第八十六話
「第16任務部隊は?」
「はい、無事との事です」
「宜しい」
炎上する空母ヨークタウンの艦橋で第17任務部隊司令官のフレッチャー少将は満足そうに頷いた。
「スプルーアンスの第16任務部隊が生き残っているなら問題はない」
「司令官、このままでは危険です。退艦をお急ぎください」
炎上する空母ヨークタウンは250キロ爆弾五発、魚雷六発が命中して空母の命を終えようとしていた。
「頼むぞスプルーアンス。ワンサイドゲームで終わらせるなよ……」
フレッチャーは部下に支えられつつヨークタウンから退艦するのである。一方、第16任務部隊司令官のスプルーアンス少将は天を仰いでいた。
「未帰還機が多すぎる……このままでは戦えない」
攻撃隊を出した時、攻撃隊は140機あった。しかし、五月雨式に出した事で零戦隊の迎撃や護衛艦艇の弾幕射撃等により被害は続出、スプルーアンスの手元にはF4F32機、SBD28機、TBD3機という有様である。
「第17任務部隊は壊滅した……ミヨシの機動部隊は三隻が炎上している……此処は退くべきだ」
スプルーアンスはそう決断をしたがそれは遅すぎた決断だった。第16任務部隊上空に彩雲が飛来してきたのである。
「戦闘機を振り切る偵察機だと……」
9機のF4Fで追い回しているはずだった。だが彩雲は645キロの速度を出す高速機である。彩雲は悠々とF4Fを振り切り、そして十分に第16任務部隊の上空を荒らし回り打電をしまくるのである。
勿論、彩雲が発した電文は飛行中の第二次攻撃隊も受信していた。
「よし、彩雲の示す方向へ向かう」
攻撃隊総隊長の友永大尉はそう判断をして経路を変更、最短距離で第16任務部隊の上空に到達出来た。
「迎撃隊を出せ!! 全速で当海域から離脱する!!」
スプルーアンスははそう叫びつつ上空を睨む。エンタープライズとエセックスは急いでF4Fを発艦させるが数が足りなかった。
(このままでは……)
第16任務部隊は戦闘機の発艦を済ませると対空射撃を開始して攻撃隊を寄せ付けないようにする。しかし、攻撃隊は第16任務部隊に突撃する。
「行くぞォ!! 蒼龍の敵討ちだ!!」
将弘の中隊が左舷からエンタープライズに迫る。将弘中隊の突撃に気付いたエンタープライズは対空射撃をしつつ右回頭を図る。しかし、そこを見透かして友永大尉の中隊が右舷から突撃した。
「よくやったぞ三好中尉!!」
『ありがとうございます友永隊長!!』
友永の誉め言葉に将弘は礼を言う。その直後、友永機に機銃弾が命中した。
「グォッ!?」
駆逐艦の12.7ミリ弾が発動機と操縦席等に命中し、友永は腹を貫かれ致命傷を負った。後方の偵察席の風防にも血痕が大量に付着していた。
「……よ…」
友永は用意と言おうとしたが口から大量に血が吹き出して言えなかった。機体も発動機から黒煙を吹き始めていた。エンタープライズとの距離が700になった時、友永は最後の力を振り絞って投下索を引いたが友永は離脱しなかった。
(悪いな、一緒に沈んでもらおうか……)
友永は迫り来るエンタープライズの艦橋を見てニヤリと笑い瞼を閉じた。そして被弾した友永機はエンタープライズの艦橋に激突した。
「友永隊長ォ!?」
友永大尉の最期を列機は見届けた。友永が放った魚雷はエンタープライズの右舷に突き刺さり水柱を吹き上げた。更に将弘中隊が放った魚雷も左舷に三発が命中、エンタープライズは完全に行き足を停止するのである。
エセックスは爆弾二、魚雷三が命中していたが何とか退避に成功した。
「空母三隻を沈めたか……(だが此方は赤城と蒼龍か)」
攻撃隊からの報告を聞いた将和は炎上する赤城を見る。蒼龍は誘爆が激しく既に波間に消えていた。艦長の柳本大佐は残ろうとしたが将和の命令により10人程度に無理矢理抱えられて退艦していた。
赤城は何とか曳航しようとしたがロープが切れた事で万策尽き、将和は駆逐艦舞風に雷撃処分を命じたのであった。
