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第五十九話





 九試単戦の飛行がうまくやりつつの1935年だが、外の世界では揺れ動いていた。時間の針を少し戻して前年の1934年7月、アメリカにて排日移民法が施行されたのである。

 史実では1924年に施行されていたが北樺太の所有、シベリアへの移民、将和の具申等々で移民はバラけており法案は議会には上がる寸前だったが直前で有耶無耶にはなっていた。しかし、アメリカへ移民する日本人、その子らの日系人が増えてきた事でアメリカが警戒レベルを上げてしまい特に反東洋系色の強いカリフォルニア州では連日に渡り排日運動が行われ、これに押し付けられたルーズベルトの手により史実より遅い形で排日移民法が施行されたのである。


『日本人は日本へ帰れ』

『元居るアメリカ人へ職を取り戻そう』


 更にはアメリカメディアも移民法の賛成し新聞の一面にて日系人へのバッシングを行いアメリカ市民も日系人への暴行や日系人の店の破壊活動をするなどの行いが出ていた。しかもその報道や写真等が日本に流れて勿論市民達は激怒した。


「アメリカの横暴を許すな!!」

「人種差別をするアメリカなんぞ滅びてしまえ!!」

「そうだそうだ!!」


 そしてそれに乗っかろうとする政党もいる。


「市民が反米に燃えていますな」

「うむ、アメリカに強い姿勢見せないと次の選挙での投票をしてもらえない可能性が大いにありますな」


 また、政財界でも思惑があった。


「アメリカの商品の流入止めて国内やアジア市場で強くなりたい」

「確かに。軍需増えたら儲かるものだな……(右翼煽るのも手だな)」


 まるでドミノ倒しのように次々と連鎖が起きてしまい、右翼による連日に渡る活動が繰り広げられる。


「米国と断交せよ!!」

「米国で不当な制裁を受けている日本人を助けるのだ!!」


 そして止めは議会である。議会は議会で来年1935年に行われる予定の第二次ロンドン軍縮会議で大忙しだったのだ。


「これは軍縮に強い姿勢見せないと……」

「左様。此処で緩めたらアメリカに懐柔された事になります」

「軍縮脱退求めるべき。日本の国家と国民の生存権を確かなものにするため軍拡すべきである」


 一連の出来事に将和らは頭を悩ませていた。


「折角上手くしていたのに……」

「相沢事件も永田が死ななかったから何とかやれると思ったのだが……」


 東條は溜め息をついた。同年8月に発生した相沢事件は相沢中佐が史実通りに軍務局長室に乱入したが待ち構えていた憲兵隊により逮捕されていた。


「三好君……」

「……やむを得ません」


 将和は一息つくためにお茶を啜る。


「……軍縮は史実通りに脱退の方向に行きましょう」


 それは何れ起こる戦いを覚悟している事だった。自宅に戻る将和は何も言わずに夕夏の部屋に訪れて夕夏を抱きしめる。


「ちょっと暫くこのままで……」

「はいはい♪タチアナもいますからね」


 然り気無く夕夏の部屋の前で待機しているタチアナにも促す夕夏である。ちなみに子どもの事はあまり書かれていなかったが(名前とか考えていたんだよ……)、夕夏には将弘(1917生まれ) 将治(1919生まれ) 紫(1921年生まれ) 藍(1928年生まれ)和佳(1933年生まれ)の三男二女がおりタチアナにはレティ(1925年生まれ) ライサ(1929年生まれ) 将宗(1934年生まれ)の一男二女が生まれていた。なお、夕夏は死んだ事になっているのは前に言っていると思うが戸籍上はという形になっており夕夏が外に出る時は風見夕華という名前になっている。

 また、夕夏は元看護婦という事もあり看護学校の教員として活躍もしている。生まれた子ども達も二人を母と思っておりそれぞれの仲も良好である。まぁこの後にシャーリーともう一人が加わる予定だが今は些細な事である。


「よし、夕夏分の補給完了。よーし、次はタチアナ分な」

「何よそれ……」


 そう文句を言いながらも将和に抱きついて将和の頭を撫でるタチアナだった。

 それはさておき同年9月、岩手県東方沖250海里付近において演習をしていた第四艦隊の艦艇が台風による被った大規模海難事故が発生した。『第四艦隊事件』である。前年の1934年に発生した千鳥型水雷艇三番艦友鶴の転覆事故の『友鶴事件』と共にこの事件は後の海軍艦艇の設計に大きな影響を与えるのである。

