第八十話
書き直しました
日本海軍の第六艦隊は主に潜水艦が主力の艦隊である。史実の伊号潜水艦と言えば『巡洋潜水艦』である。長大な航続距離を持ち、通商破壊作戦や偵察や哨戒任務に用いられる型であり略称は巡潜である。
もう一つは『海軍大型潜水艦』である。主力艦隊に随伴できるだけの速力を求めた型で、艦隊決戦の補助戦力として計画・建造された。略称は海大型である。だがこの世界では艦隊決戦で潜水艦を用いる事は良しとせずむしろ通商破壊作戦等を重視するようになりそれを良しとしない末次派との抗争が絶えなかったが末次が2・26事件で失脚したので開戦時の伊号潜水艦は巡潜とその改良型で占められる事になる。
しかし、巡潜と言っても全てに水上機が搭載されているわけではない。一個潜水隊の旗艦クラスは水上機を搭載する巡潜乙型で残りは丙型が占められていたのだ。
開戦後、第六艦隊の伊号潜達は通商破壊のため東はアメリカ西海岸、西はインド洋と輸送船を狩り続けた。その結果、昭和17年3月の段階では西海岸での戦果は貨物船11隻、タンカー4隻でありインド洋では貨物船16隻、タンカー7隻を撃沈しており米海軍は警戒のため貴重な駆逐艦を西海岸に配備させる展開となっていた。
このように史実と異なる展開をする第六艦隊だがまた金星を上げる事になる。
「ほぅ、本土攻撃の機動部隊は行ったかね」
「はいプレジデント」
ルーズベルトの言葉にキングは頷いた。アメリカ合衆国の大統領が住まうホワイトハウス、彼等はそこにいた。
「24機のB-25を搭載した空母ホーネット、エセックスを護衛する空母ヨークタウン、エンタープライズの機動部隊です。必ず成功するでしょう」
「そうあってほしいものだ」
キングの言葉にルーズベルトは頷く。勝ちがないアメリカは国民の士気向上のために勝ちが欲しかった。それをこの作戦で補えたら御の字だろう。
その機動部隊はブルことハルゼー中将が指揮する元、ミッドウェー島付近を航行していた。
「何事も乗り切ってミヨシの頭に爆弾を降らしてやる」
ハルゼーはそう呟く。燃え盛る真珠湾を知るハルゼーにとって意趣返しと思えた。だがその機動部隊を海中から見守る者がいた。
「なんて機動部隊だ……一航艦並だぞ」
ミッドウェー島哨戒のためミッドウェー島を監視していた伊10潜が偶然、ハルゼーの機動部隊を発見したのだ。
「急速潜行ォ!! 敵機動部隊から離れてから本土に緊急電だ!!」
伊10潜が放った緊急電は直ぐにGF司令部に届けられた。
「本土までの最短ルートを調べろ。偵察機を出して徹底的に探せ!!」
堀長官はそう厳命する。そして敵機動部隊の捜索が始まるがハルゼーを見つけたのはまたしても潜水艦だった。
「見つけた、敵機動部隊だ!!」
発見したのはアメリカ西海岸へ通商破壊に向かう伊8、伊12、伊13、伊14の一個潜水隊だった。潜水隊は直ちに包囲陣形へ移行した。連絡等は前以ての段階で済ませていたので後は僚艦達の判断であった。
「魚雷良し!!」
「方位……」
もたもたしていたら逃げられてしまう。乗員達は素早く動き全ての準備を整えた。
「撃ェ!!」
四隻は魚雷を放つと最大深度まで潜行して息を潜める。
「……時間です」
時間を測っていた士官が言った瞬間、爆発する音が聞こえてきた。命中の証であった。乗員達は騒げないのでニヤニヤしつつ喜びあったのである。
一方、洋上では混乱していた。
「被害報告!!」
「駆逐艦モンセン、左舷中央に魚雷命中で轟沈!! 一撃です!!」
「空母ホーネット、左舷に三発命中!! 傾斜が激しくB-25の投棄を開始しました!!」
「弾薬庫への火災及び浸水は防げ!!」
「駄目です、傾斜が激しすぎます!!」
「……ハルゼー司令!!」
「……やむを得ん、総員退艦せよ!!」
空母ホーネットは立て続けに酸素魚雷を三発食らい、軍艦としての機能をほぼ喪失していた。
「ジャップのサブマリンめェ……」
ハルゼーは怒りに満ち溢れていた。護衛の駆逐艦達は高速に動き回り爆雷を投下して駆り立てていくが伊号潜達は既に脱出していたので戦果は無かった。
「それで損害は?」
「空母ホーネットと駆逐艦モンセンが撃沈されました。ホーネットに搭載していたB-25は全て海没です」
「これで攻撃隊は半減したというわけか」
空母ホーネットとエセックスはB-25を合わせて24機搭載していた。その半分を喪失した事なのだ。
「ハルゼー司令、このまま進んでも敵は待ち構えています」
「むざむざ帰れと?」
