第五十六話
とりあえず、第二次ロンドンのが纏まってきたので投稿。(まだ第二次ロンドンいかないけど)
「え? シャーリー達を拘束した?」
将和がその報告を聞いたのは大分県に新設、建設中である大神海軍工廠の視察を終えて自宅に帰る途中だった。大神海軍工廠は史実では25ヘクタールの広大な土地を買収して建設予定だったが後に台湾の高雄に変更されたがこの世界では開戦前の1931年に工廠の建設が決定されたのだ。
大神工廠は船台1船渠2の工廠であるが後に規模は拡大されるのである。それは兎も角、将和は事情を知るために急いで帰宅をするのである。
「済まんが少し急いでくれ」
「分かりました」
将和は車を走らせる。それを見守る集団があったがそれに気付く事はなかった。自宅に到着した将和は警備隊に挨拶をしつつ応接間の扉を開けると夕夏やシャーリー達がいた。
「やぁシャーリー。久しぶりだね」
「ア,ハイ」
将和が笑顔で挨拶をするがシャーリーは表情がぎこちなかった。
「それで……状況は?」
「つまりね……」
将和の問いに夕夏は詳しく説明をする。説明を聞き終えた将和は溜め息を吐いた。
「……確かにあの大戦の時に記念撮影はしてたな」
「まさかそこからバレるとは思わなかったわね」
夕夏はそう言って肩を竦める。一方でシャーリー達は今後がどうなるのか不安だった。
「ま、まさか秘密裏に殺されるんじゃ……」
シャーリーは思わずそう呟くがそれを聞いたタチアナは首を横に振る。
「それは無いわ。ただユーカの存在を貴女達が知ってしまっただけよ」
タチアナはそう言う。なお、その夕夏は紅茶を各自に注いでいた。
「ぜ、絶対に喋りません!!」
「私達がはい、そうですかと納得しても政府は信用しないと思うわよ」
「うっ……」
確かに二か国が隠し事をしていたのをバレた瞬間でもある。だが夕夏は微笑んだ。
「だからね、いっその事「何者だ!!」ん?」
その時、邸の外で叫び声が聞こえた。恐らくは門にいた警備隊であろう。だが並々ならぬ事を察したのか、将和は陸軍から特別に貸与してもらった八九式鉄兜と略帽(ww1で欧州に参加して鉄兜の重要性を認識しており史実より早い制式採用された)を被り私物で購入したブローニングM1910の安全装置を外した。
「隠れて――」
その時、ドンと音がした。
「伏せろ!!」
将和は近くにいたシャーリーとシェリルを抱きしめ床に押し倒した。夕夏もタチアナ、セシルを抱きしめて床に押し倒している。更にもう一発の音がした。幸い、ガラスは割れなかった。
「大丈夫か?」
「「は、はい……」」
思わず抱きしめられたシャーリーとシェリルは顔を赤くしながらも頷いた。
「夕夏!!」
「子ども達は任せて!!」
将和の叫びに夕夏は薙刀を持ち急いで子ども達がいる部屋に走る。
「皆は此処にいろ!!」
「分かった!!」
将和は部屋を出て廊下を駆け出した。その頃、正門では陸戦隊と謎の集団と銃撃戦をしていた。
「クソ!! 右翼の襲撃だ!!」
「中に入れるな!!」
初手で警備していた陸戦隊は手榴弾二発を投げ込まれ、数人が負傷していたが直ぐに態勢を立て直して抜刀して将和の自宅に入り込もうとする右翼団体に銃撃をしていた。
「退け!! 三好将和に天誅を加える!!」
「そうだ!! 国賊三好に天誅だ!!」
「小隊長!!」
「撃ちまくれ!! 奴等を通すな!!」
陸戦隊は三十五年式海軍銃で射撃をして右翼団体を撃退した。そこへ将和も駆けつけた。
「大丈夫か!?」
「三好少将!? 頭を下げてください」
小隊長は驚きつつも将和と物陰に隠れる。
「どんな具合だ?」
「撃退したところです。今から両方の負傷者を救護するところです」
「分かった。それと襲撃してきたのは分かったのか?」
「まだです。しかし、向こうの負傷者もいるので尋問ですな」
「そうか」
程なくして事件の一報を聞き付けた警察、憲兵が慌ただしく到着した。海軍も横須賀の陸戦隊を更に一個小隊を将和の自宅に派遣してきた。
