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第四十五話





 海軍が目指した八八艦隊計画は幻と消え、多くの海軍関係者に衝撃を与えた。しかし、東郷は「八八艦隊計画が消えたのは残念だが艦隊維持費に多くの費用が掛かるので返って良かったのかもしれない」と発言して海軍関係者の夢から現実に目覚めさせた。

 八八艦隊で実際に就役したのは長門、陸奥の長門型戦艦二隻のみで他はまだ建造中だった。そのためワシントン軍縮のを利用して天城型巡洋戦艦の天城、赤城、加賀型戦艦の加賀を空母に改装する事に決定した。

 また、艦政本部長の岡田中将は一時的に天城と土佐を標的艦にして将来の戦艦建造に役立たせる事にした。船体はある程度完成していたので天城は呉に回航された。

 これにより天城は関東大震災からの被災は免れるのである。更に岡田は新型缶の研究を指示した。これが後に九五式艦本式重油専焼水管缶となるのであった。そして東郷は岡田と宮様を非公式にとある料亭へ呼び寄せた。


「岡田中将、宮様。例のはどうなりもうした?」

「はい。一応は資材は少しずつですが記入には存在しない資材庫にて備蓄を初めてはいます」

「此方も三連装砲の研究を開始させました」

「うむ。老骨の頼みとは済まんでごわすな」

「いえ」


 東郷の言葉に宮様は首を振る。


「しかし三好大佐に話をしなくて宜しいのですか?」

「あやつにはサプライズちゅう形でごわす。おいどんはもう幾年の余命でごわす。死ぬ前に日本のためになら何でもするでごわす」


 東郷は酒をクイッと飲み干す。


「三好に話すのはおいどんが死んでからで良か。あやつにいらぬ心配をかけさせたくなか」

「……分かりました」


 東郷の言葉に岡田中将は頷いた。


「しかし……壮大な計画ですな」

「なに、土佐の解体資材も組み込む予定だ。土佐は標的艦の任が終われば浮き桟橋にする」


 史実と異なり、天城が標的艦から空母になる事で土佐は標的艦後に解体して一部は浮き桟橋へ流用される事に決まっていた。


「三好大佐の史実に比べたらこの世界の土佐は幸せかもしれないですな……」


 宮様はそう呟いたのである。


「兎も角、宜しく頼むでごわす」

『はい』


 東郷の言葉に二人は頷くのであった。海軍はこうなっていたが陸軍はどうだったであろうか?

 陸軍は山梨陸軍大臣を筆頭に陸軍初の軍縮を行っていた。


「三好大佐の情報では史実とやらの儂と宇垣君が陸軍の軍縮を行ったそうだ」

「戦争は無いからのぅ。減らすのは将官もか?」


 山梨の補佐をしていた秋山がそう問うが山梨は首を横に振る。


「宇垣君の軍縮の時は四個師団を削減した。だが大量に切ったら派閥抗争の激化を引き起こしている。将官は数名のみで大部分は兵士に絞ろうと思う」

「ふむ。新設する戦車連隊や飛行連隊に異動させるとかだな」

「それと総理の下で情報庁と軍需庁の創設する話もある。そこに武官として派遣させる手もある。それに陸軍独自の情報部を設置してそこに異動の案もある」

「そういえば戦車の開発はどうなっている?」

「山縣さん肝煎りでやっている。かなり張り切っている」


 史実の宮中某重大事件が無いため、山縣の寿命は暫く延びていた。山縣はww1で出現した戦車に注視し将和の具申により国産戦車の開発に力を入れていた。また、東條ら実際に戦車に見た者や義勇軍にて活躍した牟田口等も加えていた。


「速度はせめて30キロにしたい」

「装甲は厚い方が良い」

「歩兵と共同か? それとも戦車戦か?」


 山縣は彼等と議論を交わしつつも二両の試製戦車の製造を承認した。

 試製一号戦車は史実のと同等であるが試製二号戦車は重量17トン、速度27キロ、装甲30ミリである。違う点は一号と比べ重いが機銃砲搭が無くなりエンジンが180馬力であった事だろう。

 エンジンは丙式一型戦闘機の水冷V型八気筒220馬力をデチューンした代物であったがこのエンジンにより試製二号戦車は一号に勝てる事が出来た。

 しかし、陸軍内からは「我が国の道路事情だと試製二号戦車の運用は難しい」と出たが山縣は「それなら国内開発をして道路事情を変えれば良い」と一蹴するのであった。


「山縣さんからの意向もあるから軍縮はやらねばな」


 1922年七月に行われた第一次軍備整理は史実通りの内容で行われたが翌年、1923年二月に行われた第二次軍備整理は史実+宇垣軍縮+二個師団のが行われた。

 師団は第十三、第十五、第十七、第十八、第十九、第二十師団の六個師団が廃止となったのだ。代わりに新設される部隊もあったが将官クラスは総理の下に新設された情報庁、軍需庁に武官として派遣した。更に陸海軍は独自の情報部を設置してそこにも将官クラスを異動させた。(なお、これと前後して外務省、内務省にも情報部が設置された)

