第五十三話
遅かった理由?伊26がね出なかったんですよ。あとは察してください(メソラシ
前話は消しました
「暗黒の木曜日」ことウォール街大暴落は1929年10月24日の木曜日に起こった。なお、壊滅的な下落は28日(月)と29日(火)に起こりアメリカと世界に広がる前例の無い、更には長期に渡る経済不況の警鐘と始まりに展開したのである。
「始まったか……」
朝刊の新聞を読みつつ将和はそう呟いた。日本としては昭和金融恐慌中であるので恐慌の波が日本に来てほしくはないが結局は波を受けてしまうので被害を最小限に留める事にしていた。
昭和金融恐慌での被害回避としては貨幣増刷で対応、台湾銀行が鈴木商店が出している震災手形の購入回避、史実では倒産した鈴木商店は和議法の適用と臨時立法による鈴木商店の一時的な国有をもって混乱の収拾を付けた。
その後鈴木商店は国有化の後、財閥や政商に売り払う事でそれぞれの部門を適当な各企業に売却して終わりだった。
和議法による破綻を終えたあとは、臨時立法での国有化という措置を取って沈静化を図るのであった。そしての世界恐慌である。原内閣の浜口雄幸大蔵大臣は第一次大戦以来の金解禁をしようとしたが原の説得により金解禁は断念した。
この断念は日本の金流出を大いに防げたと後の歴史家は告げている。
また、生糸の輸出が急激に落ち込んだがシベリア帝政国や満州に輸出をシフトした事で以前に比べたら収入は落ちていたが史実よりかは何とかマシであった。なお、イギリスが1931年9月21日に金本位制の放棄したのに習って日本も同年同月25日に金本位制を放棄した。
更に原内閣は公共事業の拡大と、各工業への振興予算や補助金の増額を行う事もしていた。加えて、時限立法で最低賃金法と、週48時間労働を義務付けた上で、残業に関しては25パーセント割り増しの賃金を支払う等も法律で制定された。
ここら辺は将和の入れ知恵である。これなどにより、史実よりかは被害を抑える事に成功した。1935年まで続く東北地方の冷害・凶作は史実より早くに完成した水稲農林一号、小麦農林十号を投入した事で農村は疲弊する事も無く、史実のように娘を売る身売りや欠食児童は殆んど見られる事はなかったのであった。
また、日本は世界恐慌で多数の工場が閉じたアメリカの各地に足を運び閉じた工場の中に仕舞われていた工作機械類を大量に購入して日本に運び込んでいく。国の工場は元より民間の工場も格安で売却して民間工場の力を向上させる一役を買う事になる。
なお、この工作機械類の大量購入により後の大東亜戦争で生産する兵器は大いに活躍する。
そんな感じの日本だが、将和を見るには時の針を世界恐慌の最中である1930年1月まで戻さなければならない。
「久しぶりのイギリスか」
将和はロンドン海軍軍縮会議のために政府代表団の海軍顧問の一員として参加していた。なお、首席全権は原総理が参加していた。
「リアアドミラルミヨシ!! 久しぶりのイギリスの地を踏んだ気持ちは!!」
「前回来た時より風景が変わってなくて良かった。変わっていたら迷子になりそうだったよ」
「リアアドミラルミヨシ!! 今回の軍縮の気持ちを一つ!!」
「リアアドミラルミヨシ!!」
「リアアドミラルミヨシ!!」
「リアアドミラルミヨシ!!」
外国の記者達に囲まれた将和は出来る限りの取材に答えるが時間が来たのでその場を離れようとする。その時、将和の視界に一人の子どもに二人の女性が映ったのである。
「えぇッ!? シェリーさんが亡くなった!?」
「あぁ、そうだ」
シャーリー・ウィルソンは助手のセシル・マフタンと共に本家の家があるメードストンのとある通りの家でシェリーの弟であるダグラス・ウィルソンと話をしていた。
「シェリルのために働いていたが過労でそのまま……な」
「そんな……じゃあシェリルは?」
「……儂のところも子が多くて更に子が増えるのは良しとしない」
ダグラスの言葉は遠回しにシェリルを孤児院に入れると告げていた。ダグラスの言葉にシャーリーはお人好しの属性を発動させた。
