第七十八話
「敵機急降下!!」
「むぅ!?」
見張り員の叫びにウィルソン・ブラウン中将は上空を見る。上空から18機のヴァル(九九式艦爆)が急降下を開始していた。
「撃ちまくれェ!!」
レキシントンは急降下爆撃を回避しようと自艦が搭載する対空火器を使い弾幕を張っていた。しかし、艦爆隊はそれをものともせずに急降下をし続けレキシントンに届け物を投下したのである。
「被害報告!!」
ブラウン中将は床に倒れながらも叫ぶ。
「中部飛行甲板に爆弾命中!!」
被害報告が次々とブラウンの元に上がってくる。18機のヴァルに襲われてレキシントンは三発の命中弾を受けた。
「消火を急がせろ!!」
ブラウンは指示を出しつつも他艦を見る。護衛艦艇も18機のヴァルに襲われていた。重巡ペンサコラは250キロ爆弾二発、駆逐艦デラ、クラークに一発ずつ命中して対空火器を吹き飛ばしていた。
「新たに敵機接近!!」
「何!?」
接近してきたのは第二次攻撃隊(零戦18機 九七式艦攻54機)だった。艦攻隊は左右に展開して一斉に突撃を開始した。
「近づけさせるな!!」
ブラウン中将はそう叫ぶが艦攻隊は対空砲火をものともせずにレキシントンに殺到した。
「撃ェ!!」
艦攻隊は絶好の射点で魚雷を次々に投下して離脱した。後に残されたレキシントンは必死に回避運動をするが水柱が吹き上がるのである。
「左舷に魚雷五本命中!!」
「応急急げ!!」
「駄目です、追い付けません!!」
左舷に魚雷五本が命中したのが完全に致命傷となった。レキシントンは急速に傾斜をしていきブラウン中将はやむを得ず総員退艦を発令、1528にレキシントンは波間へと消えたのである。更に艦攻隊は護衛艦艇にも攻撃を行い損傷していた重巡ペンサコラと駆逐艦デラ、クラークを撃沈するのであった。
「敵空母撃沈……三好長官への手土産が出来たな」
報告を受けた寺岡少将は笑みを浮かべたのであった。こうして日米初の機動部隊同士の対決は日本に軍配が上がったのである。
「レキシントンを沈めたか。史実より早いがまぁ大丈夫だろう」
いつもの会合で宮様は笑顔でそう言った。
「問題はレキシントンの同型ですな」
「コンステレーション……史実では無かった空母か」
アメリカはワシントン軍縮の時にレキシントン型を三隻建造していた。それがレキシントン、コンステレーション、サラトガである。
米開戦時保有空母
レキシントン級
レキシントン コンステレーション サラトガ
レンジャー
ヨークタウン級
ヨークタウン エンタープライズ ホーネット エセックス
ワスプ
また、ヨークタウン型の四番艦にはエセックスが就役しており色々と異なっていた。先日のニューギニア沖海戦でレキシントンは沈めたので今の米空母は八隻である。
「恐らくレンジャーとワスプは大西洋でUボート狩りでしょう。となると我々が対峙するのは残ったコンステレーションにサラトガ、そしてヨークタウン級の合わせて六隻のはずです」
「ふむ……」
「向こうが戦力温存で空母一隻の任務部隊で悪戯ばかりされると此方も戦力を分散せざるを得ません」
「今回は史実の情報があったからこそ出来た技か」
「カンニング行為ですがね」
将和の言葉に宮様らは苦笑する。
「第三機動部隊は補充のため一時内地に帰還する。トラックには五航戦を派遣する」
「一航艦は派遣しないので?」
宮様の言葉に将和は首を傾げる。
「……まだ内密だがドイツ側からインド洋の作戦を要請された」
「ドイツから……ですか?」
史実と同じく第二段作戦の検討は始められていたが、セイロン島に進出してインド・中国方面を攻略し、ドイツ・イタリアと連携作戦(西亜打通作戦)を目指す陸軍側と、オーストラリア大陸攻略またはサモア諸島まで進出して米豪遮断作戦を目指す海軍側(特に軍令部)とが史実通りに対立し、最終目標が決まってなかった。そこへドイツ側からの要請である。
「しかも要請したのはヒトラーではなくゲーリングときた」
「えッ!? あいつからですか!?」
宮様の言葉に将和は驚愕した。まさかヒトラーではなく友人からの要請だったのだから。
