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第八十二話






「クソッタレ!! ジャップの野郎、ジークを大量に搭載していやがる!!」


 後方に零戦に取りつかれたSBDのパイロットがそう愚痴る。SBDのパイロットは必死に逃げようとするが零戦――納富大尉は逃がす事はなかった。


「悪いがこれが戦争だ」


 納富大尉はそう呟いて機首の13.2ミリ機銃を一連射をSBDに叩き込みエンジンから火を噴かせるのであった。

 攻略部隊上空には攻略部隊を守ろうと祥鳳と瑞鳳の零戦42機が飛翔して米攻撃隊を迎撃している。米攻撃隊の大半は零戦に阻まれ追い回されるが数機のSBDが大和へ急降下を敢行した。


「なんてバカデカイ戦艦なんだ!?」


 SBDのパイロットはそう言いつつも急降下を続けるが大和、長門、陸奥からの激しい対空砲火を受けて急降下したSBDは全機撃墜されるのであった。


「何!? 超弩級戦艦だと!!」

「はい、ナガトとムツも確認されました。それと攻撃隊も47機が未帰還です。このままでは航空戦力が壊滅してしまいます!!」


 参謀からの悲痛な叫びにフレッチャーは顔を歪めた。


(何処だ……何処で私はミスをしたのだ!!)


 フレッチャーはそう思う。確かに戦艦3に空母2は獲物だったろう。だが実際にいたのは米戦艦を遥かに上回る戦艦とビックセブンの二隻と軽空母二隻である。


「せめて後二隻いれば……」


 帝都空襲が失敗後、空母の喪失を恐れたルーズベルトは空母を分けるように指示を出していた。そのため真珠湾にエンタープライズとエセックスにサラトガ、豪州との輸送路護衛にコンステレーションとヨークタウンでフレッチャーの手元にはそれしかいなかった。


『対空レーダーに反応!! 敵偵察機です!!』

「直ちに迎撃せよ!!」


 その時、レーダー員が報告をする。それを航空参謀が指示する。

 しかし、飛来してきたのは高速偵察機である彩雲であり上空にあげていたF4Fは瞬く間に振り切られて艦隊上空に彩雲が飛行する。


「空母が二ハイじゃ!! 急いで艦隊に打電じゃ!!」


 彩雲が発信する文は旗艦翔鶴も受信した。しかし、第三機動部隊は攻撃隊を出すのに躊躇した。


「薄暮攻撃をするべきです!!」


 航空参謀は主張する。時刻は1630を回ったばかりである。だが寺岡は首を横に振った。


「搭乗員達の腕は信じている。だが無闇に被害を出すのは避けるべきだ」


 この時、寺岡の判断が正しかったのかは分からない。しかし、後日の戦果を見れば正しかった。

 翌日、寺岡は再度彩雲隊を放ちフレッチャーの機動部隊を捜索する。しかし、フレッチャーは逃げようとしていた。


(航空戦力が半減している以上、このまま珊瑚海にいては危険過ぎる)


 中身が無ければ空母はただの箱である。フレッチャーは上官のニミッツに後退する旨の電文を送った。だが、返ってきたのは「日本機動部隊の撃滅を期待する」というキングの訓令だった。そのため、フレッチャーは再度第三機動部隊を捜索する事になる。

 そして先に相手を見つけたのは第三機動部隊側だった。


「彩雲五号機より電文!! 『我、敵機動部隊発見ス』です!!」

「直ちに攻撃隊を発艦!!」


 寺岡が叫ぶ。四空母の飛行甲板に零戦45機、九九式艦爆54機、九七式艦攻54機が勢揃いしていた。寺岡の命令は四空母に伝わり攻撃隊のプロペラが回り出す。先頭の零戦は前部に備えられた油圧カタパルトに取り付けられ順次発艦していく。


(頼むぞ海鷲達……)


 寺岡は防空指揮所に上がり、攻撃隊が水平線から消えるまで敬礼をした。その一方で米機動部隊も第三機動部隊を発見し攻撃隊を送り出していた。


「叩け!! 飛行甲板に穴を開けるだけでもいい、兎に角奴等をポートモレスビーに近づけさせるな!!」


 フレッチャーはそう叫ぶ。飛行甲板さえ叩けば空母は浮かぶ箱に過ぎない。フレッチャーはそこに賭けていた。フレッチャーの祈りを他所に両攻撃隊は互いに交差しつつほぼ同時刻に両艦隊上空に到着し攻撃が開始された。


