第四十四話
夕夏USC(適当
将和はパイロットの編成替えを行った。一個中隊12名の半数は新人パイロットに組み込み、ベテラン若しくは中堅らが新人パイロットを改めて鍛える事にした。これは将和も例外ではなく卒業して配属されたばかりの新人パイロットを鍛えるのであった。
この編成替えにより新人パイロットが初出撃で落とされる事はあまり無くなるのである。
そして九月二十日、今日も空戦をして帰還してきた将和だが着陸すると高橋司令に出迎えられた。
「どうしましたか?」
「停戦だ。ソ連とシベリアが停戦に至った」
「……漸くですか……」
高橋司令の言葉に将和は安堵の息を吐いた。漸く停戦の場に漕ぎ着いたのであった。
些か体調が回復したレーニンは九月十八日の段階で停戦に動いた。ソ連側からの和平停戦の案にニコライ二世は「二日、待ってほしい」と頼み、クロパトキンらとの会議で和平停戦が決定したのである。
「停戦か。それなら義勇軍がシベリアにいる意味はない」
高齢の伊藤からバトンタッチで総理に就任していた原敬は義勇軍の帰還を決めて義勇軍は十月一日を以て日本へ帰還する事になる。そして日本義勇軍が帰還する前日の夜、タチアナ皇女が将和の元を訪れていた。
「これ、ユーカさんの返事ね」
「わざわざどうも」
「………」
「皇女?」
「目を瞑りなさい」
「はい?」
「いいから!!」
「は、はい!!」
慌てて目を瞑る将和。瞑った将和は何をするか不安だったがタチアナ皇女が動いた気配をしたと思ったら口に何かがガチッとぶつかった。
思わず目を開けた将和の目の前にはタチアナ皇女の顔があった。タチアナ皇女は顔を真っ赤にしながら将和にキスをしていた。将和と目が合ったタチアナは直ぐに将和から離れた。
「……こ、皇女……?」
「……ユーカには負けないと伝えなさい。私も……私も貴方の事が好きなんだからね!!」
タチアナ皇女は顔を真っ赤にしながらそう叫び、そのまま部屋から出るのであった。
「……( 'ω')ファッ!?」
漸く起動した将和の叫びが部屋に響き渡り、将和は頭を抱えた。
「いやいやいや……待て待て。そんなフラグ、何処にあった? 落ち着け俺、夕夏の裸でも妄想して落ち着こう……落ち着けるか!!」
何故か一人ボケ突っ込みをする将和である。
「フラグフラグフラグ……もしかしてあの時の空襲か?」
十分程度唸って漸く正解を導きだした。
「……確かあの時、腰が抜けてた皇女をお姫様抱っこしてタコツボに入って抱き締めて……完全にフラグ成立じゃねーか。俺はアホか、でもあの時はああしないと皇女死んでたし……」
頭を抱える将和である。
「……まさか夕夏は皇女に気付いていた? それならあの手紙も理解出来る……」
その時、将和は家の目の前で薙刀を持って満面の笑みを浮かべている夕夏を思い浮かべた。
「……これはアカン。マジでアカン」
将和は冷や汗をかきながら呟く。その後、将和はどうするか悩んだが良案が浮かばず、帰国する時には乗る輸送船で死んだ目をしていた。
「おい、隊長どうしたんだ?」
「さぁ? なんかここ最近はああなっているぞ」
「奥方が浮気でもしたか?」
「お前、隊長と奥方の仲を知らんのか?」
「いや知ってるけどさ。初期の初期設定だと間男に寝取られるだろ?」
「メメタァ」
パイロット達はそう口々に言うのであった。その輸送船を見送るのは決断した表情をするタチアナ皇女らであった。
「吹っ切られたようですね御姉様」
「……ふん」
マリア皇女の言葉にタチアナ皇女はそっぽを向いた。
「突撃してキスまでしてやったわ」
「……吹っ切るにしてもそれは暴走の類いではないですかね」
タチアナ皇女の言葉にマリア皇女は将和の無事を祈るのであった。なお、和平停戦は十月十日から効力が発揮される事になった。