 ちなみに第一次軍備整理の時に廃止とした六個野戦重砲兵連隊等の砲は全てシベリア帝政国へ格安売却されたのである。

 史実とは違い、将官クラスの首を切らなかった事により後々の将校不足はあまり起こらなかった。また、陸海共同で工場の製造ラインや技術研究に資金を注ぎ込む事に合意した。

 ww1に参戦して欧州に軍を派遣していた日本は総力戦を経験していた。陸海とも次の戦争が総力戦になる事を予期したので今のうちに向上させるべきところは向上させる事になったのだ。


「増えすぎたのは減らして民間に移さないとなぁ」


 将和は『陸海軍大軍縮』と見出しが出た新聞を見ながらそう呟いた。陸海軍を除隊した兵士は民間に戻り産業兵士として日夜汗を流していた。


「貴方、そろそろ時間よ」

「ん」


 将和は夕夏から鞄を受け取り、夕夏らに見送られながら自宅を後にした。将和は義勇軍から帰還後は横須賀航空隊飛行長をしていたが空母鳳翔飛行長に異動していた。

 空母鳳翔は大体は史実通りだが十四サンチ砲四門は初めから搭載しておらず、その分は格納庫が拡大され艦戦12機、艦攻9機、補用6機の計27機を搭載していた。

 なお、史実ではウィリアム・ジョルダンとセルビン航空団のブラックレー少佐が鳳翔に初着艦をしていたが、この世界では将和が着艦を経験していた事もあり鳳翔への初着艦は将和だった。初着艦に成功した将和にボーナスとして一万五千円をあげるのであった。ちなみに二番目は史実通りに鳳翔乗組の吉良俊一大尉である。

 そして鳳翔は史実より早くに第六駆逐隊所属である樺型駆逐艦の梅と楠で第一航空戦隊を編成していた。

 海軍は戦艦の補佐として空母部隊の拡充を図っていた。その現れがこの第一航空戦隊であった。何せ空母は現段階で四隻(改装中の赤城、加賀、標的艦中の天城)もいるのだ。パイロットが多数保有しなければならないのは当然だった。


「……横索式まで我慢してくれよな……」


 発着艦訓練のために発艦していく一〇式艦上戦闘機を見ながら将和はそう呟いたのであった。

 そして将和の周りでも急展開を迎えようとしていた。


「……そう、会えるのは九月一日ね」


 将和の自宅にてシベリア大使館からの手紙に夕夏は満面の笑みを浮かべる。


「楽しみねぇ……」


 夕夏はそう言って自室に鍛練用に置いてある薙刀を手に取り、素振りをする。


「……見極めてあげるわよ……タチアナ皇女」


 夕夏はそう呟いたのである。なお、夕夏の満面の笑みを目撃した将弘と将治は少しチビっていたのは内緒である。

 1923年八月二六日、将和は東郷達と帝都のとある料亭に訪れていた。


「そうですか、加藤大臣はやはり病が……」

「酒は控えていたでごわすが遅すぎたのかもしれんでごわす……運命かもしれんのぅ」


 八月二四日、海軍大臣加藤友三郎は大腸ガンの悪化により私邸にて62年の生涯を終えた。加藤は臨終の時まで海軍と日本の未来を心配していた。


「加藤からの伝言でごわす。『途中で退場してしまうのは残念だが、どうかどうか日本を宜しく頼む』」

「……加藤大臣……」


 日露戦争の頃から面識が会った者が亡くなるのは将和も少々堪えた。分かってはいた。しかし亡くなるのは悲しい事である。


「それとシベリアのタチアナ皇女が九月一日に非公式で君と嫁に会うらしいな?」

「はっ……日程をずらす事が出来ないか然り気無く聞いたのですが向こうも公務があります故……」

「むぅ」


 将和の言葉に宮様が唸る。


「なに、そこは心配なかろう。問題は九月一日の地震でごわす」

「政府は一昨年の龍ヶ崎地震から防災の日を二月一日と九月一日に制定しました。多少ですが被害は少なく出来るのではと思います」


 伊藤は原と交代する前に防災の日を制定して国民に対して地震に備えるように促してきた。


「陸軍も即動員するようには準備をしている。後はどれだけの被害を抑えられるかだな」


 宮様はそう呟いた。そして九月一日、将和の自宅にてシベリア大使館ら職員と密かに来日したタチアナ皇女がいた。


「「………」」

『………』


 初めて対面した両者に将和や職員達は無言だった。


「……貴方、申し訳ないけど二人にしてくださる?」

「………」


 夕夏の言葉に将和は職員に視線を向ける。職員も頷き、職員らは外で待機する事にした。

 将和は三人をあやしつつ、腕時計を見る。時刻は1156時を指していた。


「……後二分」


 将和は将弘と将治に「外にいる人にお茶を持って行ってくれ」と言ってお茶受けを持たせて外に出した。娘の紫は将和が抱っこ紐で抱っこしている。

 そして1158時、地鳴りか何か分からない唸り声が聞こえたと思ったグラグラと揺れ始めた。揺れは大きくなっていく。


「地震だ!!」


 関東大震災の始まりであった。






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