「全軍突撃せよ!!」


 攻撃隊総隊長の高橋少佐は自ら九九式艦爆の操縦桿を握りつつ叫ぶ。彼の後方では制空隊の零戦27機が上空迎撃のF4Fと空戦をしていた。空戦はパイロットの熟練度がある零戦側に有利だった。


「掃討隊掛かれ!!」


 噴進弾を搭載した零戦18機が攻撃隊より早くに敵機動部隊へ突撃した。高速を生かして18機の零戦は護衛艦艇に対して噴進弾を発射、対空火器を破壊する事で攻撃隊の被弾率を少しでも低下させる事に攻撃の成功を託した。


「今が好機だ、行くぞォ!!」


 対空砲火が緩くなったのを確認した高橋少佐は急降下を敢行した。艦爆隊は一本棒ではなく編隊での急降下爆撃である。この方が対空砲火も削がれ生還率も多くなる。その代わり、命中率は低下するもそこは目を瞑るという形である。

 高橋少佐の艦爆隊は高度500で腹に抱えた250キロ爆弾を投下していく。全機が無事というわけではない、編隊爆撃でも被弾して爆発四散、炎上して海面に叩きつけられる機体はある。

 それでも訓練の成果を発揮し空母ヨークタウンに四発、コンステレーションに三発が命中。他にも護衛艦艇にも多数の命中弾を得ていた。


「ダメコン急げ!!」


 消火ホースを持ったダメコン隊が慌ただしく走り回り消火活動をする。しかし、攻撃はまだ終わってない。


「ケイト(九七式)が来るぞォ!!」


 機動部隊の左右から54機の九七式艦攻が突撃してきた。被弾炎上する護衛艦艇群はそれでも生き残っている対空火器を使い迎撃するが、最初に比べたらその数は激減していた。


「焦るなよ!!」


 艦攻隊隊長の嶋崎少佐は列機にそう叫びつつ高度5メートルを維持しながら飛行。空母コンステレーションに狙いを定めた。


「用意……撃ェ!!」


 嶋崎少佐の中隊は次々と魚雷を投下、魚雷の重量を利用して離脱する。


「回避ィ!!」


 コンステレーションの艦長は回避命令を出すが左舷に三発が命中した。


「止めを刺すぞ!!」


 更に左舷から一個中隊の九七式艦攻が突撃、距離700で魚雷を投下して離脱した。


「駄目です、避けきれません!!」

「NOォォォォォ!!」


 結果としてコンステレーションは左舷に魚雷七発が命中、それが致命傷となった。


「コンステレーション、沈没します!!」

「くっ……早くスコールに逃げ込め!!」


 既に損傷していたヨークタウンは隠れるために必死にスコールがある方角へ航行していた。しかし、9機の九七式艦攻が突撃してくる。


「撃て撃て!! 近づけさせるな!!」


 ヨークタウンの護衛には多数の艦艇がいた事もあり九七式艦攻の攻撃は魚雷一発の命中で終わりヨークタウンはスコールに隠れる事が出来たのであった。


「ちっ、逃げられたか……」


 高橋少佐は無念そうに言いつつもコンステレーション撃沈の報告を旗艦翔鶴に発信するが第三機動部隊も米攻撃隊に襲われていたのである。


「上空の零戦隊はどうした!!」

「他の攻撃隊を追い回しています!!」

「呼び戻せ!!」


 米攻撃隊は途中でスコールに巻き込まれ五月雨式に第三機動部隊上空に到着していた。それが第三機動部隊の混乱を招いたのである。


「……何が起きるか分からんな」


 慌ただしく参謀達が動くなか、寺岡は冷静だった。


「焦るな!! 落ち着いて攻撃を回避しつつスコールへ入るのだ!!」


 第三機動部隊は攻撃を回避しつつスコールへ入っていく。他の空母も翔鶴以外はスコールへ順調に入っていった。


「よし、後はこの翔鶴が……」

「敵機直上ォォォォォ!! 急降下ァァァァァ!!」


 寺岡の言葉を見張り員が大声で遮った。寺岡が上空に顔を向けた。そこには急降下へ移行した3機のSBDがあった。


「……いかん、間に合わない!!」


 3機のSBDは腹に抱えた必殺の450キロ爆弾を投下して離脱した。3発の450キロ爆弾は風切り音を発しつつ翔鶴の飛行甲板に突き刺さり格納庫に転がりこんだ。そこで450キロ爆弾は力を解放した。


「ぐぅッ!?」


 翔鶴は身震いをした。3発の450キロ爆弾は格納庫で爆発、予備機と整備兵を爆風で薙ぎ倒してエレベーターが吹き飛んだのであった。








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