦した彩雲に発見されてしまう。


「全機発艦!! 始めェ!!」


 空母四隻に待機していた攻撃隊(零戦54機 九九式艦爆72機 九七式艦攻72機)は直ちに発艦を開始した。


「結果的に戸塚の艦隊が囮となってしまったな……悪い事をしたものだ」

「いえ、戸塚少将も分かってくださるでしょう」


 将和の言葉に草鹿はそう言う。その頃、戸塚艦隊は米攻撃隊の攻撃に晒されていた。


「左舷に雷撃機!!」

「おもぉーかぁーじ!!」

「左舷弾幕薄いぞ!! 何やってんの!!」


 蓬莱と葛城は軽快に回避運動をしていた。八戦隊等の護衛艦艇も回避運動しつつ対空砲火を行っている。回避運動をする二空母だが上空からSBDの急降下爆撃に襲われた。


「敵機急降下ァァァ!! 直上ォォォォォ!!」

「とぉーりかぁーじ!!」


 蓬莱は1000ポンド爆弾の回避に成功したが葛城は1000ポンド爆弾二発が飛行甲板に命中、発着艦不能となる。更に甲巡筑摩が1000ポンド爆弾二発に魚雷三発が命中し大破した。


「攻撃隊は無事な蓬莱に降ろす。後は頼みましたよ長官……」


 戸塚は指示を出しつつそう呟いた。一方で第一機動艦隊から発艦した攻撃隊は彩雲の誘導により米機動部隊上空に到着していた。


「全軍突入せよ!!」


 攻撃隊総隊長村田少佐の指示の元、攻撃隊は攻撃を開始する。上空にいた敵戦闘機は零戦隊が蹴散らしつつあった。それを見つつ高橋少佐は高度3000から急降下爆撃を敢行。


「撃ェ!!」


 艦爆隊は空母エセックスに三発、レンジャーに四発を命中させた。更に機動部隊の左右から艦攻隊が突入した。


「目標、前方の空母!!」


 空母飛龍の艦攻隊に異動した将弘(大尉に昇進)は元蒼龍乗組の艦攻隊を率いていた。


「距離800!!」

「撃ェ!!」


 狙いを定めた空母レンジャーに距離800で投下して離脱する。回避しようとするレンジャーだが反対側にも艦攻隊が突入しており回避する制限が出来てしまったのだ。結局、左右に魚雷二発ずつ命中し更にもう二個中隊が左右から突入した事でレンジャーの運命は決まった。

 レンジャーは左舷に三発、右舷に二発が命中し総員退艦が発令され攻撃隊が引き上げる頃には波間に没しつつあった。

 攻撃隊は空母レンジャー撃沈、エセックス中破、サラトガ小破という損害を与える。喪失は零戦4機、九九式艦爆16機、九七式艦攻19機であった。

 稼働空母がサラトガのみという結果になったフレッチャーは撤退を決意し撤退を開始するのである。


「追いますか長官?」

「いや、我々の任務は輸送船団をガダルカナル島へ送り届ける事だ。戸塚に連絡、葛城に四駆を付けてトラックに後退。戸塚は第一機動艦隊に合流して再度ガダルカナル島に攻撃隊を送り込む」


 草鹿の問いに将和はそう答えた。その後、戸塚艦隊は第一機動艦隊と合流してから翌日にガダルカナル島へ攻撃隊を送り込みヘンダーソン飛行場は数日は使用不能になった。その隙を突いて七水戦に護衛された輸送船団がタサファロング泊地に到着、川口旅団や戦車二個中隊等を揚陸する事に成功したのであった。








ご意見やご感想などお待ちしています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