参謀の言葉にハルゼーはジロリと発言した参謀を睨む。睨まれた参謀は一瞬、怯むが意を決して口を開く。
「ジャップのサブマリンに奇襲されたという事は最早艦隊を隠す意味はありません。このまま進んでもアドミラル・ミヨシが率いる機動部隊が待ち構えているだけだと思います。ここは空母保全のために反転すべきかと存じます」
「………」
参謀の言葉は的確だった。伊号潜の通報で横須賀に待機していた一航艦の一航戦である空母加賀、赤城、天城は護衛艦艇を率いて出撃していたのだ。
「……艦隊は直ちに反転、真珠湾に帰還する」
ハルゼーはそう決断した。ハルゼーの反転で米機動部隊は帝都を空襲する事は出来なかったが空母を守る事には成功したのである。
「……そうか、米機動部隊は反転したか」
出撃した空母加賀の艦橋で将和は伊号潜からの報告に安堵の息を吐いた。
(ハルゼーにしては賢明な判断だな。ラバウル沖でレキシントンを喪失しているのが効いたかもしれんな……)
この時、内地ではマレー沖で活躍した美幌海軍航空隊等陸海の航空隊が待機しており更には制式採用されたばかりの局戦雷電も帝都上空を飛行していたりする。
(まぁ反転したのなら帰るしかないな)
将和は艦隊の反転を指示し一航艦は内地に帰還したのである。こうして後に呼ばれる北太平洋海戦は伊号潜による一方的な勝利だったのである。
「とりあえずは伊号潜で防げたか」
「潜水艦のは奇跡というしかありませんね」
いつもの会合で将和や宮様達はそう話していた。
「陸軍も今回の件で防空態勢の見直しになりました」
「海軍さんから15.5サンチ砲を供与してくれたのは助かります」
杉山らはそう述べる。15.5サンチ砲は所謂最上砲であり陸軍には二門が供与され15サンチ高射砲の開発に役立っていた。
「それとだが……やはりFS作戦はやるつもりだ」
宮様の言葉に将和らは宮様に視線を向ける。
「やはりニッケルが足りませんか?」
「開戦前から備蓄はしていたがアメリカとの戦争には足りないな」
FS作戦は米豪遮断を意味するがニューカレドニア島は良質なニッケルが産出される。それを喉から手が出る程欲したのである。
「ではMO作戦も?」
「うむ、艦艇は三好君に任せる」
「分かりました」
こうしてMO作戦とFS作戦が開始されるのであった。
「まずはMO作戦、ポートモレスビー攻略が第一優先である」
旗艦敷島から横須賀鎮守府に移動したGF司令部の作戦室で堀長官はそう述べる。なお、敷島から移動したのは膨大な通信量に耐えきれなかったのが原因であった。開戦前に通信機能を強化していた敷島だったがそれでも無理だったようで陸に上がる事に決定、場所は帝都に近い事も考えて横須賀鎮守府の敷地に司令部を建設しての事だった。ちなみに海上護衛隊総司令部もGF司令部の隣に建設していた。
「ポートモレスビー攻略は第四艦隊が担当地域であり南雲中将に全体的な指揮を委ねる」
「……はっ」
4月20日の時点で南遣艦隊司令長官から第四艦隊司令長官に就任した南雲中将は堀長官の言葉に力強く頷いた。前任の井上中将は軍令部に異動している。これは井上中将の作戦指揮能力が問題となっていたからである。
本来、井上中将は軍政畑であり史実でも山本大将と共に三国同盟の締結を一時的に阻止していた程である。しかし、史実では祥鳳、如月、疾風等を喪失したりと指揮能力は弱かった。そのため、堀長官と山本大将は相談して軍令部にいた伊藤中将を南遣艦隊司令長官として赴任させ、南遣艦隊司令長官の南雲中将を第四艦隊司令長官に赴任させ井上中将を軍令部に赴任するという荒業を敢行したのである。
「機動部隊の指揮は第三機動部隊司令官の寺岡に任せる」
「はっ」
内地で母艦飛行隊の編成を完了した第三機動部隊、そこに第五航空戦隊の翔鶴と瑞鶴を、第一航空艦隊から第六十一駆逐隊の秋月、照月、涼月、初月等を編成したのである。更に攻略部隊には一戦隊の大和、長門、陸奥を投入したのであった。
第三機動部隊
空母翔鶴 瑞鶴 葛城 笠置
甲巡妙高 羽黒 六甲 和泉
乙巡長良 鬼怒
駆逐隊
第12駆逐隊
叢雲 東雲 薄雲 白雲
第27駆逐隊
有明 夕暮 白露 時雨
第61駆逐隊
秋月 照月 涼月 初月
MO攻略部隊
戦艦大和 長門 陸奥
軽空母祥鳳 瑞鳳(二隻合わせて零戦42機 九七式艦攻18機搭載)
甲巡青葉 衣笠 加古 古鷹
乙巡多摩
駆逐艦吹雪 白雪 初雪 狭霧 朝霧 夕霧 天霧 漣 曙 潮
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m