第八十八話
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「これはただの海戦ではない。殴り込みだ!!」
第八艦隊司令長官の三川中将は旗艦鳥海の艦橋にてそう告げる。
「夜戦をさせてもらうなら何でも結構です!!」
三川中将の言葉に鳥海艦長の早川大佐は自信満々に答えた。この時、第八艦隊はブーゲンビル島東方海面にて待機をしていた。数度に渡り敵偵察機の接触を受けた第八艦隊だが敵偵察機の電文を受信すると『巡洋艦三、駆逐艦三、水上機母艦を含む十隻程度の艦隊がブーゲンビル島に入港寸前』だった。敵偵察機は第八艦隊がブーゲンビル島への増援だと勘違いしたのである。
その後、第八艦隊は敵機からの攻撃を受ける事なく日没後に三川長官は全艦に戦闘前訓辞を発した。
『帝国海軍ノ伝統タル夜戦ニオイテ必勝ヲ期シ突入セントス。各員冷静沈着ヨクソノ全力ヲツクスベシ』
第八艦隊は旗艦鳥海を先頭にし甲巡青葉、加古、古鷹、衣笠、軽巡矢矧、駆逐隊の順に航行。16ノットでガダルカナル泊地を目指したのである。
ニュージョージア島を通過した2100頃に第八艦隊は照明隊の水偵を発進させガダルカナル泊地に向かわせた。
(頼むぞ……)
旗艦鳥海の艦橋で三川中将は祈る思いだった。2240、第八艦隊はサボ島南方水道に突入を開始した。直後の2243には駆逐艦ブルーと遭遇するもブルーはレーダーが島影等の影響によりブルーは気付かずに遠ざかるのである。
2330、第八艦隊はサボ島南方に到達すると三川中将は下令した。
「全軍突撃せよ!!」
三川中将の下令に全艦が一斉に襲撃運動に移行した。
『右舷に戦艦!! 戦艦一、甲巡二!!』
見張り員が報告するが戦艦は誤認であった。
「吊光弾による背景照明だ!!」
水偵は待ってましたと言わんばかりに吊光弾を投下、それは見事に敵艦隊を第八艦隊に映し出した。
「魚雷発射ァ!!」
「撃ェ!!」
鳥海は距離3700で酸素魚雷を発射、更に鳥海は砲撃を開始した。
「撃ちぃ方始めェ!!」
鳥海が砲撃を開始すると後続の第六戦隊も砲撃を開始し重巡キャンベラ、シカゴ、駆逐艦パターソンに砲弾を叩き込む。パターソンは即座に反撃しようと警報を発したが矢矧からの砲弾が多数命中し大破炎上した。
キャンベラも史実と同じ結末を迎え、シカゴは退避しようとしたが第二九駆逐隊の秋潮が放った酸素魚雷三本が命中、海戦が終わる頃には波間に没するのである。
こうして連合軍南方部隊は壊滅するが古鷹がキャンベラとの衝突を避けるため転舵、それを矢矧以下の第七水雷戦隊も続いてしまうのである。
そして第八艦隊は次に連合軍北方部隊と激突、鳥海艦長の早川大佐は探照灯を照射させた。
「これがやってみたかったのよ!! やはり夜戦には探照灯だ!! 敵弾は全て鳥海が引き受ける!!」
まず最初に炎上したのは重巡アストリアであった。アストリアは第八艦隊を味方だと誤認して「我、味方」の信号を繰り返すが敵だと判断すると慌てて攻撃しようとするが既に主砲は損傷してどうしようもなく結局は史実通りの展開となる。
第八艦隊は更にクインシーとヴィンセンスも史実同様に砲撃させこれを炎上させた。
「第八艦隊はサボ島北方にて集結せよ」
北方と南方部隊を壊滅させた第八艦隊はサボ島北方に集結して再度突入するか議論していた。
「再突入するべきです!! 泊地にはまだ無傷の敵輸送船団がいるのですよ!!」
「上空援護が無いと無理だ。敵空母の場所もまだハッキリと分かってないんだ」
前者を早川艦長が、後者を大西参謀長と神先任参謀が主張していた。
「何のために此処まで来たんです!! 上空援護はブイン基地の零戦隊に要請すれば済む話です!!」
「しかし敵空母が複数いれば……」
「全滅覚悟で来たのは何だったんですか!!」
「………」
早川艦長らの言葉を三川はただ黙って聞いていた。三川はこの時、不思議な感触があった。艦橋に誰かもう一人いると思った、端っこの方に誰かいる気がする。そこをジッと見ても何の変鉄もない壁である。だがそこに誰かがいた気はする。
(……そうか、お前もそうなのか……)
三川は深く頷いて早川らを見た。
「左16点逐次回頭ォ!! 最大戦速!! 目標、敵輸送船団!!」
「長官……」
「やろう参謀長。全ての責任は私が持つよ」
三川は笑った。
「艦長、反転だ」
「はっ!! 左16点逐次回頭ォ!!」
再度突入に第八艦隊の将兵の士気は絶頂した。第八艦隊はサボ島を回り込みながら再度ガダルカナルへ突入を開始した。
(これで良いのだろう……なぁ鳥海……?)
