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第四十九話




 1925年四月、将和は軽巡五十鈴艦長から霞ヶ浦航空隊副長に異動となった。将和が退艦する日は五十鈴の全乗員が涙を流しながら将和を見送るのである。

 将和は艦長として飴と鞭を上手に使い分けていたのが功を成していた。訓練する時は勿論厳しく接していたが自戒外となれば古参兵らと一緒に酒を飲んだり配属されたばかりの新兵にはお菓子をあげていたりしていた。彼等も将和の事を「親父」と呼んだりする事もあったが将和は「まだそこまでの年齢じゃない」と笑いながら言い返したりする。

 後に将和は「五十鈴は思い出深い艦の一つ」と言うほどだった。


「しかし副長か……この時の副長ってあいつじゃないか……?」


 移動する汽車の中で将和は一人の男を思い浮かべていた。それは史実の開戦時にGF長官の男であった。


「……ま、向こうで聞けばいいか」


 そう言って駅に到着するまで睡眠をする将和だった。そして航空隊に到着して司令官小松直幹少将に着任の報告をするのであった。


「わざわざ海から引き離して済まなかったね」

「いえ、とんでもありません」

「実は君を副長にしたのは理由がある。君の功績でパイロットを目指す者が多くて山本君だけでは対処しきれないと判断してね。君を呼んだわけだ」

「は、分かりました。全力を尽くします」


 その後、将和は山本五十六と出会い、彼とも幾度となく話す事はあったが後に夕夏にボソッと口を溢した事があった。


「……あいつはあまり信用出来ない」


 それが何を意味するのか? また、将和と山本とは不仲ではなかったが何故将和がそう口を溢したのかは後の歴史家にも分からない事だった。

 そして九月頃、将和は小松司令に呼ばれた。


「実はドイツから君宛に招待が来ている」

「招待……ですか?」

「リヒトホーフェンの遺体をフランスから母国ドイツに迎え入れるらしい。君もかつてリヒトホーフェンと戦った柄だがドイツ側から是非にと言われたんだが……どうかね?」

「断る理由はありません。是非行かせてください」

「分かった。上にはそう言っておこう」


 小松司令は頷き、将和は司令室を退出した。


「……リヒトホーフェン……か」


 将和の脳裏にあの時の空戦が思い浮かべられる。


「……敵としてではなく、親友として会いたかったな……」


 将和は歩きながらそう呟くのである。そして将和がドイツに行く噂が広まったのか、山本にも訊ねられる始末であった。


「あのリヒトホーフェンと戦ったとはやはり凄いですな副長」

「なに、たまたまだよ教頭」


 山本の言葉に苦笑しつつ答える将和である。そして九月の下旬に将和はドイツへ向けて旅立つのである。その時に将和が乗る客船を見送ろうと霞ヶ浦航空隊の練習機が客船の上空を飛行して見送るのである。


「あいつらめ……」


 旋回等将和自らが実施して訓練した飛行技を披露するパイロット達だった。

 十一月二十日、将和は参列者の一人として国葬されるリヒトホーフェンを手向けの花を送る。将和のワイマール共和国大統領のヒンデンブルク元帥から一言をと言われた。


「彼は私より優るパイロットです。皆さん、誇りに思ってください。そしてリヒトホーフェン、空戦の決着はあの世でしよう」


 将和の言葉に民衆は拍手で送るのであった。そして将和が帰る時、一人の太った男が将和に声をかけた。


「お久しぶりですねミヨシ大佐」

「えっと……?」

「あぁ、僕が一方的に知っているだけですね。僕は貴方と大空で出会い、貴方に負けて不時着したパイロットです」

「……あぁあの時のパイロットか。そうか、此処で会えたのも何かの縁かもしれないな」


 将和は太った男と握手をするが男は帽子を深く被り何かを警戒していた。それを察知した将和は彼を連れて近くの喫茶店に入った。


「此処なら大丈夫じゃないかな?」

「……感謝しますミヨシ大佐。実は僕は今、事実上オーストリアに亡命しているので無闇に顔を他の人に見られたくなかったので……」

(オーストリアに亡命……?)


