第八十三話
「消火急げ!! 負傷者の救助も忘れるなよ!!」
燃える格納庫で翔鶴運用長の福地周夫少佐が叫ぶ。福地は予め消火用のホースを床に置いたりして消火の被害を局地的に押さえようとしていた。
「散水器を回せ!!」
福地の言葉に応急隊の水兵がバルブを回して天井に取り付けられた管から水が勢いよく出てきた。
「よし、これで被害は押さえられるな。今のうちに負傷者を移送するぞ!!」
「はいっ!!」
散水器を開戦前に空母に導入した日本海軍、今回のでその効果は見事に発揮されたのである。翔鶴は炎上しながらも火災の延焼を食い止める事に成功した。
「駆逐艦白露を横付けさせよ、旗艦を瑞鶴に変更する。翔鶴は護衛を付けて北上させてラバウルへ退避だ」
1000ポンド爆弾三発が命中した翔鶴は飛行甲板はめくり上がり、航空機の発着艦は不能だった。
(空母としての機能を喪失した翔鶴は最早退避しか有り得ない)
龍驤の経験からの判断だった。寺岡らの司令部は駆逐艦白露を経由して瑞鶴へ移乗した。そして攻撃隊の報告を受けた。
「一隻を逃したか……」
「追撃しますか?」
「いや、窮鼠噛猫がある。我々の任務はMO作戦を完遂する事にある」
航空参謀からの具申に寺岡は首を横に振り追撃を中止した。第三機動部隊は米機動部隊の追撃からポートモレスビー攻略を目指した。
「ポートモレスビー基地を叩く。全機発艦!! 始めェ!!」
三空母からポートモレスビーへの攻撃隊が発艦していく。同時刻、ラバウル基地でも零戦隊と一式陸攻の攻撃隊(零戦36機 一式陸攻36機)が離陸していた。第三機動部隊から発艦した攻撃隊108機はポートモレスビーの空軍基地を蹂躙する。
「撃ェ!!」
零戦隊が緊急離陸したP-40 22機と交戦するのを尻目に九七式艦攻の水平爆撃隊が腹に抱えた60キロ爆弾を次々に投下、滑走路を使用不能を陥れた。九九式艦爆隊は高射砲等を爆撃して破壊していく。
「帰還不能ならパラシュートで脱出しろ!! 必ず助けるからな!!」
高橋はパラシュートで脱出、降下していくパイロットを見ながらそう叫ぶ。第三機動部隊の攻撃隊が攻撃終了してから二時間後、滑走路の復旧を急がせていた米軍だが生き残った対空レーダーがスタンレー山脈方面から接近する航空部隊を捉えた。
「ラバウルからの攻撃隊だ!?」
直ちに基地全域に空襲警報が鳴り響き生き残った対空火器が仰角を最大にして砲身を上空に向けた。
「全軍突撃せよ!!」
ラバウル航空隊はポートモレスビー基地への止めを敢行、ポートモレスビー基地は完全に基地機能を喪失し米軍はそれで南海支隊を出迎える羽目になったのである。
「撃ェ!!」
ポートモレスビーの沖合いまで進出したMO攻略部隊は大和、長門、陸奥を主軸に艦砲射撃を開始した。特に大和から射撃は凄まじいの一言であったろう。
史実では味わえなかった艦砲射撃であり50口径46サンチとなった主砲は史実の鬱憤を晴らすが如く射撃をしてポートモレスビー基地施設を一つずつ破壊していく。その攻略部隊上空を護衛の零戦隊が飛行していたのである。
艦砲射撃が終了すると輸送船団は大発を繰り出して大量の大発群は砂浜に乗り上げると九七式中戦車を先頭に吐き出した。
「ジャップめ、チハを出しやがった!!」
「無駄口を叩くな、撃ちまくれェ!!」
米守備隊は艦砲射撃から生き残った陣地から攻撃を開始する。南海支隊はチハを楯にしつつ守備陣地を一つずつ潰していくのである。
米守備隊は実に三日は抵抗したがそれまでだった。基地司令部に日の丸が掲げられると米守備隊は抵抗を停止し次々に降伏したのであった。
「おのれジャップ!! ポートモレスビーを落としおったか!!」
オーストラリアのブリズベンでポートモレスビー陥落の報告を聞いたマッカーサーは自身が持っていたコーンパイプをへし折る。
「フレッチャーの機動部隊はミヨシの弟子に破れたか。クソ、ミヨシめ。私のフィリピンへ戻る計画を邪魔しやがる」
