第八話
第一回総攻撃に失敗した第三軍は歩兵主体の突撃による強襲法を変更し要塞前面まで塹壕を掘り進んで進撃路を確保する正攻法に切り替える事にした。
しかし、参謀長の伊地知はあくまでも強襲法に拘った。ロシヤはバルト海艦隊の主力を引き抜いて第二太平洋艦隊を編成、十月十五日にバルチック艦隊がウラジオストクに向かって出航した。司令官は侍従武官であったロジェストヴェンスキー少将が任命された。
バルチック艦隊出航の報告を受けた海軍は陸軍に旅順早期攻略を催促した。しかし山本大臣は「あまり催促するな。陸軍の将官が倒れたらどうするつもりだ?」と戒めた。
また三好は東郷と話し合っていた。
「バルチック艦隊が来るのは来年でごわすな?」
「五月二七日から翌日の二八日に対馬近海で艦隊決戦をしています」
「約七ヶ月の航海でごわすか……」
「史実通りにバルチック艦隊がドッガーバンク事件を起こしてくれればイギリスと戦争寸前になり数々の妨害をしてくれるでしょう」
「ふむ……。それと艦艇群は戻した方が良いかな?」
「流石に全艦だと他の参謀達も了承しかねると思いますので複数に分けてやるべきではないでしょうか?」
「……そうする他あるまいでごわすな……」
「それと児玉総参謀長に電報を頼みたいのですが……」
東郷は艦艇整備のため最初に富士と八島の戦艦二隻を内地に回航させた。その後もバルチック艦隊が来航するまでに艦艇整備は万全に整えられるのである。
その中で十月二六日、第三軍は第二回総攻撃を開始する。目標は突起部を形成している盤竜山及び竜眼北方保塁周辺を占領する事であった。
二八サンチ榴弾砲は六門+二門の計八門が第三軍に配備されていた。
「砲撃開始ィ!!」
重砲陣地から二八サンチ榴弾砲が唸りを上げて砲撃を開始した。耳をつんざくような音はロシヤ側の陣地に着弾をしてその場にいたロシヤ兵士を肉片に変えた。
「何の音だ!?」
「急行列車か!?」
「馬鹿言え!! 急行列車なんぞ通っていない!!」
ロシヤ側は二八サンチ榴弾砲の威力に驚いていた。その間にも八門の砲撃は四日間に渡って続き、ロシヤ側は史実通りの大損害を蒙った。だが第二回総攻撃も史実通りの一戸保塁の占領に留まった。
しかし、史実より二門多めに投入した事により一戸保塁占領は1750時で日本側は死者八九八名、負傷者二九一三名を出した。
第二回総攻撃の失敗で大本営は海軍が以前に主張した二百三高地攻略に同調した。大本営からの命令に第三軍司令部は真っ向から反対した。
「艦隊への砲撃は既に大孤山からの観測砲撃や黄海海戦で旅順艦隊は壊滅しており、観測点など必要としない。また艦隊を殲滅しても要塞守備隊は降伏せず、降伏しない限り第3軍は北上することはできない。そのためには、要塞正面への攻撃による消耗戦しかない」
と、執拗に却下していた。しかし、満州軍総司令官の大山と総参謀長の児玉は二百三高地攻略に賛成していた。
「三好少尉によると史実では二百三高地の攻防戦でロシヤ側は予備兵力を消耗枯渇し、続く要塞正面での攻防で有効な迎撃が出来ずに正面防御線の東鶏冠山保塁、二龍山保塁などが相次いで陥落するようです」
「では第三回総攻撃は東鶏冠山保塁等が目標ではなく本命は二百三高地での予備兵力喪失が狙い……と?」
「はい。ですが三好少尉の存在を大きくすると返って厄介になるでしょう」
「……尉官になったばかりの人間に命令をされたくはない……と?」
「まだ軍にいるだけでマシかと。これが民間人だと質が悪くなります」
大山と児玉はそう話していた。
「三好少尉も二百三高地攻略を促すため第三軍司令部に向かったようです」
「……我々の弾除けか」
「先日に来た電報で三好少尉はそのように頼むと……」
「若い者が苦労をかけるとはのぅ……」
「私も直ぐに向かいます」
大山との話で児玉総参謀長は直ぐに第三軍司令部へと向かった。一方、先に第三軍司令部に乗り込んだ三好は追い出されていた。
「第二次総攻撃の結果を見れば分かるでしょう伊地知参謀長!! それなのに何故要塞正面を……」
「黙れ小僧!! 尉官の分際で司令部方針に口出しする事は何事か!? この司令部にいる事自体が相応しくない!! 出ていけ!!」
「……伊地知ぇ……」
「………」
怒号を放つ伊地知を睨みつつ三好は司令部を出た。その様子を乃木は何も言わずに見ていた。
「……さて、お膳立ては出来たかな?」
「御主は中々の役者じゃのう」
司令部から少し離れたところでそう呟いた三好に津留雄三少尉は呆れたように言った。
「ハッハッハ。何処の世界にも憎まれ役はいるもんですからな」
「まぁこれで上手くいけばええがの」
「津留少尉、そんな事を言えば現実になりますよ」
「言霊じゃな。ならロシヤに勝ったと言いまくれば問題ないわい」
そう豪語する津留少尉に三好も苦笑した。そして三好が第三軍司令部から追い出されて数日後、児玉総参謀長が第三軍司令部にやってきた。
「次の総攻撃には二百三高地を攻略せよ」
児玉はそう言って司令部を騒然させた。
「児玉総参謀長、それはどういう事でごわすか!?」
「言ったまでじゃ。二百三高地を攻略せよ」
「……児玉、理由はあるのか? それともそれは海軍からの要請か?」
怒る伊地知に乃木は児玉を見据えてそう言った。
「これは極秘じゃがのぅ……第三国を経由しての情報だが二百三高地の防御は正面要塞より幾分かは薄めだ。総攻撃の際、東鶏冠山保塁等を攻める振りをして釘付けにしている間に二百三高地を攻める」
「その情報は確かか?」
「出所は言えんが……かなりの正確な情報だ」
出所は未来情報を持つ海軍尉官です……何て言えた事ではない。
「二百三高地攻略は旅順の天王山だ。二百三高地攻略……やってくれ」
「……分かった。二百三高地攻略に転換しよう」
児玉の眼差しに乃木は頷いて決断をした。
「ですが司令官!!」
「二百三高地を奪えなければ儂の責任じゃよ。儂が腹を切れば皆が責めを問われずに済むじゃろう」
乃木はそう告げた。やはり維新を経験した軍人としての自覚に加え、腹は座っていたのだ。
「直ぐに砲兵の陣地移動をさせよ」
乃木はそう述べ、伊地知もそうするしかなかった。そして大本営は第三軍に開戦前に創設した二個師団を投入する事を決定した。
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