「ドイツもソ連に苦戦しているようだ。その影響を考慮してゲーリングは要請したのだろう」
宮様の予想は当たっていた。ノモンハンでチハが活躍した事、チハをドイツとイタリアに売却した事でT-34、四号長砲身の早期装備化が行われ独ソ戦は史実以上の殴り合いをしていたのである。
「同盟を結んでいる以上はやらざるを得んだろう」
「では一航艦を?」
「一航艦でも龍驤や六航戦らだろう。ましてや一航戦は出せん」
宮様は帝都空襲を警戒しての言葉だった。
「分かりました。至急に堀と協議します」
「うむ」
将和の言葉に宮様は頷いた。将和は直ちに堀と協議を行いインド洋派遣艦隊を編成した。
インド洋派遣艦隊
第二機動部隊
第二航空戦隊
蒼龍 飛龍
第六航空戦隊
雲龍 蓬莱 葛城 笠置
第三戦隊第二小隊
岩代 薩摩
第七戦隊第一小隊 最上 三隈
第九戦隊第二小隊 春日 六甲
第七水雷戦隊 阿賀野
第六駆逐隊 暁 雷 響 電
第十四駆逐隊 浜波 朝霜 岸波 沖波
第二六駆逐隊 清風 村風 里風 山霧
南遣艦隊
旗艦
鳥海
付属
由良
第九戦隊第一小隊
八雲 伊吹
第三航空戦隊
龍驤
第七航空戦隊
阿蘇 生駒
第二〇駆逐隊
夕霧 朝霧 白雲 天霧
第三水雷戦隊
川内
第一一駆逐隊
駆逐艦初雪 白雪 吹雪
第一九駆逐隊
磯波
以上の艦隊だった。第二機動部隊はセイロン島攻撃及び英東洋艦隊の撃滅で南遣艦隊はベンガル湾での通商破壊及びチッタゴン等航空基地の破壊であった。第二機動部隊には精鋭の二航戦が派遣され航空戦力は飛躍的に伸びた。
「フィリップスが居ようと関係無い。徹底的に叩け!!」
「任せてください」
フィリップスの生存は将和も知っていた。内心では安堵しつつも今は敵である事を再認識せざるを得ない。そして作戦は開始されたのである。
3月26日、スラウェシ島南東岸スターリング湾から出撃した第二機動部隊は史実の第一航空艦隊の航路をなぞるようにオンバイ海峡を通過、ジャワ島の南方からインド洋に入ったのである。
一方、英東洋艦隊司令長官のフィリップス大将は迎撃準備を整えつつあった。
「チッタゴン等航空基地には戦闘機ハリケーンを中心に120機近くを配備。セイロン島にも約90機近くが配備されています」
「足りん。圧倒的に足りんな」
参謀からの報告にフィリップスは首を横に振りそう告げた。
「は、ですがチャーチル首相は出来る限りの事をさたと……」
「……クソッタレェ!!」
フィリップスは参謀の言葉に持っていた紅茶入りのカップを床に叩きつけた。カップは四散し辺りにいた参謀達は息を潜めた。
「……首相は何も分かっていない。マサカズが、マサカズが育てた航空隊がどれ程の精鋭なのかを……」
フィリップスはそう言って嘆いた。彼の思案ではチッタゴン等周辺に戦闘機300機、セイロン島に戦闘機200機は必要だと思っていた。しかし、現実はそれ以下にしか満たない補充率であった。その代わりに対空火器は増強されていた。
「……艦隊はアッヅ環礁へ退避させて戦力の温存を図る」
「まさか長官、セイロン島を囮に……」
「そうだ。マサカズがセイロン島に食い付いている間に側面から叩き込む。それしかない!!」
正面からでは到底勝てない、フィリップスはそう判断していた。
「索敵を絶やすな!! マサカズはそこまで来ている筈だ」
フィリップスはそう指示を出した。しかし偵察機に発見されないままの4月5日、第二機動部隊はコロンボ南方200海里に進出した。
「第一次攻撃隊発艦せよ!!」
六隻の空母の飛行甲板に並べられた第一次攻撃隊(零戦45機 九九式艦爆54機 九七式艦攻72機)は一斉にプロペラを回し始めた。
「チョーク外せェ!!」
空母蒼龍の飛行甲板では九七式艦攻が腹に250キロ爆弾二発を搭載して操縦席では将弘がチョークを外すよう指示を出していた。そうしているうちに将弘の番が来てフットブレーキを離して蒼龍から発艦したのである。
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