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第五話






「我が艦の命中弾です!!」

「ハッハッハ、よくやった!! 砲術員達には俺からの奢りで一杯飲ませてやるぞ!!」


 二等戦艦鎮遠の艦橋で艦長の今井大佐は笑いながらそう叫ぶ。


「酒が飲めるぞ!!」

「三景艦より当ててやれ!!」

「撃ェ!!」


 艦長の奢り酒は直ぐに砲術員達に伝わり、砲術員達は士気をあげてロシヤを砲撃する。そのおかげなのか、三斉射目でまた命中弾をあげるのである。


「鎮遠ばかりに手柄を取らせるな!!」

「準備完了!!」

「撃ェ!!」


 厳島と橋立は砲弾を装填して砲撃する。三二サンチ砲は一時間に一発の発射であったが、乗組員の猛訓練により四十分まで縮小して距離二千七百という至近距離で砲撃したのだ。

 至近距離のおかげで厳島はロシヤに致命傷を負わせる事が出来た。橋立はグロモボーイの艦橋に命中弾を浴びさせ、艦橋にいた艦長以下の乗員を吹き飛ばさせた。

 しかし、厳島と橋立は集中砲撃を浴びて厳島は二十.三サンチ砲弾八発、橋立は二十.三サンチ砲弾九発が命中して戦闘不能になった。

 だが、二隻の三二サンチ砲弾はウラジオストク艦隊の士気を低下させるのには十分な存在だった。

 そして残る三景艦の松島は反転してウラジオストク艦隊の前方を航行して三二サンチ砲を砲撃していた。

 松島が逃げるようにしていたがこれは理由がある。松島の三二サンチ砲は後部甲板に搭載していたので後方から射撃する必要があったのだ。


「厳島と橋立ばかりに活躍させてはならん。三二サンチ砲は松島も搭載しているのだ!!」


 松島艦長の川島大佐は乗組員に檄を飛ばしつつ後方に航行しているウラジオストク艦隊を見つめる。

 ウラジオストク艦隊は三二サンチ砲の射線から外れようと左右に舵を切っていた。


「あの艦を狙え!!」


 川島大佐が指示したのは装甲巡洋艦グロモボーイであった。グロモボーイはロシヤが舵を切る理由を知らずに直進していた。いや直進するしかなかった。艦長以下艦橋にいた全員が戦死して操艦手も負傷していたのだ。


「撃ェ!!」


 松島の三二サンチ砲は距離四千二百で砲撃した。砲弾はグロモボーイの煙突二本を吹き飛ばして命中した。それがグロモボーイの致命傷となった。

 グロモボーイは速度を落として艦隊から落伍していき、最期は水雷艇から放たれた三本の魚雷で撃沈となった。


「三景艦や二等戦艦に手柄を取らせるな!! 第二戦隊第二小隊の底力を見せてやれ!!」


 片岡中将は檄を飛ばす。八雲と浅間は逃げようとしているロシヤに砲撃を集中させた。常磐はリューリクに砲撃を集中させてリューリクの前檣に砲弾が命中してメインマストを切断させた。

 そこへ第六戦隊の和泉と須磨も自艦が搭載している四十口径十五.二サンチ砲及び四十五口径十五.二サンチ砲、四十口径十二サンチ砲を放ちリューリクに命中弾を与えて火災を生じさせた。

 一方、ボガトィーリは戦場から離脱しようとしていたが鎮遠がボガトィーリを視認して砲撃。足止めをしている。

 そして致命傷を負っていたロシヤは穿孔からの浸水で傾斜が酷くなり遂にレイツェンシュテイン大佐は総員退艦を発令した。

 ロシヤは戦闘が終了した1736に波間に消えていった。ロシヤの総員退艦を視認したリューリクとボガトィーリは砲撃を停止させ白旗と日章旗を掲げた。そしてゆっくりと停船したのである。


「片岡長官……!!」

「……勝ったか……」


 片岡中将はホッとしたような表情を中村参謀長に見せた。そして艦隊は二隻を臨検して接収する。

 それは海戦に日本が勝利した事を現していた。後にこの海戦は津軽海峡沖海戦と呼ばれるのであった。


「……そうか、第三艦隊は勝ったか」


 報告を聞いた山本大臣は微笑んだ。しかし第三艦隊の損害も大きかった。三景艦の厳島と橋立は大破して修理に一年近くかかった。

 浅間と常磐も中破して暫くは艦隊に加えられなかった。なお、日本側も戦没艦を出していた。海が時化ていた事もあり第十艇隊の水雷艇第四十号艇と第四十一号艇が転覆して沈没していたのだ。

 救助活動で両艇の十名前後を救助したが、後は戦死したのである。(平時ではないため殉職ではなく戦死としている)


「二隻を捕獲出来たのも幸先が良い。後は……」


 山本大臣はその後は何も言わなかった。そして日本二三日に日韓議定書を締結した。それから二日後ね二五日、三好は戦艦三笠に乗艦した。


「特務参謀の三好少尉です」

「御苦労三好少尉。少し君と話がある」


 東郷はそう言って従兵を外に出して三好と二人になったら急に東郷は三好に頭を下げた。


「ありがとうでごわす」

「え……?」


 突然の行動に三好は驚いていた。


「おはんのおかげでウラジオストク艦隊は壊滅した。残るは旅順艦隊とバルト艦隊でごわす。三好少尉、おいどんを補佐してほしい。少尉の力が必要でごわす」

「……東郷長官……!!」


 三好は東郷の言葉に感激していた。三好も三笠に乗艦する前、東郷は三好を信用していないと山本大臣から聞いていた。それが初戦の旅順攻撃、ウラジオストク艦隊壊滅で三好を信用する事にしたのだ。


「東郷長官、出来る限りの事はするつもりであります」

「うむ、頼む」


 三好と東郷の会談はまさに成功したと言っていいほどであった。

  そして三好を加えた作戦会議が開かれた。二四日に旅順封鎖の第一次閉塞作戦が実施されたが失敗していた。


「閉塞作戦はもうやらない方がいいです。陸軍に協力してもらい、陸から観測所を設置、重砲隊を編成して旅順港を攻撃して引きこもる旅順艦隊を外に出すのが得策です」


 三好はそう具申したが、参謀達はこれを一笑した。


「一回だけで中止して陸軍の手を借りるのは海軍のプライドが許さんぞ!!」

「着任したばかりの若造が何を言うておるのだ!!」

「次は成功する筈だ!!」


 反論する参謀達に三好は言い返した。


「海軍のプライドで戦争しているんじゃない!! プライドだけなら戦争は当の昔に終わっているぞ!!」


 作戦会議は紛糾していた。三好の作戦に賛成したのは参謀の一人である秋山真之少佐だった。

 秋山少佐はいきなりの発言をした三好に苦笑しつつも旅順艦隊早期撃滅に賛成だったので三好の案に賛成したのだ。

 そして東郷自身も内々では三好の案に好印象だった。しかし着任したばかりの三好を擁護すれば三好自身に傷が付く事を思い、第二次閉塞作戦を決定してしまった。

 斯くして、第二次閉塞作戦は史実通りの三月二七日未明に決行されるのであった。







御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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