第四話
旅順口攻撃から始まった日露戦争。これと並行するように同日、陸軍先遣部隊の第十二師団木越旅団が海軍の第四戦隊(旗艦浪速、高千穂、明石、新高)、第九艇隊及び第十四艇隊の水雷艇八隻が護衛して仁川に上陸する任務を携えていた。
そして史実通りに仁川沖海戦が勃発した。違う事と言えば、今回は装甲巡洋艦浅間は参戦していなかった。
「砲撃開始!!」
「撃ちぃ方始めェ!!」
浪速の安式四十口径十五.二サンチ単装速射砲(四十口径か四五口径だが此処では四十口径に統一)が砲撃を始めて砲撃戦を展開した。
高千穂、明石、新高、合流した千代田も砲撃を開始して防護巡洋艦ヴァリャーグと航洋砲艦コレーエツに至近弾を叩き込む。無数の水柱がヴァリャーグとコレーエツを包むが二隻は無傷で二隻も砲撃を開始する。
「アゴーニ!!」
ヴァリャーグも1892年型十五.二サンチ単装速射砲で浪速の周囲に水柱を噴き上げさせた。
しかし、二隻での反撃は乏しくヴァリャーグに八発が命中して炎上。炎上しているヴァリャーグを視認したコレーエツの艦長は楯になろうとヴァリャーグと瓜生艦隊の間に出た。
新高と千代田はコレーエツに照準を合わせて砲撃を集中させた。十一発の命中弾を浴びたコレーエツは大破、コレーエツの艦長は弾薬庫に爆破を命令してコレーエツは自沈した。
「……これまでだな。艦を自沈させる」
ヴァリャーグの艦長であるフセヴォロド・ルードネフ大佐は部下に命じてコレーエツ同様に弾薬庫を爆破して自沈したのであった。
「……予想外過ぎる程の戦果でごわす」
聯合艦隊旗艦三笠の長官室で東郷はそう呟いた。特に旅順口攻撃で二隻の戦艦(ツェサレーヴィチ、レトヴィザン)を座礁擱座して長期に渡る戦線離脱は海軍にとって幸先が良かった。
この戦果で旅順艦隊の戦艦は五隻となった。
「……これからが問題でごわす。旅順艦隊もそうであるがウラジオストク艦隊……」
開戦前に山本大臣からの厳命で第二艦隊を二分してウラジオストク艦隊に備える事に聯合艦隊司令部は少々混乱した。
東郷は山本と面会して三好の事を聞いていた。東郷も「大臣は可笑しくなったのか?」と思ったが初戦の戦果に東郷は三好をとりあえず信用する事にした。
「三好が主張する歴史は変えなくてはな……」
東郷はそう呟くのであった。そして二月十日、日本からロシヤに宣戦布告がなされた。
そして翌日の二月十一日、津軽海峡付近をウラジオストク艦隊が航行していた。
ウラジオストク艦隊は二月九日に開戦の報告が届くと砕氷艦の助けを得てウラジオストクから出撃した。
ニコライ・レイツェンシュテイン大佐が指揮官で装甲巡洋艦ロシヤ、グロモボーイ、リューリク、防護巡洋艦ボガトィーリの四隻が参加していた。
目的は日本の海上交通路での通商破壊戦である。ウラジオストク艦隊は旅順艦隊を支援するため津軽海峡へと向かったのだ。
しかし、ウラジオストク艦隊は津軽海峡を目前にして捕捉された。
「右舷に敵艦隊!!」
「ヤポンスキーめ、我々の行動を知っていたか!!」
旗艦ロシヤでレイツェンシュテイン大佐はそう叫んだ。この時、ウラジオストク艦隊の前に現れたのは第二戦隊第二小隊の八雲、浅間、常磐である。
「全艦砲撃開始せよ!! ヤポンスキーの艦艇を沈めるのだ!!」
「アゴーニ!!」
レイツェンシュテイン大佐は砲撃命令を下した。しかし、これはレイツェンシュテイン大佐のミスであった。第二小隊と遭遇した時点でレイツェンシュテイン大佐は反転させてウラジオストクに逃げるべきだった。
「奴等逃げずに立ち向かうようですな」
「宜しい。ならば砲撃開始せよ」
「撃ちぃ方始めェ!!」
八雲に座乗していた第三艦隊司令長官の片岡中将は砲撃を命令。三隻はそれぞれの二十.三サンチ連装砲に砲弾を装填して射撃を開始した。
「時化ていますな」
「……波高しだな」
片岡中将と参謀長の中村大佐はそう話していた。時化ていれば喫水線の穿孔から浸水が起きる。結果的に沈没しやすくなるのだ。
「何としても撃沈させるのだ。あの艦隊を逃がしてはならん!!」
第二戦隊第二小隊は同航戦をとり、距離八千二百で猛烈な砲撃戦を展開した。
そして砲撃開始してから二四分が経った時、浅間が放った二十.三サンチ砲弾が防護巡洋艦ボガトィーリに命中した。
「防護巡洋艦に命中させたぞ!! 俺達も負けるな!!」
「目標敵一番艦、撃ェ!!」
ボガトィーリの命中弾は日本艦隊を勢いづかせた。そしてそれに呼応するかのように八雲の十五サンチ単装砲弾がロシヤに命中した。
「距離を詰めろ!! もっと近づくのだ!!」
片岡中将はそう命令して第二小隊は距離八千二百から六千八百まで近づこうとした。
「ヤポンスキーめ、勢いを増してきたか。だが数は此方が上だ」
レイツェンシュテイン大佐はそう呟いたが、見張りの水兵の報告に顔を青ざめさせた。
「艦隊正面及び右四十度から複数の艦艇を発見!!」
「何!?」
その艦隊は第三艦隊の所属艦艇だった。正面に現れたのは日清戦争時に黄海海戦で活躍した松島型防護巡洋艦の松島、厳島、橋立であった。そして右四十度に現れたのは日清戦争で日本軍に捕獲された二等戦艦鎮遠と第六戦隊の和泉と須磨、第十艇隊だった。
「……まさか……謀られていたのか!?」
レイツェンシュテイン大佐は唖然としていた。
「大佐、指示を!!」
部下はレイツェンシュテイン大佐に指示を乞うが大佐自身もどうするべきか分からなかった。
「(どうすればいい……誰か教えてくれ!!)」
「漸く三二サンチ砲が真の意味で発揮されそうだな」
厳島の艦橋で成田大佐はそう呟いた。
「砲撃準備完了!!」
「距離は?」
「一万二千!!」
「最大射程距離だが……まぁ良い。撃ちぃ方始めェ!!」
「撃ェ!!」
厳島の三二サンチ砲が火を噴いた。ウラジオストク艦隊と向き合う形なので砲搭を旋回させなくていい。寧ろ旋回させて撃てば転覆する可能性もあった。
そのため三突のように固定砲で撃つ事にしたのである。
「弾ちゃーく、今!!」
三二サンチ砲弾はロシヤの右舷に水柱と吹き上がらせた。
「装填急げェ!!」
「橋立に修正を伝えろ」
厳島が砲弾を装填する中、修正を伝えられた橋立が三二サンチ砲を放つ。
この砲弾も外れて水柱を吹き上がらせた。しかし、別の砲弾がロシヤに命中した。
「今の砲撃はどの艦だ!?」
「鎮遠の砲撃です!!」
二隻の防護巡洋艦と水雷艇を率いていた鎮遠の三十.五サンチ砲弾がロシヤに命中したのである。
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