「……それならシェリルは私が引き取ります」
「おぉ、君が引き取るならシェリルも喜ぶだろう。引き取りの事は儂が手筈をしておこう」
ダグラスはそう言って笑うがダグラスの目は笑ってはいなかった。
『子を引き取るなら遺産には手を出すな』
シャーリーにはそのように聞こえた。しかも微妙に手際も良い。初めからダグラスに仕組まれていたかもしれないがシャーリー自身は遺産争いに巻き込まれたくないのが本音だったので好都合かもしれない。
「そうですね。シェリルも喜びます」
引き取りの手筈をダグラスに任せたシャーリーはセシルと遊んでいたシェリルのところに向かう。
「シャーリーお姉ちゃん……」
シャーリーに気付いたシェリルがシャーリーに抱きつく。シャーリーは膝を地面につけてシェリルが抱きやすいようにする。
「シェリル。叔母さんが亡くなったのは私も辛いわ」
「うん……」
「そこでなんだけど、私達と暮らさない?」
「お姉ちゃん達と? でも私……」
「良いよ。二人が三人なるだけだよ」
「蓄えはあるしね」
「……うん、ありがとうお姉ちゃん」
二人の言葉にシェリルは涙を流しながら頷いた。こうしてシェリルはシャーリーに引き取られる事になる。なお、遺産に関してシャーリーはその権利を放棄している。この出来事は将和らが到着する五日前の事であった。
そしてシャーリー達三人は将和らが到着する当日、港にいた。
「ヒヒヒ、まさかミヨシが来るなんて思ってなかった……これはインタビューのチャ~ンス……」
「セシルお姉ちゃん、シャーリーお姉ちゃん怖い……」
「大丈夫大丈夫。ちょっと興奮してるだけだからねぇ」
顔が尋常じゃないシャーリーに怯えるシェリルにセシルはそう言う。そして船が到着するとシャーリーは走り出す。
「charge!! ほら、行くわよ二人とも!!」
「はぁ……、ゆっくり行こうかシェリル」
「うん」
走り出すシャーリーを他所に歩く二人であった。
「ちょっと退きなさいよ!!」
「五月蝿いぞ!!」
「リアアドミラルミヨシ!! 一言を!!」
シャーリーは記者達の波に揉まれながら将和らに近づこうとするが記者達に阻まれて将和の近くまで行く事が出来ない。
「こんのぉぉぉぉぉ!!」
シャーリーは力ずくで将和の元に近づくが、代表団は用意されていた馬車に乗り込もうとしていた。
「ヤバ……リアアドミラルミヨシ!!」
咄嗟にシャーリーは叫んだ。その声は将和の元にも届いて思わず振り返った。
「……?」
「三好、早く行くぞ」
「あ、あぁ。すぐに行き――」
将和をサポートするために渡英した長谷川に促されて乗り込もうとした時、シャーリーは再び叫んだ。
「あの、ラッセル・ウィルソンを知っていますか!?」
シャーリーの言葉に将和は動きを止めて振り返った。
「ラッセルだと……?」
将和はシャーリーをまじまじと見た後にシャーリーにこう告げた。
「(そうか……記者か……)……わかった。取材を受けよう。だが今は時間がない。後で日本使節団のところに来たまえ」
「三好!!」
「すぐ行くって!!……君の名前は?」
「シャーリー……シャーリー・ウィルソンです!」
「良かろう。ではシャーリー、また後で。あと、来る時に後ろで君を待っているお嬢さん達も一緒に通してあげるようにしておくから、連れて来たまえ。それでは」
将和はそう言って馬車に乗り込みその場を後にした。
「相変わらず若い女性には甘いな」
「あの子は違う」
「じゃあなんだ?」
「……あの子は私の古い戦友の家族だろう」
隣に座る長谷川に将和は言う。
「ラッセルか……今は何をしているんだろうなぁ」
将和はそう言うのであった。そしてシャーリーはと言うと……。
「……ヒヤッホォォォウ!! 単独インタビューだぜぇぇぇぇ!!」
「……どうしたのお姉ちゃん?」
「まぁ良いことがあったのよ」
大喜びをするシャーリーを横目にセシルはシェリルにそう言うのであった。
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