第八十一話
「おぅ将和」
「ん、長谷川か。久しぶりだな」
GF司令部に用があった将和は帰る時に海上護衛隊司令長官の長谷川清大将に声を掛けられた。
「たまには飲まんか?」
「構わんぞ、なら後でな」
「おぅ」
その後、将和と長谷川は横須賀の小さな料亭にいた。幾分か飲んでいるのか両人とも頬を薄く赤らめている。
「どうだ海上護衛隊の方は?」
「何とかやってるよ。やはり海を航行するのはいい」
将和の言葉に長谷川はニカッと笑う。台湾総督だった長谷川を海上護衛隊司令長官に抜擢したのは宮様だったが将和の「戦場を体験している者が適任」という言葉に少なからずあった。
「それに新型のソナーは最高だ」
長谷川はニヤリと笑う。新型のソナーとは開戦前に開発配備された九九式水中探信儀の事であり史実で言う三式水中探信儀である。史実よりかなり早くに九九式水中探信儀を配備した事と海上護衛隊は元より聨合艦隊の艦艇は伊号潜と対潜演習を頻繁にしていた事で対潜練度は向上、不用意に近づいた米潜水艦は徹底的に血祭りに上げられていた。
なお、海上護衛隊は以下の陣容だった。
総旗艦
香取
護衛空母
大鷹 雲鷹 冲鷹 神鷹
水上機母艦
野登呂 神威 秋津洲
第一護衛隊(トラック~ラバウル航路)
護衛巡洋艦
夕張
駆逐艦
神風 朝風 春風 松風 旗風 追風 疾風 朝凪 夕凪
第二護衛隊(内地~南方航路)
護衛巡洋艦
天龍
駆逐艦
若竹 呉竹 早苗 早蕨 朝顔 夕顔 芙蓉 苅萱
海防艦
占守 国後 八丈 石垣
第三護衛隊(内地~トラック航路)
護衛巡洋艦
龍田
駆逐艦
睦月 如月 弥生 卯月皐月 水無月 文月 長月 菊月 三日月 望月 夕月
第四護衛隊(内地~満州航路)
海防艦
択捉 松輪 佐渡 隠岐 六連 壱岐 対馬 若宮 平戸 福江
開戦後から現時点で米潜水艦を11隻も撃沈させたのは一重に繰り返し対潜演習を指導した宮様やGF司令部の判断だったであろう。特に宮様はww1の時に乗艦していた戦艦安芸を潜水艦に撃沈され潜水艦の恐怖を身に沁みていた事も一つであろう。
「内地の輸送は俺達に任せろ」
「あぁ、頼りにするさ」
海上護衛隊は護送船団方式で輸送船団を護衛している。これは将和からの史実情報でもある。
「艦隊はお前に任せる。潜水艦は徹底的に叩いてやる」
長谷川の意気込みは後に事実となり海上護衛隊の艦艇は九九式水中探信儀の他に後継の二式水中調音機(史実の四式水中調音機)まで登場し徹底的に叩かれ米潜水艦は終戦までに100隻近くも撃沈されるのである。
それはさておき、MO作戦は開始されていた。第四艦隊司令長官の南雲中将は旗艦を大和にし攻略部隊と共に行動していた。
「鹿島からは?」
「特に緊急電はありません」
南雲は幕僚……参謀長の矢野少将はトラックに停泊する練巡鹿島に陣取り情報収集をさせている。
「絶えず対空電探から目を離すな。上空警戒機も絶やすな」
攻略部隊の護衛に任された軽空母祥鳳と瑞鳳から絶えず上空警戒の零戦と対潜哨戒の九七式艦攻が発艦している。
「ツラギの志摩は?」
「まだ何も」
ソロモン諸島のツラギ島には志摩少将の第十九戦隊(沖島を旗艦に第一号哨戒艇等八隻)らが進出し零式水戦隊(史実二式水戦)15機が進出していた。
ツラギ攻略の報を聞いた第17任務部隊司令官のフレッチャー少将は艦隊を北上させてツラギを叩く事にした。情報ではツラギは水上機の部隊がいるとの事だ。
(水上機部隊を叩いて偵察の目を一つでも無くす!!)
