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第五十話

お待たせしました





「総理、不干渉政策は駄目ですか?」

「無理だね幣原君。アメリカもイギリスも蒋介石に怒っているよ」


 総理官邸で原は外務大臣である幣原喜重郎にそう告げる。


「今回の中国はやり過ぎだね」

「しかし……」

「軍を派遣するのも君が主張する協調外交の一貫だよ? これ以上、何があるのかね?」

「………」


 原の言葉に幣原は何も言えなかった。


(悪いがね幣原君。今回のは不干渉政策は到底出来まいよ……)


 原は内心にてそう呟いた。将和から南京事件の事を聞いていた原は史実のような対策は取らずイギリスからの出兵に応じるのである。原から軍の派遣を要請された陸海軍は直ちに編成を行った。

 派遣軍で陸軍は第二、第六、第九、第十一師団の四個師団、四個野戦重砲連隊、四個戦車中隊(一個中隊十二両)である。

 海軍は戦艦は扶桑、山城。空母鳳翔。装甲巡洋艦八雲、出雲、磐手。軽巡長良、五十鈴、天龍、龍田。駆逐艦十六隻の派遣が決定されたのである。


「気を付けてね?」

「あぁ。勿論だ」


 将和は出掛ける寸前の玄関にて夕夏とタチアナにキスをして皆に見送られながら横須賀に向かうのである。日本軍の派遣に呼応するように米軍と英軍もそれぞれ一個旅団をシンガポール、フィリピンから派遣したが彼等が到着する前に尖端が開くのである。


「艦長!! 国民革命軍からの砲撃です!!」

「くそ!! 正当防衛で撃ち返す!! しっかり記録しておけ!!」

「はい!!」


 四月十日、揚子江にいた第二四駆逐隊の駆逐艦柳は突如砲撃を受けた。相手は岸にいた国民革命軍である。


「弱い日本軍等蹴散らしてしまえ!!」


 先の事件の際、日本軍が無抵抗だった事に味を締めた彼等は揚子江に停泊している第二四駆逐隊に向けて野砲で砲撃してしまう。しかし野砲はたかが75ミリクラスで駆逐艦柳の主砲は12サンチ砲である。


「撃ちぃ方始めェ!!」


 12サンチ砲の他に対空機銃で搭載されていた6.5ミリ機銃二挺も射撃を開始して瞬く間に国民革命軍を蹴散らしてしまうのであった。


「おのれ日本軍め!! 反撃だ、やり返せ!!」


 報告を受けた江右軍総指揮の程潜は直ちに反撃を命令。砲兵部隊と第二四駆逐隊が互いに砲撃し合うという珍事が発生する。更に騒ぎを聞き付けた英海軍の練習艦ヴィンディクティヴと米海軍のクレムソン級駆逐艦ノアも第二四駆逐隊に協力して艦砲射撃を開始する。かの国にも襲撃で死者は出ており仇討ちのようである。


「何? 第二四駆逐隊が?」

「はい、正当防衛を元に砲撃しているとの事です」


 上海に停泊していた第一遣外艦隊司令官荒巻二郎少将は第二四駆逐隊からの報告に驚く事はなく指示を出す。


「保津、安宅、勢多の三隻を向かわせろ。米英軍と協力して遣支艦隊到着まで粘れと伝えろ」

「はっ!!」


 直ちに上海から三隻の砲艦が南京に向かうのであった。そして東シナ海を航行していた遣支艦隊は第一遣外艦隊からの報告を受け取っていた。


「一航戦の三好大佐を向かわせる」

「成る程。鳳翔の上空援護ですね」


 遣支艦隊司令長官谷口尚真中将の言葉に参謀達は妙案とばかりに頷いた。


「空母鳳翔に発光信号。軽巡天龍、龍田、駆逐艦四隻を率いて先行せよ。航空戦の指揮は任せる」

「航空戦の指揮も任せるのですか?」

「我が海軍で一番航空戦に精通しているのは彼だよ」


 参謀の言葉に谷口中将はそう告げた。発光信号を解読した空母鳳翔は護衛艦艇を率いて増速する。


「さぁて鳳翔の初実戦だ。お前ら、褌締めて気を引き締めろよ!!」

『はい!!』


 将和はそう訓示する。翌日、攻撃圏内に入った鳳翔は飛行甲板に攻撃隊を上げていたがそこへ一通の電文が届いた。


「攻撃は一時中止だと!? どういう事だ!!」

「は、それが……」


 将和に睨まれた通信兵は怯えながら将和に通信紙を渡す。文面を一目した将和は唖然とした。


「ま、満鉄の線路が爆破されて死傷者続出!? そして奉天軍と関東軍が衝突しているだと!?」


 それは予想しえなかった事であった。四月九日の夜半、満州の奉天近郊の柳条湖りゅうじょうこ付近で、日本の所有する南満州鉄道(満鉄)の線路が爆破されたのだ。しかもその後通過しようとした列車が横転、死傷者多数だった。


「満鉄の線路が爆破されて列車横転、死傷者多数!? 直ちに救援と調査だ!!」


 関東軍司令官の武藤信義大将は歩兵一個大隊を派遣して救援と調査を命じた。しかし、現場へ早くに到着したのは張学良率いる奉天軍だった。しかし奉天軍は爆破された現場への立ち入りを禁止した。


