第七十九話
第二機動部隊から発艦した第一次攻撃隊はコロンボを空襲した。無論、イギリス側も対空レーダーで第一次攻撃隊を探知してコロンボ上空に迎撃のハリケーン戦闘機等を張り付かせたが54機の零戦に一蹴されたのである。
「クソッタレ!! 落ちているのは味方の戦闘機ばかりじゃないか!!」
「無駄口を叩くな!! 撃ちまくれェ!!」
イギリス兵達はそう愚痴りながらも対空砲火を放ち第一次攻撃隊を近づけさせないようにするが彼等はものともせずに対空砲火の弾幕に突入にした。
「目標、停泊中の輸送船!!」
「ヨーソロー!!」
将弘は停泊していた大型輸送船に目標を定めた。
「用意……撃ェ!!」
中隊九機から放たれた18発の250キロ爆弾は輸送船に7発が命中し輸送船は爆沈したのである。
「命中!!」
「よし!!」
第一次攻撃隊はコロンボの港湾施設と飛行場を破壊しつくしコロンボの機能を大幅に減少させたのである。更に同日午後、偵察機が英東洋艦隊のA部隊と合流しようとしていた重巡ドーセットシャーとコーンウォールを発見した。
「直ちに艦爆隊を発艦!!」
連絡を受けた小沢は待機していた江草少佐の艦爆隊54機と護衛の零戦18機は出撃させて二隻の重巡は史実通りの展開となる。
「クソ、二隻がやられたか」
旗艦ウォースパイトで報告を受けたフィリップスは舌打ちをする。
「B部隊に水上機を出せ。プランBだ」
フィリップスの密命を帯びた水上機は直ちにB部隊に向かい、密命を帯びたB部隊は盛んに電波を発信し始めたのである。しかも最大出力であり意味は不明だった。しかし、第二機動部隊を釣るのには十分だった。
「罠ではないでしょうか……?」
奥宮航空参謀はそう具申した。彩雲からの報告には戦艦四隻を主力とする艦隊であった。しかも何らかの偶然ではあるが第二機動部隊の方向へ航行していたのだ。
「……攻撃隊を出す。敵戦艦部隊を叩いてからでも遅くはない!!」
小沢はそう判断した。少なくとも敵空母の数は第二機動部隊より少ないはず、小沢はそう思っていた。実際にそれは当たっていた。確かにフィリップスの手元には装甲空母が二隻と小型空母一隻の三隻のみである。
しかし、何らかの力が加わったのか運はフィリップスに味方した。フィリップスのA部隊にスコールが突如現れて攻撃隊を出す時間は大幅に遅れたのである。小沢中将の第二機動部隊はその間にB部隊を攻撃した。
「敵戦艦炎上ォ!!」
九九式艦爆の操縦桿を握る関少佐の眼下には炎上する戦艦ラミリーズを見つつ叫んでいた。他にも戦艦リヴェンジが波間に消えようとしている。
「勝ったな」
後は第二次攻撃隊を来るだけである。しかし、その第二次攻撃隊はB部隊に来なかった。
「南南西方面から敵攻撃隊だと!?」
「誤報ではないのか!?」
「いえ、電探室からは確かに南南西方面からだと言っています!!」
「……戦艦を囮に使うか。そこまでしてイギリスは我々を叩きたいと思えるな」
参謀達が騒ぐ中、小沢はニヤリと笑う。
「狼狽えるな!! 第二次攻撃隊は直ちに発艦して南南西方面へ向かえ!!」
「索敵攻撃をなさるのですか!?」
「彩雲からの報告は待っていられん!! それとも龍驤の悪夢を甦らせるのか!!」
かつて龍驤が大陸にて急降下爆撃で被弾炎上して沈没寸前に陥った経緯は航空屋にとっては鬼門だった。龍驤の悪夢という言葉に奥宮は口をつぐんでしまう。だが、此処での小沢の判断は間違ってはいなかった。
「全機発艦!! 始めェ!!」
第二次攻撃隊136機は直ちに発艦して南南西方面にいるはずのA部隊へ向かったのである。それと入れ替わる形でA部隊から72機の攻撃隊が飛来したのである。
「全機attackだ!! admiralミヨシの機動部隊を吹き飛ばせ!!」
攻撃隊長はそう叫び、自身が乗るフェアリーアルバコアは高度を5メートルまで下げる。高度を5メートルまで下げるのはフィリップスの指示だった。