捕縛した右翼団体の負傷者を尋問した結果、右翼団体の後ろには複数の国家主義者達がいる事が判明、直ちに捕縛された。後にこの事件は第一次三好将和暗殺未遂事件と呼ばれる。何故第一次か? それは再び暗殺未遂事件が発生するからである。
「ふぅ、終わったか」
「お疲れ様、はい貴方」
深夜にまで現場検証が行われ、漸く解放された将和は深く息を吐いた。そこへ夕夏が一杯のお茶を差し出す。
「ありがとう夕夏」
将和はお茶を一口啜る。温かいお茶が将和の胃に安らぎを与える。
「貴方、シャーリー達の事なんだけど……」
「ん?」
「此処に住まわせましょう」
「ぶっ」
夕夏の言葉にお茶を啜っていた将和が思わず吐く。夕夏は手慣れた手つきでテーブルを拭く。
「……本気か?」
「えぇ、秘密を知られたんですもの。それともシャーリー達をスパイ行為で検挙して絞首刑でもするのかしら?」
夕夏の言葉に将和は流石にそれは無理だろうと思っている。アメリカにでも返してしまえば政府の接触があるかもしれない、その過程で夕夏の存在がバレたら一大スキャンダルだろう。
「……分かった。夕夏の言う通りにしよう」
「ありがとうね(さて、準備でもしておこうかしら)」
内心、夕夏は準備しつつ翌朝、シャーリー達に将和との出来事を話す。
「軟禁ですか?」
「軟禁というより日本国籍取得して永住ね」
(あんまり変わらないような……)
セシルはそう思いつつも、二人(シェリルは幼いので判断はシャーリー任せ)は夕夏の提案に承諾した。シャーリーも悩んだが自分が夕夏の秘密を暴いてしまったので受け入れる事にした。なお、悩んでいる時に夕夏の「自伝本を出す時には貴女に協力したい」と甘い蜜を差し出して受け入れたのは断じて無いとは思いたい。
それは兎も角、その日から将和の邸にメイドが三人増えたのは間違いない。
「お、おかえりなさいませご主人様」
「おかえりなさいませご主人様」
「おかえりなさいご主人様」
「………ア,ハイ(メイド服、いつのまに購入したんや……)」
将和は考えるのをやめた。三人は夕夏にしごかれながらも働き、将和とフラグが建っていたシャーリーは後の第二次三好暗殺未遂を期に第二の愛人枠に収まる事になる。
そして1931年六月二七日、中村大尉事件発生。日本政府は蒋介石の国民党政府に強い抗議をして国民党政府は調査をしたが日本の陰謀であると主張し始める。この主張により日本政府は日本人の安全を図るため関東州からの出禁を厳命した。
「石原達が三好少将が言う史実の満州事変を起こそうとしている」
密かに集まった陸軍だけの会合で関東軍高級参謀に就任していた板垣征四郎大佐がそう報告する。板垣は東條らに頼まれて石原達と接触してスパイ活動をしていたのだ。
「満州事変だけは起こしてはならん」
「うむ。三好少将の負担は少しでも軽くせねば……」
そう易々と将和と接触は出来ない陸軍だが将和から史実を書き記した『三好ノート』を元に兵器開発を勤しんでいた。
「兎も角、石原達の動向を注視する。良いな?」
東條の言葉に板垣達は頷いた。しかし、九月一日に状況は一変と変わる。関東軍に当時駐屯していた第二師団に所属する一個歩兵連隊が国境線付近の普蘭店で夜間演習中に突如、数発の銃声が鳴り響いたのである。
「直ちに演習を中止、人員掌握に努めろ」
連隊長はそう指示を出すが数分後の報告に驚愕する。
「兵一名が撃たれ重傷!? 撃たれた方角は奉天軍方面だと!?」
この報告は石原中佐は直ぐに赴任したばかりの本庄繁中将に作戦決行を具申した。
「最早一刻の猶予はありません総司令官。直ちに攻撃許可を」
「待て石原。この作戦は奇襲でなければならん。これでは強襲ではないか!!」
板垣は石原らを押さえようとするが本庄が石原の案を了承、直ちに作戦が開始された。
(東條さん、三好少将……済まない……)
板垣は内心、二人らに謝るのである。そして九月二日、関東軍は越境し奉天軍に攻撃を開始したのである。後に満州事変と名付けられる事変であった。
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