三川はそう思った。上空に待機していた水偵隊は吊光弾を投下、ガダルカナル島泊地に停泊している米輸送船団を映し出すのである。
「ジャップの偵察機だ!?」
「味方の部隊はどうしたんだよ!!」
「喋る暇があるなら手を動かせ!!」
輸送船団は第八艦隊の接近に慌てて出港しようとするがそうは問屋が降ろさない。矢矧以下の七水戦が最大戦速で輸送船団に突入したのである。
「右雷撃戦用意!!」
「測定宜し!!」
「魚雷準備良し!!」
「撃ェ!!」
矢矧の艦橋で第七水雷戦隊司令官の伊崎少将が叫ぶ。七水戦の各艦は艦尾方向から酸素魚雷を次々と発射して離脱する。七水戦の離脱と同時に鳥海以下の甲巡部隊が砲撃を開始した。
「撃ちぃ方始めェ!!」
探照灯を照射する鳥海。彼女らが放つ砲弾は次々と輸送船団に叩き込んでいく。叩き込まれた輸送船は次々と炎上、そこへ七水戦が発射した酸素魚雷が突き刺さり水柱を吹き上げた。
装甲を持たない輸送船は次々と重装備を搭載したまま波間に消えていく。
「助けてくれ、船が沈む!!」
「味方の護衛部隊は何をしているんだ!!」
炎上する輸送船から水兵達が海に飛び込んでいく。第八艦隊は猛獣の如く輸送船団を蹂躙したのであった。
翌朝、ガダルカナル島に上陸していたヴァンデクリフト少将は沖合いに擱座や未だに炎上する輸送船団を見た。
「……悪夢だ……」
生き残った輸送船は無く、重装備も擱座した輸送船からほんの少ししか揚陸出来なかったのであった。
第八艦隊は大きな損傷はなく、良くて鳥海の小破だった。帰路、米潜水艦S-44が第八艦隊に接近するも第29駆逐隊の一式ソナーに探知され爆雷攻撃の末、撃沈されてしまうのであった。
「直ちにガダルカナル島を奪回すべきです。このまま座視していてはFS作戦を行う事は出来ません」
横須賀のGF司令部で黒島に代わり新たな先任参謀となった島本大佐はそう主張する。
「具体的には?」
「陸さんから二個から三個師団、重砲や戦車部隊を出してもらい早期に上陸し制圧でしょう。海軍は全力でガダルカナル島付近の米軍を叩くべきです」
島本の案は逐次投入等せず一気に大輸送船団でガダルカナル島に上陸しこれを攻略する事であった。
「兵力の逐次投入は避けるべきです。此処は一気にやるべきです」
渡辺戦務参謀達も同じ考えだった。参謀らの言葉に堀も了承する。
「分かった、直ぐに陸軍に要請しよう」
直ちに大本営にて陸海軍は協議をする。
「一度に大量には無理です。ソロモンの海域にそこまで輸送船団は行けません。数回の輸送が必要です」
陸軍はそう主張した。確かにソロモンの海域は狭かった。
「陸さんは投入する戦力はどのくらいで?」
「二個師団に一個旅団。戦車、重砲は一個連隊を出します」
「分かりました。我々海軍は全力で護衛します」
斯くしてガダルカナル島再攻略は決定したのであった。
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