 男はそう言って帽子を漸く取った。


「改めましてミヨシ大佐。僕はヘルマン・ゲーリングです」

「……君がリヒトホーフェン大隊を率いていたのか……(( 'ω')ファッ!? 何でゲーリングが此処にいるんだよ……)」


 太った男――ヘルマン・ゲーリングの紹介に将和は内心驚いていた。


「貴方がリヒトホーフェン隊長の国葬に参加すると聞き付けて偽名と変装で駆けつけた次第です」

「ミュンヘン一揆に参加していたらしいね」

「えぇ。その時の負傷でモルヒネに依存してしまいました」


 ゲーリングは将和の言葉にそう答えた。


「貴方がドイツに来なければ僕はモルヒネ中毒で今の体型より太っていたでしょう。ですが貴方がドイツに来ると聞いてモルヒネを絶ちました。貴方の前では太った僕を見せたくない」

「今も太ってないか?」

「モルヒネ絶ちをしたのが先月だったのでまだ五キロしか痩せてませんがね」

「ふむ。決意は堅いみたいだな」

「勿論です。それと大佐、差し出がましいですが今度僕と会った時、空戦の勝負をしてほしいです」

「ふむ……良いだろう。それまでは互いに腕を磨いておこうじゃないか」

「ダンケ、大佐」


 将和とゲーリングは握手をするのであった。ちなみにその時、ゲーリングにあまりカネが無い事を知った将和はある分だけのカネをゲーリングに渡していたりする。


「大佐、こんなになんて……」

「良いからもらっとけゲーリング。出世払いで良いからな」

「……ありがとうございます大佐」


 涙を流しながら頭を下げるゲーリング。この事をゲーリングは終生忘れる事はなかったのであった。将和は帰国後は再び霞ヶ浦航空隊副長をしていたが、1926年三月一日に石川清大佐の後を継いで装甲巡洋艦八雲艦長に就任した。この八雲艦長時に将和は空母鳳翔と幾度となく対空訓練を実施している。


「左舷より敵雷撃機三機接近!!」

「魚雷落としたら報告しろ!!」

「……落としました!!」

「取舵二十!!」

『とぉーりかぁーじ!!』


 三機の一三式艦攻が八雲上空を通り過ぎる。八雲の左舷から一本の魚雷が船体の底を潜っていく。


「ちっ、一本命中か。まぁ一本命中ならまだ戦闘も可能だな」


 将和はそう判断する。


「鳳翔に信号。『魚雷、一本命中ス。我、戦闘可能ナリ』だ」

「は!!」


 彼等の訓練はまだまだ続いたのである。そして同年十一月一日、小林省三郎大佐の後を継いで五代目鳳翔艦長として就任したのである。


「小沢が飛行長か」

「は、よろしくお願いいたします隊長」

「おいおい、俺はもう隊長じゃないぞ」

「いえ。自分らの中ではまだまだ隊長です」

「はっはっは」


 笑いあう二人であった。そして訓練になると鬼になる二人である。


「もっと突っ込め吉良!! 貴様の度胸はそんなもんかァ!!」

「すいません!!」

「もう一回鳳翔を攻撃だ!!」

「はい!!」

「次も躱すぞ!! 油断するなよ!!」

『はい!!』


 流石に死者までは出てないが二人の努力が実るのはとある航空演習であるがまだ先の話である。

 そして1927年三月二四日、北伐の途上において、蒋介石の国民革命軍の第2軍と第6軍を主力とする江右軍が南京を占領した際、日本を含む外国領事館と居留民に対して中国兵士が襲撃したのである。これは後に南京事件と呼ばれる。

 原は直ちに外交ルートを通じて蒋介石に対し抗議をしたが蒋介石は原の抗議を無視した。無視された原はイギリスからの出兵に応じて軍の派遣をするのである。その中には空母鳳翔もいたのである。









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