マッカーサーはそう悪態をつきつつオーストラリアの防衛計画を本格的に練り出す羽目になる。
そして日本ではいつものように将和らが会合を開いていた。
「道が開けたと思います」
MO作戦の報告書を読み終えた将和はそう語る。
「史実とは異なる空母コンステレーションの撃沈、ポートモレスビーの占領。我々は漸く史実とは異なる戦争に到達したと思います」
「成る程……」
将和の言葉に宮様は頷く。
「ポートモレスビーには暫く艦隊を配置する必要がある」
「ラバウルには三川中将の第八艦隊がいますが彼の艦隊は旧式艦艇ばかりです」
「となると新たな艦隊を創設か……」
将和らは堀長官らも交えてポートモレスビー方面――第九艦隊の創設が決定された。
第九艦隊は旗艦を八雲型甲巡の三番艦春日とし軽巡多摩、駆逐艦吹雪 白雪 初雪 狭霧 朝霧 夕霧 天霧 漣 曙 潮の編成である。
司令長官には小林仁中将が就任したのである。攻略したポートモレスビー基地は工作隊の復旧により特に滑走路は三日で完了した。工作隊は小松1型均土機を12台持ち込んでいた事も幸いだった。
滑走路が復旧した事で航空部隊の進出も可能となった。ラエやブナに展開していた陸海の航空隊が進出し更にラバウル航空隊の二個中隊18機も増援とし派遣された。この二個中隊には笹井中尉率いる笹井隊もいたのである。
更に陸軍は二式単戦鍾馗18機して迎撃機能を高めた。これによりポートモレスビーは戦闘機54機、爆撃機54機の航空戦力を得たのであった。
(これでFS作戦の足掛かりは出来た。問題は……)
将和はGF司令部に呼ばれた。内容は次期作戦の事であった。将和の他にも第一艦隊の高須中将や第二艦隊の近藤中将等の将官が勢揃いしていた。
「本日の議題は次期作戦の事です」
堀長官は将和らを見て済まなそうな表情をしながら見渡し傍に控えていた黒島参謀に視線を向けた。黒島は意気揚揚と作戦計画書を将和らに渡した。
「MI作戦……(まさか!?)」
将和が慌てて堀長官を見る。視線を感じた堀長官は悲しそうな表情をして頷いた。
「次期作戦はミッドウェー島の攻略及び米機動部隊の撃滅です」
黒島の言葉に会議室はざわついた。
「作戦時期は六月と固定しています。理由としましては上陸用舟艇で敵のリーフを越えて上陸するためで下弦月が月出する午前0時が最も最適です。7月だとミッドウェー方面は霧が多く上陸が困難なためだからです」
黒島はそう捲し立てる。
「参加艦隊は第一航空艦隊、GF直属、第一艦隊、第二艦隊、第六艦隊です」
「大和も出すのかね? 先のMO作戦で活躍はしたと聞いたが……」
「今回は聨合艦隊の総力を挙げての作戦です」
近藤中将の言葉に黒島はそう答えた。
「反対だな」
「……何と?」
「作戦に反対だと言ったんだ」
黒島の問いに将和はそう告げた。将和の並ならぬ雰囲気に高須らは少し驚いていた。
「御言葉ですが米機動部隊は撃滅しなければなりません。三好大将はそれをお分かりで?」
「分かっているからこそ言っているんだ」
将和は宇垣から指揮棒を借りて地図上のミッドウェー島をトントンと叩く。
「まず、こんな島を攻略しても米機動部隊が出てくるわけない。例え攻略してもその後の補給はどうする。まだFS作戦中に米機動部隊が出てくるなら分かる」
「ミッドウェーはハワイに近い。彼等は危機感を募らせるでしょう」
「危機感を募らせるなら豪州はどうなんだ? 彼処は国家とマッカーサーがいる。FS作戦で豪州を孤立化させ連合国から離脱させられるのが一番の危機感だろうが」
将和はそう言って指揮棒を宇垣に返す。
「そもそもこんな作戦、軍令部や海軍省なんぞ認めん」
「いえ、認めております」
「なっ………」
黒島の言葉に将和は驚愕するのであった。
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