和平条約は主にブレイン山脈以降東はシベリア帝政国の領土として認める事。ソ連はブレイン山脈以降東の権益は全て放棄する事。(カムチャッカ半島とかではない。沿海州、ハバロフスク地方のみ)賠償金は両国とも求めない事等であった。
これによりシベリア帝政国は首の皮一枚が残るのである。そして、首の皮一枚が残りそうにもないのが将和である。
「あら、おかえりなさい貴方」
「あ、あぁ……」
自宅の玄関にて笑顔で将和を出迎えた夕夏に将和は少し引いた。いつものなら抱き着く将和だがタチアナ皇女の一連の事で夕夏が怒ってないか警戒していたのだ。
「ほらほら、ボーッとしてないで入りなさいな」
「う、うむ」
「「御父さん!!」」
靴を脱いでいると将弘と将治が将和に抱きついて久しぶりに父親と再会した。更に生まれて一歳になる紫は将和の顔を覚えてないので盛大に泣かれて落ち込む将和を将弘と将治が慰めるのは仕方ないかもしれない。
そして子ども達が寝た2200時、夕夏が動いた。
「ところで貴方、タチアナ皇女からの返事はあったかしら?」
「あ、あぁ。これだ」
将和はいそいそと手紙を夕夏に渡す。文章を一目した夕夏はうんうんと頷いた。
「予定が詰まってるなら仕方ないわ。それと貴方? 『タチアナ皇女とは何処までシたのかしら?』」
夕夏の言葉で居間はシンと静まり返った。居間だけ気温が急激に低下したのかもしれない。将和は夕夏に視線を向けようとしたが身体が言うことを聞かない。
「聞いてるの貴方?」
恐さで歯がガチガチと音を立てる。寒さではない。夕夏の放つ殺気に将和は震えていた。
「答えろ」
「は、はい!!」
夕夏の言葉に将和は背筋を伸ばし、さながら新兵のように報告をするのであった。
「なんだ、まだキスしかしてないのね。もうズッコンバッコンしているかと思ったわ」
「あ、あの、そんな表現は……」
「あん?」
「すみませんでした」
それは見事な土下座であった。多分審査員がいたら十点満点かもしれない。ふと将和がちゃぶ台を見ると将和が長谷川に送ろうとしていたウォッカが空いていた。勿論空けて飲んでいるのは夕夏である。
「ゆ、夕夏さん。ウォッカはあまり無茶は……」
「黙れ淫猿」
「ア,ハイ(淫猿って……)」
「大体ねぇ、合体するのは私も嬉しいけど、どうしてそんなに早く子どもが作れるのよ。撃墜率凄すぎよ、私としてはもう少し二人きりな気分を味わいたいのよ」
「ア,ハイ」
「まぁ三人とも可愛い子だから許すわ。貴方はちょっとは私をもう少し気遣いなさい!!」
「ア,ハイ。努力します」
「それと~」
その後、夕夏の愚痴は明け方近くにまで及び夕夏が爆睡して漸く終わりを告げたのである。
「……ごめん夕夏。もう少し気遣うよ」
遠い目をした将和はとりあえず後片付けをするのであった。
数日後、将和は海軍省にて東郷らと会っていた。
「総撃墜数は334機か。見事なものでごわすな」
「運が良すぎたに過ぎません。皆のおかげです」
東郷の言葉に将和はそう言った。部屋にいるのは二人の他にも岡田中将、宮様がいた。なお加藤は欠席している。
「八八艦隊計画は頓挫したがどうする?」
「中身の向上しましょう」
「中身?」
「機関です。特にボイラーやディーゼルですかね、タービンはまぁ問題ないとは思います」
「成る程」
「それと天城も一時的に標的艦にして横須賀から脱出させましょう」
「……関東大震災か」
「はい。史実の天城は横須賀にいた事で震災に巻き込まれて盤木が倒れ船体上で竜骨が脱落した事により船体が歪み工事は断念、解体されました。まぁ一部は浮き桟橋に使用されて自分がいた現代でも現役でしたが……」
「うむ。兎に角天城は震災前に呉にでも回航しよう」
岡田はそう頷いたのであった。
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