「全く、親指トムめ。高度をギリギリまで下げさせるのも一苦労するんだからな!!」
攻撃隊長はそう罵倒するも表情は明るかった。何せ生き残るようにフィリップス自身が工夫した結果であった。ちなみに高度5メートルは日本軍が元から採用している。
「クソッタレ!! 奴等、高度が下げすぎているぞ!!」
「無駄口を叩くな!! 叩く暇があるなら弾を撃て!!」
機銃員達はそう叫びつつも弾丸を空に撃ち込む。機銃員達の必死の努力で多数のアルバコアを撃墜した。
「左舷から雷撃機!!」
「くっ、いかん!?」
空母笠置の左舷に魚雷1、爆弾2が命中して同艦は中破した。更に戦艦岩代が至近弾を食らったのみだった。
「……危機は去ったか……」
空母雲龍の艦橋で小沢はそう呟いた。対空砲火の音は聞こえない、敵攻撃隊は去ったようである。一方で第二次攻撃隊はA部隊上空に到着していた。
「全軍突撃せよ!!」
最初に狙われた装甲空母のフォーミダブルが波間に消えたのは対空砲火が始まって31分後の事である。最後に狙われた装甲空母インドミタブルは回避に成功していたが九九式艦爆が投下した250キロ爆弾が艦橋付近に命中し一時的に操艦の指示が遅れた。攻撃隊はそれを見逃さなかった。
「今が好機だ!!」
まだ攻撃していなかった将弘らの九七式艦攻18機が左右から群がり次々に魚雷を投下した。
「回避ィ!!」
「駄目だ、間に合わない!?」
左舷からの魚雷は回避に成功するも右舷からのは回避出来ず、魚雷五本が命中。それがインドミタブルの致命傷となったのである。
「……此処までか」
ウォースパイトの艦橋でフィリップスは息を吐いた。
「艦隊は反転する」
A部隊はB部隊と合流しようとするも小沢は再度B部隊にも攻撃隊を送り込み戦艦ロイヤル・ソブリンが撃沈され結果的に第二機動部隊は戦艦3、空母2を撃沈した。残存英東洋艦隊はアッヅ環礁に退避した。だが第二機動部隊はその戦果にまだ満足はせず4月9日にはセイロン島のトリンコマリを空襲し湾外に退避していた小型空母ハーミースを捕捉し艦爆隊の攻撃でハーミースを撃沈した。
インド洋を粗方荒らした第二機動部隊はタンカーからの補給を受けつつインド洋から離脱したのである。だがまだインド洋作戦は終わりを告げていなかった。
ベンガル湾で通商破壊作戦を展開していた南遣艦隊であるがチッタゴン等航空基地の破壊にも何とか成功していた。だがチッタゴン航空基地は大量のインド人を徴用して航空基地の修復をし南遣艦隊に攻撃隊を差し向けたのである。
「裏をかかれたか!!」
旗艦鳥海の艦橋で南雲中将は顔を歪ませた。上空警戒の零戦は運悪く僅か12機、それでも飛来した敵攻撃隊45機を相手に獅子奮迅の空戦をしていた。だが――。
「上空に敵機!?」
被弾炎上したA-20が空母龍驤に体当たりを敢行したが機体は直前で爆発四散をしたが機銃員を筆頭に大量の負傷者が続出して対空砲火が一時的に失った。それを見逃さなかった二機のA-20が高度800メートルから水平爆撃を敢行した。
「被害報告!!」
「飛行甲板に爆弾三発が命中!! 発着艦不能!!」
龍驤は飛行甲板に450キロ爆弾三発を受けて飛行甲板はめくり上がり発着艦は不能となった。攻撃はそれだけではあったが南遣艦隊は龍驤を下がらせて再度チッタゴン航空基地を攻撃して憂さ晴らしをしたのである。
「……まさかの予想しなかった展開だな」
一連の報告を聞いた将和は顔を歪ませた。空母二隻の損傷、それも浅くはない傷である。
「……だが史実と比べて戦艦3、空母3の撃沈か。それを考えたら大丈夫な方……いかんな、思考が駄目な方向になる」
今日帰ったらシャーリーの胸に突撃してやると思った将和である。
「だが英東洋艦隊はほぼ壊滅に近いな。当初の目的はほぼ達せられたか……借りにしとくぞゲーリング」
ポツリと呟く将和であった。
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