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第三十七話






「シベリアは上手くやっているようだな」


 首相官邸で伊藤博文はそう呟いた。伊藤の言葉に原等が頷く。


「まだ限定的ではありますがユダヤ自治区を制定してシベリア国民とするようの事です」

「ふむ、ユダヤ人の協力で助けられたようなものだからな皇帝一家も」


 まだ政策は出来てないシベリア帝政国だがロシア帝国よりかは幾分かは緩い政治体制にはなっている。


「海軍は旧式戦艦の売却を各国に売り込みたいと思います」

「どの国にかね?」

「予定としましてはユダヤ自治、シベリア、トルコ、ブラジルとアルゼンチンです」

「トルコと南米のブラジルとアルゼンチンとは?」

「トルコはトルコ革命後の事もありますから売却したいと思います。ブラジルは万が一移民する時の友好関係用として、アルゼンチンは畝傍と利根の件があります」

「成る程」


 畝傍と利根はヘネラル・ガリバルディ装甲巡洋艦のヘネラル・ベルグラーノとヘネラル・プエイレドンであり、日露戦前にアルゼンチン海軍から貸与されていた。今は返還されている。


「売却の件は先方にも伝えよう。ただしトルコはどうする? トルコは連合国の分割で抵抗運動がある」

「トルコはムスタファ・ケマルの陣営と接触したいと思います」

「……成る程」


 史実だと後にムスタファ・ケマルはトルコ共和国の初代大統領になるので今のうちに接触する事になったのである。海軍は旧式戦艦の売却リストを伊藤に提出した。リストに連ねた戦艦は以下の通りであった。


『戦艦 薩摩 肥前 巡洋戦艦 筑波 生駒 鞍馬 伊吹』


 海軍からのリストを受け取った政府はユダヤ等の国と交渉を開始する。しかし以外にもユダヤ自治政府は旧式戦艦の売却を拒否した。拒否したというより拒否せざるを得なかったのだ。


「日本が戦艦を売却してくれるのは嬉しいがまだ自国の軍港すら漸く整備し始めている中では厳しい」


 ユダヤ自治海軍は本拠地をコルサコフにしているが以前に日本が戦費の足しとしてバルチック艦隊の艦艇群をユダヤ自治海軍に売却したが未だに乗員が揃わず軍港に係留したままの艦艇が複数あった。

 現状、ユダヤ自治政府の人口は三百万近くだが陸軍を主体にする動きだったのだ。


「正直、戦艦より駆逐艦が欲しい」


 ユダヤ自治海軍の幹部の本音はそこだった。戦艦ではなく海上警備しやすい駆逐艦や防護巡洋艦を逆に日本に求めたのだ。

 ユダヤ自治政府の返答に日本は思わず唖然とするが、それならばと防護巡洋艦の須磨型二隻と三等駆逐艦の春雨型と白雲型駆逐艦の七隻で計九隻の売却を提案した。ユダヤ自治政府もそれに応じて売却は成立して九隻は整備してから引き渡されたのである。

 シベリア帝政国には戦艦薩摩と肥前の売却が成立した。肥前はかつてロシア帝国海軍の戦艦レトヴィザンとして活躍していたので馴染みがある戦艦だった。(ただし、機関等は改装されている)二隻は金額ではシベリアに眠る資源との引き換えである。

 筑波と鞍馬はアルゼンチン海軍ブラジル海軍との売却が成立、特に筑波はブラウン・カーチス式タービンが搭載され速度は二三ノットは出てリバダビア型戦艦と同じタービンなので整備はしやすい。また鞍馬はパーソンズ式タービンなのでミナス・ジェライス型戦艦と同じタービンでこれも整備しやすかった。

 なお、一番憤慨したのはチリ海軍である。


「南米のバランスが崩れる!?」


 チリ大使は日本に猛抗議するが逆に日本は日本で事情を話し、「それなら貴国も巡洋戦艦購入しますか?」と返した。しかしチリはアルミランテ・ラトーレ型戦艦があった。(一応チリに売却はされている)

 チリも三、三、二と均衡すると判断(弩級戦艦二、巡洋戦艦一のアルゼンチンとブラジル、チリは超弩級戦艦一と巡洋戦艦一)して購入を決意した。これにより軍事バランスは均衡する。

 なお、これで日本に苦言を入れたのはアメリカだった。


「今回限りにしてほしい」


 アメリカとしては裏庭に当たる南米の火種にガソリンを注がれたくはなかったのだ。日本も「今回限りです」と内密にアメリカに謝罪するのであった。

 そしてトルコはというと、密かにケマルと接触(接触したのは中野学校の卒業生)し生駒と伊吹の売却が決定する。ただし当面は日本に係留してほしいとの事だった。トルコ独立戦争をしているトルコにしてみれば回航する力も無いし無闇に損傷したくなかった。

 日本も了承して「良ければ海軍水兵の育成も手伝う」と伝えるとケマルも了承して水兵三百人と士官三十名が後に留学生として日本に来日するのであった。

 その頃、シベリア帝政国ではロンドンに亡命していたパーヴェル・ミリュコーフと同じくヨーロッパに亡命していたアレクサンドル・グチコフを新たに閣僚として迎えていた。


「皇帝陛下、我々を受け入れて宜しいのですかな? 特に私はツァーリズムを批判しておりました」

「それは昔の事だ。ロマノフの血筋を絶やす事をしなければ私は何でも受け入れる」

「……変わられましたな皇帝陛下」

「なに、時代が変われば変わるものだ」

「……分かりました。シベリア帝政国の礎を築きましょう」


 シベリア帝政国はパーヴェル・ミリュコーフとアレクサンドル・グチコフを受け入れた事によりカデット(立憲民主党)の人員の多くがシベリア帝政国へ亡命してシベリア帝政国は立憲君主制の道へ歩みとなる。

 そして視点はドイツ国内になる。1920年六月、この頃のドイツは第一次世界大戦の敗北で1320億金マルクという途方もない賠償金の支払いが課せられた。戦費負担等で痛手を被っていたドイツには支払い能力を遥かに上回っていた。そんなドイツ国内に複数の日本人が技術者を求めて駆け回っていた。


「日本に?」

「はい、我が日本は技術向上の目的で日本への技術者の招致をしております。特に艦艇建造に携わった工員や航空機製造に携わった工員です」

「確かに俺は艦艇建造の工員だったが……」

「どうでしょうか? 短くて二年、長くて五年は日本で指導等をしてもらいたいのです。一月の給料はこれほどです」

「うーん……」

「あぁ、別に今すぐとは言いません。いきなりの事ですからね。もし、日本に来てくださる決心が付いたのであれば日本の大使館に連絡してください」

「はぁ、分かりました」

「それではこの辺で」


 スーツを着た日本人はそう言ってその場を後にするのであった。


「ふぅ。まさか外国まで来て商売人の真似をするとは……」


 大使館の職員はそう言いながら次の目的地へ赴くのだった。






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