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第四十話




 さて、四月は夕夏が倒れるという事で大変だったが、欧州の地においても一つの戦争が終わった。

 前月の三月十八日リガにおいてポーランド・ソビエト・リガ平和条約が締結したのだ。

 ワルシャワの戦いでソ連相手に奇跡の大勝利をしたポーランドに首の皮一枚が残ったようなものであった。この平和条約によりポーランドはポーランド分割期間の帝政ロシアへの経済投資に対する賠償金3000万ルーブルやポーランドの国有財産等を返還してもらったのである。


「西への拡大は一時的に諦める。今はシベリアを討伐する事に専念する」


 レーニンは人民委員会議の場にてトロツキー達にそう話す。


「同志レーニン、賛成ではありますがシベリアには日本がいます」

「分かっている」

「それにポーランドとの戦争で再度侵攻する余力は有りません。人民もモノも土地も経済も疲弊しています」

「ぬぐぐぐ……」


 トロツキーの報告にレーニンは顔を歪めた。


「ではどうする? シベリアには皇帝がいる。いくら我々が広大なソビエトの大地を保有していようにもシベリアが取り返す理由がある」

「まずは重工業化を急がせる事でしょう。内戦で工場が破壊されましたので復旧から進展させる必要があります」


 メンバーの一人であるスターリンがそう告げる。


「シベリアへの攻勢は航空部隊のみに限定してやるべきでしょう」

「……ミヨシか」


 トロツキーの言葉にレーニンはそう問う。問われたトロツキーも無言で頷いた。


「やはりミヨシか!!」


 レーニンが忌々しげに机を叩く。


「同志レーニン。此処は編成した航空戦力を順次シベリアに回しその間に兵力の編成を整えるのが最適かと思います」

「うむ。航空部隊の編成はどうか?」

「12の航空学校でパイロットの確保をしておりますが教官役が不足しております」

「戦線から引き抜くのか? それでは押しきられまいか?」

「そこである国から教官を招き入れます」

「……成る程、ドイツか」


 トロツキーの言葉にレーニンは納得したように頷いた。


「敗戦し軍備を大幅に縮小されたドイツには多数のパイロットが有り余っているでしょう。そこで教官役として招き入れパイロットの育成に努めるのです。また、ミヨシを確実に落とすためにミヨシに賞金を掛けるのです」

「妙案だ。直ぐに取り掛かるのだ」

「ダー」


 この出来事が三月下旬の事である。ソ連は直ぐにドイツ国内にいる元パイロット等を招致して航空学校の教官として就任させたのである。

 なお五月、将和はスペイン風邪から完治した夕夏達の見送りを受けて再びウラジオストクに赴いた。


「そういやこの手紙は何だろうなぁ……」


 東京駅で夕夏らと別れる時、夕夏に一通の手紙を渡された。


「もしタチアナ皇女に会う機会があれば渡してほしいの。中身、勝手に見ちゃ駄目よ。見たら……」

「ア,ハイ」


 危険を感じた将和は中身を見ない事を誓うのである。そして吉良達からの出迎えに土産の日本酒等を渡しつつ塚原飛行隊長代理から飛行隊長の任を引継ぎするのである。

 将和がいる事を確認したソ連軍は航空部隊を前面に立てて日本義勇軍航空隊とシベリア航空隊の航空戦力を削ごうとした。


「ミヨシを落とせ!! ミヨシを落とした者には五万ルーブルの賞金が手に入るぞ!!」


 ソ連赤色空軍の戦闘機隊は将和を撃墜しようと躍起になる。だが将和らも負けてはいない。将和は左斜め宙返りをする途中に速度を低下させフラップを開いて宙返りを短くさせてアルバトロスD.3戦闘機の後方に回り込み一連射して左翼のワイヤーが弾け飛び左翼が千切れ飛ぶ。左翼を失ったD.3はそのままシベリアの大地に落ちていく。


「ち、やたら来るな」


 将和が周囲を見ると複数のソ連戦闘機が将和のスパッドS.13に群がろうとしていた。将和は左旋回をして回避機動に移行するがそれでも付いてくる。


「ならば」


 将和は操縦桿を前に押して急降下に移行する。将和が乗るスパッドS.13は急降下性能はどの機より頑丈でありソ連戦闘機を引き離したのである。引き離した将和は視界に映ったD.3の後方に回り込み機銃を二連射して撃墜する。

 戦場は既に日本義勇軍、シベリア航空隊の優勢に回りソ連戦闘機隊は遁走していた。将和は下方にて白煙を噴きながら離脱するD.3を発見し周囲に敵機がいない事を確認しつつ後方から機銃を叩き込んで撃墜する。


『………』


 D.3を追い抜く時、被弾した敵パイロットが将和を見たが将和は敬礼をして編隊に戻るのである。


「悪いな、恨むなら奴等を恨んでくれ……」


 落ちていくD.3を見ながら将和はポツリと呟いたのであった。基地に戻ると将和は高橋らに出迎えられた。


「撃墜数が200機を越えたな。おめでとう」

「は、ありがとうございます」


 将和はこの日の空戦で三機を撃墜し199機だった撃墜数を202機にしたのである。


「これは祝いだ。皆で飲んでくれ」

「ありがとうございます!!」


 高橋司令から日本酒を受け取る。待機所に向かう途中、将和はふと立ち止まる。


「……そうか、岩本中尉と並んだのか……」


 史実で自己申告で202機の撃墜を誇った岩本徹三中尉と並んだ将和。ただ、あの歴史を変えるために将和は奔走した。それを見た神様からの御褒美かもしれないと将和は思った。


「……此処から撃墜の歴史が始まる……か」


 日本人でただ一人の三桁撃墜数を誇るのだ。しかし、将和にしてみれば此処からが始まりなのかもしれない。


「……ま、兎に角頑張ろう」


 改めてそう誓う将和だった。それから六月~九月までは航空戦は日本・シベリア側が有利だった。(将和も撃墜数をさらに増やしている)しかし十月に入ると状況が変わった。


「いつものソ連戦闘機じゃない……腕が上がった?」


 空戦をしながら将和はそう思う。ドイツ軍の元パイロットによる教育によりソ連軍のパイロットの練度が向上したのだ。また、戦闘機もドイツ等敗戦国から格安で売却してもらい編成を整える。

 これにより日本・シベリア側は徐々に押し込まれる事になる。

 特にシベリア航空隊はまだパイロットが少ない事もあり(15機程度)、ソ連戦闘機隊に集中的に狙われ壊滅に近い状態だった。


「情報によれば教官にドイツ軍の元パイロットが関与しているとか。それにソ連戦闘機の数も尋常じゃありません」

「それは問題にはならんな。元パイロットが戦闘していれば問題になるがな」

「隊長、どうしますか?」

「(歴史は既に変わっている……ならば……)二機一組の分隊、四機二個分隊で一個小隊とする。特に二機一組は空戦になっても離れる事がないようにする」


 将和が新たに編成したのは今まで一個小隊三機だったのを二機一個分隊、四機一個小隊とする変更だった。それは史実のロッテとシュヴァルムとほぼ同じ物である。


(済まないなメルダース。だがこれは生き残るためだ)


 まだ会ってないヴェルナー・メルダースに内心謝るのであった。






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