「時間!!」
舞風が発射した酸素魚雷二本は赤城の右舷に命中、乗員がいない赤城はゆっくりと傾斜を始めた。将和ら将兵は沈みゆく赤城に敬礼で見送ったのであった。
「第一航空艦隊は第二次攻撃隊を収容後、ミッドウェー島を目指す。作戦を仕上げるぞ」
二隻減った第一航空艦隊は米機動部隊へ向かった攻撃隊を収容後、経路をミッドウェー島へ向けた。そして程なくGF直属と第一艦隊と合流した第一航空艦隊は翌日に攻撃隊を出して再度ミッドウェー島を爆撃、更に大和以下の戦艦部隊がミッドウェー島沖合いに進出して艦砲射撃を敢行した。
「撃ェ!!」
大和の46サンチ砲が火を噴き、砲弾は島に降り注ぎ基地施設を破壊していく。戦艦部隊の激しい艦砲射撃が一時間続いた時、ミッドウェー島から白旗が複数揚がる。
「白旗です!!」
「撃ち方止めェ!!」
ミッドウェー島は僅か一日で陥落、日章旗が翻ったのであった。ミッドウェー島の陥落により将和は停泊している旗艦大和に赴いた。
「黒島がいないようですが……?」
作戦室を見渡すと黒島の姿はなかった。
「過労に倒れたみたいでね、MI作戦の計画書で張りきり過ぎたのだろう」
「……そうですか」
堀の言葉に何かを気付いた将和、それ以降は口にしないようにした。
「赤城と蒼龍の喪失は本職の責任です」
将和はそう言って辞任届を堀に渡した。宇垣や参謀達は目を見開いて将和を見る。
「……逃げるのかね?」
「……っ……」
堀の言葉に将和は目を逸らした。
「……ですが二隻を沈めたのは本職です」
「それがどうした!!」
堀は切り捨てた。
「二隻が沈んだのは確かに悔しい。だが相手は米国だ。三好、君の力が必要なのだ」
堀の言葉に将和は口をつぐんでいたが、やがて深く息を吐いた。
「対米戦の切り口は本職にもありますからね。宜しいでしょう、必死にもがいてみます」
「その意気だよ」
将和の言葉に堀は笑みを浮かべたのである。
「さて、攻略したミッドウェーだが修復するまでは二艦隊に任せよう」
「えぇ。一航艦は暫く動けないでしょうね。もしくは解体でしょう」
「あぁ、そこら辺は協議だな」
「それにAL作戦が無いのも輸送路が限定されて助かります」
カムチャツカ半島やシベリア方面は帝政シベリア国なので史実のようにアメリカが行った援ソ航路が無いため北方の重要性は薄れていた。
それでも念のためとして甲巡那智を旗艦にした第五艦隊が大湊を母港とし警戒していた。
(それに零戦が捕獲されないのも助かる……)
史実ではAL作戦時に零戦が捕獲されたが今回はAL作戦が無いので捕獲自体は無く米軍は苦戦する一方である。漸くサッチ・ウィーブが日の目を浴びてきたところであった。
「ソロモン方面で動くだろうな」
「となるとFS作戦ですな」
「あぁ」
将和の言葉に堀は頷いたのであった。6月下旬、聨合艦隊が内地に帰還すると待っていたのは怒り心頭な宮様だった。
「貴重な空母二隻を喪失したのにも関わらず、山本が漏らした言葉は「そうか……」しかなかったわ」
海軍省で将和らは茶を啜っていた。
「しかし、自分が喪失させたのも一因です」
「三好、過去はどうする事も出来ん。変えられるのは未来だけだ」
宮様の言葉に将和はハッとした。そうだった、自分は何のために此処にいる? 歴史を変えるためであろう。
「申し訳ありません、少し元気が出ました」
「うむ、それで良い。まぁ我等の邪魔をしたあやつらには相応の罰を受けてもらうがな」
(その表情は悪役ですよ……)
宮様がニヤリと笑う。7月上旬、海軍は人事を発表した。海軍大臣の嶋田は病気療養という事で交代、後任は吉田善吾が就任した。更に軍令部総長に古賀峰一が就任したのである。
山本は大湊鎮守府長官へ、井上は海南島警備府長官、黒島は佐世保鎮守府付となった。
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