 そして同年12月9日、イギリスのロンドンにて日・米・英・仏・伊の第二次ロンドン海軍軍縮会議が開かれた。

 しかし、予備交渉の段階でも不調であり先の排日移民法の事もあり日本は史実通りの1934年12月の段階にてワシントン海軍軍縮条約の条約破棄を通告しており1936年1月15日に本会議を脱退するのである。なお、イタリアもエチオピア侵略のために史実通りの脱退をしている。

 これにより最終的には米・英・仏のみで1936年3月25日に第二次ロンドン海軍軍縮条約が締結されるのである。


「……無力だなぁ……」


 軍縮脱退を報じる新聞を見つつ一人で自室にてシベリア産のウォッカをロックで飲む将和はそう呟く。


「……けど、やるしかないんだよな……」


 将和は残りのウォッカをグイッと飲み干し、ぷはぁっと息を吐く。


「やるしかないんだよな……」


 これ以降、海軍は急速に軍拡の道を辿る事になる。

 1月20日、将和の自宅に二人の者が訪ねてきた。


「夕夏の知り合いが来客?」

「は、如何なさいますか?」


 護衛の陸戦隊兵の言葉に将和は首を傾げる。夕夏の知り合いは複数いるが世間的に夕夏は死んだ事になっているので将和の自宅に訪れる者はいなかった。


「追い返しますか?」

「いや、会おう。シャーリー、客間に通してくれ。お茶三つね」

「了解だよ」

(こういう時に限って夕夏は学校の授業だしなぁ……まぁ仕方ないか)





「御待たせしました」

「いやぁ突然訪ねて来て悪いねぇ」


 将和が客間に入ると老婆と若い女性が座っていた。若い女性はシェリル程(今は16歳)ではないだろうか。


「いえ、構いませんよ。夕夏の知り合いとお聞きしたのですが?」

「そうさねぇ。私は夕夏の薙刀を教えた者だよ」

「夕夏の? 確かに夕夏から薙刀は剣道場で習ったと……」

「あぁ、その師範だよ。元だがね」

(成る程、夕夏の師範か。しかし、何故その師範が今頃此処に……)


 将和の表情を見て将和の心が分かったのか、老婆はニヤリと笑う。


「まどろっこしいのは嫌いなもんでね、先に言うよ……………生きているんでしょ夕夏?」

「!?」


 老婆の言葉に将和は心臓が鷲掴みされた感触を感じた。


(な、何でそれを……)

「ククク、顔に出やすいねぇあんた」

「お婆様」


 驚愕の表情を浮かべる将和を見て老婆は笑うが若い女性は老婆を嗜める。


「あ、貴女は一体「あら、師範じゃないの」」


 そこへ授業が終わった夕夏が帰宅して客間の扉を開いたのである。


「久しぶりだね夕夏。腕は落ちとらんね?」

「勿論ですよ師範。美鈴ちゃんも元気そうね」

「はい、お久しぶりです夕夏さん」


 急に挨拶をして花を咲かす三人に将和はついていけなかった。


「こら夕夏。旦那さんが話についていけないよ」

「あらごめんなさい貴方」

「あ、あぁ。何がどうなっているのか分からんが……とりあえず夕夏の師範とは分かった」

「元師範の神野早苗だよ。それで此方は孫の神野美鈴だ」

「神野美鈴です」

「これはどうも」

「それで師範、用は何ですか?」

「簡単な事だよ。あんたの家を護衛しようと思ってね」

「護衛?」

「そうさ。あんたの家、もう二回も襲撃されているだろ? 陸戦隊もいるけど私と美鈴もいたら良いじゃないか。百人力だよ」

「あの、民間人には……」

「あら、良いわねそれ」

「夕夏!?」

「大丈夫。二人の腕は保証するわよ」

「そうじゃなくてだな……」

「それで師範。本当は何ですか?」

「……」


 夕夏の言葉に目をそらす早苗。代わりに口を開いたのは美鈴だった。


「実は父の借金で剣道場と家を取られたのが原因です」

「……あの親父さん、まだ直してなかったのね」

「父は蒸発して行方知らず。母は病で亡くなりやむを得なく剣道場と家をというわけです」

「でも護衛は本当じゃよ」

「……貴方……」

「……分かったよ、分かりました。部屋は用意しますので(シャーリーやシェリルの例があるから仕方ないな……はぁ、頭が痛くなる……)」


 とりあえず二人を受け入れる将和だった。


「ちなみに夕夏の生存を何処で聞きました?」

「フフフ、風の噂じゃな」

(……油断ならんなこの婆さん……)





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