フレッチャーはそう判断したのだ。5月4日朝、空母ヨークタウンは攻撃隊を発艦させた。目標はツラギの水上機部隊である。
一方のツラギでも攻撃隊が接近するのを対空電探で探知していた。
「敵機は30余り!!」
「対空戦闘用意!! 零式水戦はどうした!?」
「ただいた離水中!!」
対空電探のおかげもあり米攻撃隊が来襲する前に15機の零式水戦は離水に成功、各艦も対空火器の砲身を上空に向けて迎撃態勢を整えていた。それから程なくして零式水戦は米攻撃隊との空戦に突入した。
「奴等、艦爆と艦攻しかいないぞ」
『舐められたもんですな隊長』
『全機落としてやりましょうよ!!』
「あぁ、全機突入!! 一機も艦隊に向かわせるな!!」
ヨークタウンから飛来した攻撃隊(第一波)はSBDドーントレス24機、TBDデヴァステーター12機だった。護衛のF4Fがいない第一波は零式水戦から見ればカモである。
『何だあの水上機は!?』
『ジークの水上機だ!!』
『誰か助けてくれ!! 後ろに付かれた!!』
結局、第一波は志摩艦隊を攻撃する事はなかった。第一波は零式水戦に追い回されSBD11機、TBD8機を喪失した。更に第二波(艦戦6機 艦爆12機 艦攻3機)が接近してきた。
『今度は護衛の猫がいます!!』
「三井と新井の小隊は猫の相手をしてやれ!! 残りは俺に続け!!」
水戦隊は獅子奮迅した。水戦ながらF4Fを3機落とし水戦4機が墜落した。更にSBD8機、TBD3機を撃墜したがそれでも残りは志摩艦隊に殺到したのである。
「対空砲火開けェ!!」
旗艦沖島からは対空砲火が開かれる。九七式12.7サンチ連装両用砲が激しく砲搭を回して砲弾を上空に吐き出す。40ミリ連装機銃と25ミリ単装機銃がミシン縫いのように敵機を近づけさせないようにする。それでも攻撃隊は勇敢だった。
「敵機急降下ァ!!」
「ぬゥ!?」
見張り員の絶叫に志摩少将は思わず上空を見ると450キロ爆弾を投弾したSBDが離脱していた。投弾された450キロ爆弾は沖島の前部両用砲に命中、両用砲を吹き飛ばしたのである。
「消火急げ!! 誘爆させるな!!」
応急隊がホースを持って慌ただしく甲板を走り回る。被害はそれだけで更なる攻撃隊が来る事はなかった。
否、攻撃隊を送れなかったのが正しかった。ヨークタウンの攻撃隊はF4F3機、SBD19機、TBD12機の計34機を喪失したのである。
この時、ヨークタウンは航空機70機を搭載していたので半数を喪失したに等しかった。特にTBDは一機しかおらずほぼ全滅であった。
フレッチャーは直ちに増援を求めたがニューカレドニア島やニューヘブリデス諸島には陸軍の航空隊しかおらず結局はそのままとなるのである。ツラギが攻撃されるも水上機部隊の損害が無い事でツラギからの偵察はやり易くなりそれは第三機動部隊の負担を減らす事に繋がった。
5月7日、第三機動部隊は珊瑚海に突入し索敵活動を行うが先手を打ったのは第17任務部隊だった。
「対空電探に反応!! 敵攻撃隊です!!」
「ちっ、そう簡単には行かしてはくれないか」
狙われたのは攻略部隊だった。攻略部隊はポートモレスビーから発進したB-17に発見されておりその撃墜に時間が掛かっていた。時間が掛かるという事は艦隊発見の報を送られているという事である。
「直ちに残りの零戦を出せ。対空戦闘用意!!」
南雲中将の指令を受けて祥鳳と瑞鳳の飛行甲板で待機していた零戦隊が直ちに発艦していく。
(大和の餌食にしてやる……)
爆弾や魚雷の一、二発命中されても大和が沈む事はない。むしろ軽空母を気遣っての事だった。
「さぁて、やるとするか」
南雲はニヤリと笑うのであった。
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