「余所者になんぞ調査させてたまるか」


 現場への立ち入り禁止に関東軍は北京にいる張作霖に猛抗議した。


「今、日本を刺激するわけにはいかない」


 張作霖はそう判断して合同調査をするために自身と日本も調査のため北京大使館から派遣された一等書記官と共に北京から列車で奉天入りをするのである……がそこでも事件は起きた。


「何!? 張作霖が乗った列車が爆破されただと!!」


 奉天へ向かっていた張作霖と一等書記官の列車が爆破され横転。張作霖と一等書記官は爆死してしまうのである。更に柳条湖でも一発の銃声が鳴り響いた。


「銃声!?」

「歩哨中の兵一名が撃たれ重傷です!!」

「奉天軍の仕業か!?」

「迎撃態勢を整えろ!! 発砲はまだするな!!」


 そして張学良の奉天軍も戦闘態勢を整えていた。


「父が死んだだと!? 日本軍の仕業か!!」

「しかし、日本も一等書記官が爆破を……」

「父と一等書記官の重みをどっちが重いと思う? 直ちに攻撃だ!!」


 そこからはなし崩し的だった。柳条湖付近の線路で関東軍歩兵一個大隊と奉天軍一個旅団が衝突したのである。兵力の差では関東軍が不利だったので大隊長判断で後退した。

 張学良はこれに味をしめて新たに五万の兵力を率いてそのまま関東州へ侵攻したのである。

 関東軍からの急報を受けた陸軍は南京へ派遣途中だった一個師団、一個野戦重砲連隊、一個戦車中隊を関東軍の増援としたのである。空母鳳翔の攻撃一時中止は鳳翔も関東州に派遣するか検討するためだったが谷口はそのままとし攻撃隊発艦を下命した。


「くそ、何で奉天軍が攻めて来るんだよ……」


 『帽振れ』で攻撃隊を見送った将和はボソッとそう呟くのである。

 対して関東軍の兵力は一個師団に一個戦車中隊、一個航空隊に過ぎなかった。関東軍は頼みの綱を一個戦車中隊に賭けていた。


「戦車は新型の八六式だ。野砲代わりにして時間稼ぎだな」


 戦車中隊を率いる牟田口少佐は普蘭店の防衛線にてそう呟いた。彼等がいる防衛線本部から数キロ先には奉天軍と関東軍が衝突している。


「偵察に出した第二小隊は何と?」

「敵は一個師団以上との事です。このままでは前線部隊が壊滅する恐れがあります」

「地雷原があれば良かったが……仕方ない。全車両前進する。二個歩兵中隊は戦車中隊の後方から」


 甘粕大尉からの報告に牟田口の戦車中隊は前進を開始する。一方、前線では歩兵中隊が獅子奮迅の活躍をしていた。


「くそ!! 倒しても倒しても湧き出てくるぞ!!」

「叫んでいる暇があるなら撃て!! 死にたいのか!!」

「誰か弾をくれ!!」


 彼等は懸命に戦うが数の差が違い出した。


「連隊本部に伝えろ、このままでは全滅する。増援を頼むと」

「了解!!」


 中隊長の言葉に伝令の兵士が走り出すが直ぐに戻ってきた。


「増援です中隊長殿!!」

「何!?」


 中隊長が後方を振り返ると牟田口少佐の戦車中隊が到着しようとしていた。


「おぉ、戦車隊か。こいつは心強い」


 戦車中隊の到着に中隊長は頬を緩ませる。


「第二小隊は左翼、第三小隊は右翼に展開!! 弾種榴弾!!」


 歩兵中隊の塹壕に到着すると三十口径五七ミリ戦車砲がゆっくりと動いて奉天軍に照準を合わせる。


「撃ェ!!」


 五七ミリで七五ミリには劣るがそれでも歩兵には十分な脅威であった。奉天軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのである。


「追撃はするな。敵の再反攻に備えるぞ」


 牟田口はそう指示を出す。


「……増援が来ないと破られるな……」




 一方、柳条湖事件、張作霖爆殺、関東州が攻撃を受けた事で原は中華民国からの宣戦布告と判断していた。


「これは中華民国の宣戦布告だ」


 原は軍に更なる増援の準備を指示した。しかし原は続けた。


「確かに宣戦布告に値する行為だが一時的な暴発の可能性も否定は出来ない。そこで米英を仲介に奉天軍と和平の案もある」

「米英が応じますかね?」

「満州の市場を餌にしたら食いつくはず。いや食いつく」


 原はそう言う。


「兎も角、戦線に何かあれば和平だろう」

「ですが今、張作霖を殺す事で誰にメリットがあるのでしょうか……?」

「……分からない……」


 そして南京では幾つもの軍事施設が炎上していた。爆撃による炎上であった。


「よし、全機帰還だ」


 一三式艦上攻撃機の機上から戦果を確認した小沢は列機を率いて鳳翔へ帰還する。


「野砲陣地は五ヶ所ほど叩きました。攻撃隊への反撃はあまり無い具合です」

「うむ。だが油断はするな」

「はっ。では失礼します」


 将和に敬礼をして小沢は艦橋から退出する。


「航空攻撃で陣地はある程度は叩いた。これなら作戦もやりやすいだろう」


 将和は航空写真と戦果からそう判断した。南京攻略は上海方面から行う事になった。米英軍の二個旅団が上海に到着したので無理な作戦はせずに揚子江から駆逐艦等の艦砲射撃で注意を引き付けようとしていた。


「さて、どうなるかな……」


 将和はそう呟いた。そして四月二五日、南京攻略作戦が開始されたのである。





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